映画『スマホを落としただけなのに』〜いいね!は押せませんでした〜

11月に公開された『スマホを落としただけなのに』を鑑賞しました。

2018年、中田秀夫監督。主演は北川景子。

TOHOシネマズで観ましたが、NO!映画泥棒のコマーシャルが流れた後に、Google HOMEのCMが流れました。「オーケーGoogle、電気消して!」の声と同時に場内が完全消灯し、映画が始まりました。
Google、手が込んでいます。

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もしもスマホを落としたら

この作品は予告編がかなりインパクトがあり、公開前から楽しみにしていました。

富田(田中圭)がタクシーにスマートフォンを忘れたことにより、彼の個人情報、さらに恋人の麻美(北川景子)のプライバシーまでが悪い人の手に渡ってしまいます。

(C)2018映画「スマホを落としただけなのに」製作委員会

出典:映画.com

このポスターは実に秀逸。
10年前のガラケーでも、落とせばアドレス帳に紐づけられた個人情報(誕生日や住所を入れている人もいましたね)や画像フォルダ、mixiなどのSNSの情報が取られる恐れがありました。

でも現代のスマホと決定的に違うのは、ガラケーではクレジットの決済や個人情報の詰まったオンラインサイトにアクセスできなかったということです。

僕もあらゆる料金の決済をカードで行い、いろいろなサイトのIDとパスワードをiPhoneに詰め込んでいます。
クレジットカードも銀行もネットショッピングの購入情報も。

スマホは、自分以上に自分の行動を細かく記録し、知っている存在です。
個人情報のカタマリ。それがスマートフォン時代。

本作『スマホを落としただけなのに』は、現代ならではの誰にでも起きうる事象を映像として描いた点でとても期待していました。
原作は読んでいないのであくまでも映画を観た感想ですが、良かった点と今ひとつだった点を挙げていきます。

富田の携帯に電話をかける麻美(C)2018映画「スマホを落としただけなのに」製作委員会

出典:映画.com

SNSなんてやらなきゃ良かった

「スマホを落としただけ」で、こんなにも個人情報が溢れ出てしまう描写は期待以上でした。

本作ではfacebookを模したSNSがメインで描かれていましたが、麻美(北川景子)はSNSをあまりやっていません。

facebook風のサービスにも登録してあるだけ状態。親友の加奈子(高橋メアリージュン)に勧められて、冬眠状態のアカウントを復活させます。

SNSはちょっと…という人間がソーシャルネットワークの海に戻って行く過程は本当にリアルでした。

僕は退会してしまったので今のfacebookがどんな使われ方をされているのかわかりませんが、本作品のfacebook風SNSは実際のInstagramに近いものに見えました。

美味しいものが映えるように写真を上げて、「いいね」の獲得で自己の承認欲求を満たす。
繋がっている「友だち」に自らをアピールする。あるいはその「友だち」が自らに近づいてくる。自分の意思とは違っても。

ウイルスに感染させられたスマホを浦野(成田凌)に復旧してもらう2人(C)2018映画「スマホを落としただけなのに」製作委員会

出典:映画.com

富田(田中圭)の携帯を拾ったハッカーは、麻美や富田のパスワードをいとも簡単に入手します。パスワードに誕生日を設定する方も甘いですが、本名や誕生日を簡単に割り出せるだけの情報がスマホやネット上に溢れているというのも恐ろしい…

金銭的な被害、名誉毀損

ハッカーは富田のクレジットカード番号を入手し、彼のカードで高額なモノを買って転売します。いわゆるカード詐欺です。

クレジットカードの番号とPINコードの悪用は、ダミーのサイトを作って打ち込みを誘導するんですね。

最初の餌のまき方も実に周到。ここでも例のfacebook風SNSを上手く使って近づいてきます。SNSの「友だちかも?」は「友だちじゃないかも」を包含していると考えないといけません。大学の友達の友達なんてまず他人ですからね。

富田は麻美よりもSNSを利用している印象です(C)2018映画「スマホを落としただけなのに」製作委員会

出典:映画.com

さらに本作ではSNSのアカウントの乗っ取り、なりすましによって、主人公の人間関係にヒビを入れていくハッカーの鬼畜ぶりが細かく描かれています。
名誉毀損で訴えられかねないレベルにまで達していて手口はかなりエグいんですが、SNSを実名で使っているとこういうことが起きるよという警鐘を鳴らしている気がします。

自分がスマホを落としたら。

いったいどれだけの個人情報が流出し、周りにもどれだけの迷惑がかかるのかと思うとゾッとします…。

ハッカーの手口に関する描写については、刑事を演じた千葉雄大のキャラクターが功を奏していました。原作にはいなかった役のようですが、ネット犯罪に詳しい彼の存在は、視聴者に説明する大事な役割を担っていましたね。

ここから作品の展開や演出についてネタバレを含んで書いていきます。
未見の人はご容赦ください。



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殺人事件が絡んだことで散漫に

原田泰造は有能刑事でしたが、作品に必要だったかといわれると疑問が(C)2018映画「スマホを落としただけなのに」製作委員会

出典:映画.com

トータルで見るとこの映画は残念でした。
前述したように「スマホを落とし、個人情報を抜き取られる」という誰にでも起こりうるリスクが、本作の醍醐味だと思います。

原作を読んでいないため、あくまで映画を観た印象ですが、結局伝えたかったことは何なの?という話。

スマホデータ悪用に伴う恐ろしい部分にフォーカスすれば良かったんです。
犯人のハッカーがとある性的嗜好に基づいた犯罪者であること。重なる残虐な事件。

なぜ麻美がストーキングの標的になったのか?という点を説明するためには、連続殺人事件をモチーフにする意味はあったのかもしれませんが、ハッカーの殺人者としての側面を描く必要性は感じませんでした。

私、失敗しないので

麻美や富田の行動をつぶさに観察し、先んじて嵌めようとするハッカーの執念は見事です。相当な時間と情熱を持ち得ないと、ここまではできません。

犯人の狙いは富田ではなく、麻美では?と提言する浦野(C)2018映画「スマホを落としただけなのに」製作委員会

出典:映画.com

だからこそ、犯人が明らかになってから彼の手口を細かく明かしてほしかった。
電話の盗聴やLINEの監視、位置情報の管理だけで、あそこまで彼ら2人の行動を予測することは本当にできるのか。一つうまくいかなかった場合は、どんな次の手があったのか。

この映画で犯人が失敗したシーンはパスワードの入力くらいで、アカウントのなりすましや乗っ取りなどにおいては、全てパーフェクトに進んでいました。

例えば、家庭教師時代の教え子・千尋(筧美和子)と富田の写真を麻美に送りつけた後に、麻美と富田の間でどういうやり取りがあったのかは、ハッカーは知らないはずです。
部屋に盗聴でも仕掛けていない限り。

浮気疑惑を巡り麻美と富田の間には不信感が…(C)2018映画「スマホを落としただけなのに」製作委員会

出典:映画.com

ハッカーの目論見通り麻美は富田に不信感を抱き、2人の関係に亀裂が入りました。でも、もし麻美が全く気にしていなかった場合、あるいは千尋と富田の飲み屋での写真を送りつけられた麻美が冷静に対処していたら、どうだったでしょうか。

完璧にトラップを遂行していったからこそ、犯人側の次の手が知りたかったなと思いました。僕たちが今後ハッカーから自分の身を守る上でも。

操作音は決定的な凡ミス

気になったことがもう一つ。

この作品の主役はあくまでもスマートフォンです。スマホがあるから出来ること、スマホをなくして失うもの。

繰り返しますが、僕がこの作品に求めていたのは、スマホを使う誰にでも起きうる普遍性でした。

しかし、登場人物たちは操作音を鳴らしながらスマートフォンを使います。
これは本当に凡ミス。

30歳そこそこで、タップ音や電子音を鳴らしながらスマホを使っている人を見たことがありますか?
スマホを題材にした映画でこの演出をされると、何だか一気に冷めてしまいました。

キャラクターたちの画面操作もあまり現実に即していませんでした。スワイプやタップをしていることをわかりやすくするためでしょうが、一つ一つの動作をあんなにゆっくりしてたらとてもタイムラインを追うことはできないでしょう。

プラネタリウムで麻美が「スマホは宝箱なんだよ」と説くシーンも蛇足。
それよりもスマホに依存した現代人の生活を描くことが大事だったのではないでしょうか。ちなみに最後のプラネタリウムで、足の大怪我を負ったはずの富田が普通にピンピンしているのは相当違和感がありました。

作り方によってはかなり突き刺さる作品に仕上げられたはずだけに、残念な部分が目立ちました。

SNSも男女関係も異常性癖もサスペンスもミステリーも人物のすり替わりも、とあらゆるものを詰め込んで内容が薄くなってしまった気がします。
スマホを落としたらどんな恐ろしいことが待っているのかということを知れただけで良しとしましょう。

★★☆☆☆。

北川景子主演の『ルームメイト』の方が、サスペンスとして上出来でした。
設定として似ている部分もあるので、美しき恐怖を味わいたい方はどうぞ。

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