映画『ジャパニーズスタイル』ネタバレ感想|大晦日の横浜をトゥクトゥクで駆け抜けて

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こんにちは。織田(@eigakatsudou)です。

今回は2022年公開の映画『ジャパニーズスタイル/Japanese Style』をご紹介します。

アベラヒデノブ監督のもと、主演の吉村界人さん武田梨奈さんが企画から参画した映画となっています。

舞台は12月31日。大晦日ならではの“年じまい”が迫る主人公二人の物語でした。



あらすじ紹介

2019年の大みそか。巨大な絵を完成させようとする男(吉村界人)と、袋とじをきれいに開ける特技を持つ女(武田梨奈)が空港で偶然出会う。それぞれにやり残したことを抱える二人は互いの目的を果たすため、年越しでにぎわう横浜の街をトゥクトゥク(タイの三輪タクシー)に乗って巡ることにする。その道中で二人は惹(ひ)かれ合い、そして互いの秘めた過去が浮かび上がってくる。

出典:シネマトゥデイ

スタッフ、キャスト

監督・脚本 アベラヒデノブ
絵描きの男 吉村界人
リン 武田梨奈
ドライバー フェルナンデス直行
千花 田中佐季
この後、本記事はネタバレ部分に入ります。映画をまだご覧になっていない方はご注意ください。



ジャパニーズスタイルとは何か

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

横浜の写真

横浜 筆者撮影

この映画の題名にもなっている「ジャパニーズスタイル」とは何か。

これは雑誌の「袋とじ」の英訳として用いられている単語から着想されたタイトルです。
翻訳に「袋とじ」をかけるとdouble-leavedとか、covered bindingとかになるのでスラングっぽい言葉なのかもしれません。(Chinese Styleといわれることもあるそうです)

映画『ジャパニーズスタイル』では、袋とじページを綺麗に開封できる特技を持つリン(武田梨奈)がトゥクトゥク運転手のフェルさん(フェルナンデス直行)の雑誌をハサミでチョキチョキしているシーンが印象的に描かれています。

余談ですが週刊誌を題材にした映画『SCOOP!』に主演した福山雅治さんは「袋とじをきれいに開けるのは僕の特殊技能のひとつ」とFLASHのインタビューで話しています。福山さんの場合はハサミを使わずに開けるそうです。笑

Smart FLASH 福山雅治「袋とじをきれいに開けるのは僕の特殊技能のひとつ」

雑誌の袋とじの中は、開いてからのお楽しみです。
転じて、外からは見えないマル秘なニュアンス。この映画では、人々が内包するジャパニーズスタイル=袋とじ=秘密に焦点を当てつつ、年末(+年始)という時期設定から呼び起こされる日本的な行動を描いていきました。

また頻繁に挿入される和装シーンも、ジャパニーズスタイルという単語の一種の発現手法だったはずです。

大晦日の過ごし方

なぜ年末年始がジャパニーズスタイルかというと、年末年始の過ごし方に特定の「型」があるからです。

クリスマスが終わったら大掃除をして、人に会えば「良いお年を」と言って、帰省して、大晦日は紅白を見て、年越しそばを食べて、カウントダウンで新年を迎えて、おせちを食べて初詣をして、っていう年末年始を迎える方は少なくないはずです。

もちろん外国でも家族と一緒に新年を迎える国はありますし、カウントダウンイベントで大々的に盛り上がる国もたくさんあります。だから日本特有の、というよりは昔からの慣習文化であるという理由の方が「ジャパニーズスタイル」に沿った意となりそうです。

型と清算

映画『ジャパニーズスタイル』に出てくる吉村界人武田梨奈の二人は先述した「型」通りの年末を過ごしているわけではありません。実家へ帰省したりもしません。

一方で吉村界人には「もういくつ寝ると〜お正月〜」の歌がぐるぐるとついて回りますし、武田梨奈のリンも紅白とか蕎麦、カウントダウンとかの単語を使いながら「普通の年越し」へのこだわりを見せていました。実際二人は年越し蕎麦を啜っていますし、カップ麺つながりで言えばスケート場でカップラーメンを食べていたのも冬の風物詩の「型」的に感じます。

それ以上に意志を感じたのが、年末に伴う「清算」です。やり残したことにケリをつけて新年を迎えましょうという部分ですね。

忙しなさ

トゥクトゥクの写真

タイのトゥクトゥク(出典:Pixabay)

終わらせたい、終わらせなきゃいけないという思いから、吉村界人と武田梨奈は大晦日の羽田〜横浜をトゥクトゥクで駆け回ります。「袋とじ」の秘密を携えながら。

この映画はトゥクトゥクに乗ったロードムービーというのがとても新鮮で良いですよね。

去年東南アジアに行った時初めて乗ったんですが、車よりは遅く、原付よりは速いトゥクトゥク。今回二人が乗り込むフェルさんの「TOKYO TUKTUK」は私が乗ったものより一回り小さいもので、運転手とも乗車中にコミュニケーションがとれるサイズでした。

一方で、二人が疾走する横浜はすでにお休みモードに突入しており、中華街も年末年始で閉まっているところばかりです。
絵描きの男(吉村界人)の旧友であるカップル(日高七海三浦貴大)は「“大晦日に急ぐ”とかウケた」「年末は休め!」と笑う始末。

基本この映画での吉村界人と武田梨奈は、せわしないんですよ。
終わらせなきゃ、自分を変えなきゃと焦り、でもどうしたらいいのかが見つからない。

時制的には新年が迫ってきていて、そのことも“締め切り”感を補強しています。大晦日はゆっくり休むための12月31日ではない。熱量と良い意味でのわちゃわちゃ感がすごい映画でした。

特別な一日

横浜の写真

横浜 筆者撮影

羽田空港で出会って、(絵描きの男目線で言えば)その瞳に惹かれて、一日をともに行動することになり、さまざまな場所をトゥクトゥクでめぐり、次第に口調は敬語からタメ口へと変わり、秘密を共有し、秘密が明らかになる。

凄く、物凄く濃度の高い、特濃な一日です。

今まで接点のなかった二人が偶然出会い、行動をともにしてお互いを知っていく。運命的、ドラマチックですらあります。

でもその一日が大晦日であったことで、吉村界人と武田梨奈は少なからず12月31日の“終わらせなきゃ感”に翻弄されています。走り続けています。二人の距離を縮めるための立ち止まりはほとんどありません。

一方で進みたいのに進めない停滞感みたいなものも確かに存在していました。これは終わらせようとする二人が“もがく”部分になります。

12月31日

日本のカレンダーにおいて月日が特定の意味を持つのって、そんな多くないと思います。
言い換えれば、その日が何の日かっていうことです。

1月1日、2月14日、3月14日、12月24日(25日)、12月31日くらいじゃないでしょうか?

例えば、二人が出会ったのがもし12月26日だったら違う趣になったはずなんですよ。二人は“今日”の楽しさだけを追求して、過去の清算や未来(新年)への意識から解放されていたんじゃないかなと。
年末っていう時期は印象に残ったかもしれませんが、大晦日の一日ほど追われる感、急かされている感はなかったはずです。

でも『ジャパニーズスタイル』では終わりと始まりが迫る12月31日ならではの使命があったし、周りの空気感は実にまったりとしたものでした。年末年始ってドラマとの親和性があまり高くないのではと思わされます。

映画内の二人は劇的な邂逅から羽田〜横浜を駆け抜けるように回りました。互いの秘密を発露し、さまざまな新しい発見・体験をしました。繰り返しますがとっても濃い一日、年が明けた翌日を含めれば二日です。

こういう物凄い起伏がある日って、人生においてあると思うんですね。

それがきっかけで大切な関係を築くこともあるし、本当にその日一日だけの関係で完了することもあると思います。

けれどその起伏の激しい一日が大晦日にやってきたっていうのがこの映画は面白いです。(これは上映時に配布されたパンフレット内で出演者の方も言及していました)

本記事では触れませんでしたが、「ジャパニーズスタイル」のタイトルにもある文字通り「日本人」としての存在も映画では印象的に描かれています。
また終盤には、この国に居住していることに付随したリンの表現があり、それは心の重石を軽くしてくれるようで救われました。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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『ジャパニーズスタイル』監督のアベラヒデノブが主演。自主映画監督の「サワダ」を演じています。この主人公は夢に溢れ、一方で夢に溢れすぎてもいるのがとても印象的。とても説得力のあるストーリーで、「映画を撮る映画」として素晴らしい作品だと思います。

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