映画『mellow』ネタバレ感想|その気持ち、伝えますか?今泉監督の描く「好き」

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こんにちは。織田です。

今回は2020年公開の映画『mellow』をご紹介します。

今泉力哉監督。主演は田中圭さん

フラワーショップとラーメン店。二つのお店を舞台に咲いていく、人々の片想いの花。
実に今泉監督らしさあふれる恋の映画でした!

本記事では、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。



あらすじ紹介

生花店「mellow」の店主として大好きな花を扱う仕事をしている夏目誠一(田中圭)は、独身で恋人もいなかったが、ラーメン屋主人の木帆(岡崎紗絵)や、夏目に憧れのまなざしを向ける中学生の宏美(志田彩良)たちに囲まれながら平穏な毎日を送っていた。ある日夏目は、常連客の人妻・麻里子(ともさかりえ)から、彼女の夫がいる席で「好きです」と告げられる。

出典:シネマトゥデイ

スタッフ、キャスト

監督・脚本 今泉力哉
夏目誠一 田中圭
古川木帆 岡崎紗絵
木帆の父 小市慢太郎
原田さほ 白鳥玉季
浅井宏美 志田彩良
水野陽子 松木エレナ
佐藤ゆいこ 竹中涼乃
川上優 山下健二郎
武田恭子 新井郁
青木麻里子 ともさかりえ
青木修二 斉藤陽一郎

夏目(田中圭)は街で一番おしゃれな花屋「mellow」を営む独身男性。彼女なし。

夏目の得意先の美容院の娘である中3の宏美(志田彩良)、宏美の部活の後輩・陽子(松木エレナ)佐藤(竹中涼乃)、夏目の姪にあたる小学生のさほ(白鳥玉季)、また夏目が通うラーメン屋の店主・木帆(岡崎紗絵)といった面々がメインで物語が動いていきます。

ともさかりえ、斉藤陽一郎が演じた青木夫妻も、夏目が花を届ける得意先のおうちです。

ですので基本的に夏目が知っている、町の顔馴染みの人間を軸に物語が進んでいきます。
様々な立場の人たちの想いが描かれますが、夏目の半径内で起きていることなので唐突感はありませんでした。

この後、本記事はネタバレ部分に入ります。映画をまだご覧になっていない方はご注意ください。



今泉監督と恋愛映画

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

 

今回ご紹介する『mellow』。

実は全くスタッフやキャストの前情報を入れずに鑑賞したのですが、観ているうちに「今泉監督の映画っぽいな」と感じたんですね。
映画が進んで行くと、その「っぽさ」は予感から確信へと変わりました。

今泉監督らしさとはどんなところでしょうか。

「好き」を伝える意味

今泉力哉監督の映画で印象的なのは「好き」という想いを丁寧に表現する点です。

公式サイトでも“恋愛映画の旗手”として今泉監督は紹介されていますが、「恋愛」において、「好き(だという想い)」を秘める人々、また「好き」ってどういうことかといった概念的な部分を優しく表現する監督だと思うんですよね。

例えば『サッドティー』(2014)では「好きってどういうこと?」かを多種多様な人々を描写することで考察し、『愛がなんだ』(2019)では主人公の山田テルコ(岸井ゆきの)たちを通して「好き」の形をどのように表現するかをあぶり出しました。

また『街の上で』(2021)で言えば、「好き」と言葉に出して伝えることの重要性を教えてくれます。

ここで挙げた今泉監督の作品は記事の最後にまとめてご紹介しています。

「恋愛」とは、好意が芽生えて、その好意がどんどん育っていって、爆発しそうに思い悩んで、想いを伝えて、相手と恋愛関係になる/ならない、っていう段階がありますよね。

その段階にあって、『mellow』想いを伝えることの必要性にフォーカスした映画だと思っています。
「好き」を伝えることで生じる痛みやリスクは確かにある、でもやっぱり想いは伝えるべきだよねということを知ることのできる映画です。

なぜ伝えるのか

mellowの登場人物たち

mellowに出てくる登場人物たち

『mellow』では夏目(田中圭)の周りの、様々な人たちの「好き」が描かれています。

  • 陽子の、宏美への想い
  • 佐藤の、宏美への想い
  • 麻里子の、夏目への想い
  • そんな麻里子への、夫・修二の想い
  • ラーメン屋で別れ話をする川上と武田
  • 宏美の、夏目への想い
  • 木帆の、夏目への想い
  • 夏目の、木帆への想い

夏目からの木帆(岡崎紗絵)への矢印は上の画像で入れませんでしたが、いくつもの「好き」が言葉として『mellow』の舞台に咲いていきます。

「自分の気持ちに嘘はつけない」と言っていた麻里子(ともさかりえ)をはじめ、人々は自分の気持ちに素直になって想いを伝えていきました。

バスケ部の先輩の宏美(志田彩良)に想いを寄せていた陽子(松木エレナ)佐藤(竹中涼乃)は特に勇気を振り絞った様子がうかがえました。告白の成否によって、同じ部活で築き上げてきた関係性が壊れるリスクもあります。

ちなみに佐藤、スズモト、クリタと部員が苗字呼びされていましたが、あのへん部活のリアリティ感じて好きです。

一方で、ラーメン屋で別れ話を切り出した無職の川上さん(山下健二郎)みたいに、想いを伝えることはエゴでもあります。

「何でお互い好きなのに別れなきゃいけないの?」
「武田さんといても苦しいんだよ。武田さんの人生ダメにしてるようで。今は一人になりたい。一人になって自分の人生考えたい。ダメかな?」

「ダメかな?」って言った彼を見て「いやダメっしょ」と思わず口に出してしまいました…

木帆なんかは特にエゴの部分を懸念していて、夏目に自分の想いを伝えることは自己満足なのではないか、またこれから留学に行って離れるから伝えるのは違うのではないか、という点を危惧していましたね。

後悔したくないから、ではない

ただそんな木帆も友人の弘子(SUMIRE)から背中を押され、夏目に「好き」を伝えることを決意しました。

恋愛のメソッド的なところで言うと、弘子さんの言葉にはこの作品で一番大事な部分が含まれていたと思います。

「なかったことにしたくないって言うか。その気持ちを」
「じゃあその気持ちは誰が知るの?」

『mellow』で好きなのは、「好きを伝える理由」が“その気持ち”に素直でありたいという部分なんですよね。
具体的にいうと、「後悔したくないから」じゃないんです。「後悔」っていう文脈はこの映画には出てきません。

自分自身にとっての過去の「想いを伝える」を振り返っても、そこに「後悔したくないから」という理由はなかったんですよね。

もしも伝えなかったとして、それに伴う痛みを想像するのが“後悔する自分”なのか、“想いを知ることのできなかった相手”なのか。
どちらに思いを馳せるかで「伝える」までの心の運び方は変わってくるはずです。

麻里子(ともさかりえ)修二(斉藤陽一郎)の青木夫妻のエピソードとか、特にそうだと思うんですよ。

夫ではなくて夏目に気持ちが向いてしまう自分を、麻里子は罪だと認識していました。夫にそれを隠したままで夏目に想いを伝えることは「失礼」だと考えました。

だからまず修二に自分の気持ちを伝えた上で判断を仰ぎ、彼の後押しを受けた上で、夏目に「好きです」と告白したわけです。

ただそんな麻里子の思いなど知らない夏目にとっては寝耳に水です。麻里子とは浮気はおろか、友達関係ですらありません。いきなり修羅場に追い込まれます。夏目は旦那さんのいる前で状況的におかしくないですか、と麻里子を責めます。

けれど修二は麻里子が罪を告白したことの痛み、またそれを受け止めた自分の痛み、夏目への「好きです」に行き着くまで二人で刻んだ痛みを知っているからこそ、そんな言い方はあんまりだ、失礼だと、夏目を逆に非難しました。

結果的に3人とも傷ついてしまうシーンでしたが、それぞれのとった行動は理解できます。

強いて言えば、「ありがとう。でもごめんね」を夏目が言えなかったことで麻里子の気持ちは「なかったもの」にされざるを得なかったのが問題とは思いますが、いきなり好きですと言われて自分の気持ちを整理する時間もないまま追い込まれた彼の状況を考えると仕方ない気もします。

「ちゃんと想いを伝える」必要性は、告白される側にも言えることなんですよね。相手にいかに真摯に向き合うかということです。

陽子と宏美、佐藤と宏美、宏美と夏目、また夏目の過去の告白に代表される「ありがとう、でもごめんね」。相手の本気を受け止めて本気で返事をする、それが「気持ちを伝える」っていうことだと思います。

このあたりは『町田くんの世界』でも非常に良いシーンがありました。



印象に残ったシーン

もう一つとても印象的なシーンがあったので紹介します。

父から引き継いだラーメン屋を畳むことを決意した木帆(岡崎紗絵)。
閉店の告知をしないつもりでいた彼女に、夏目は「張り紙とかしないんですか?」と尋ねます。

それに対し、木帆はこう主張します。

情じゃダメかな?

(木帆)
「終わるのがわかってるから来る人の気持ちって、所詮その程度っていうか。もうすぐ死ぬ人のお見舞いとか。なくなっちゃう映画館に通うとか」

「それって相手のためってより自分のためですよね。最後に自分がそこに行ったとか、その人に会えたとか、そういうのが大事なんでしょ。それって愛情じゃなくて情じゃないですか?下手したら同情でしょ」

終わる「から」やって来るであろうお客さんへの木帆の持論です。
そんな彼女に夏目は「情じゃダメかな?」と訊き、どんな契機であってもそこにやって来てくれる「情」は自分なら嬉しいと諭しました。
ここで言ってる「情(じょう)」は「情け」と同じですね。

ここで思い出すのが『浜の朝日の嘘つきどもと』(2021)です。

『浜の朝日の嘘つきどもと』は閉館が決まった映画館を存続できないか奔走する映画でしたが、その中で「解体するって言ってから惜しまれてもねェ」って言葉が出てくるんですよね。

これは『mellow』で木帆が言っていた「なくなっちゃう映画館」の話そのものなんですけど、私自身も木帆と同じ考えなんですよね。
閉める「から」、「最後だから」足を運ぶのって所詮その程度なんじゃないの、と。本当にその「場」を愛しているなら、そこへ行くのは閉店するからっていう理由ではないと思うんですね。

けれど同じように店(花屋)を経営する自分は夏目は「情じゃダメかな?」と返し、「情」なのは承知の上で、それでも来てくれるなら嬉しいと受け入れているわけです。

このくだりは、常連とそれ以外、ガチ勢とにわか、みたいに区切りをつけてしまいがちな考え方に一石を投じているようでとても印象に残りました。

ピンクのバラ

ラストシーンで夏目は、想いを伝えてくれた木帆のもとへ花束を抱えて向かいます。

ラストカットは想像通りすぎて、もう満点でした!

花束は薄いピンクと白のバラが主だったと思うんですが、その前に届けていた赤いバラではなく、薄い色のバラだったことに何か意味はあったのでしょうか。

バラの花言葉は色や本数によってその意味が異なります。

赤いバラであれば「愛しています」、「情熱」といった情熱的なラブを表現するもの。
ピンクのバラは「上品」、「感謝」、「かわいい人」など。
白いバラは「純潔」、「尊敬」などです。

赤いバラの花束というのは、お付き合いしているパートナーへのプロポーズや、結婚記念日とかのプレゼントで送られることが多いんですよね。なので木帆と夏目の現在の関係では一足飛びというか、時期尚早です。

陽子が宏美に向けた花束を選ぶ際に夏目は「その人をイメージした色」とアドバイスしていたように、そこまで花言葉は気にする必要はないのかもしれません。
でも夏目はお花屋さんで当然花の持つ意味も知っていると考えると、木帆に持っていった柔らかい色合いのブーケには、彼なりの感謝や祝福が込められていたのではと思いました。

 

蛇足になりますが、この映画で一番人々の恋慕を客観的に目にしていたのは夏目の姪に当たるさほ(白鳥玉季)です。

木帆の気持ちにも、夏目の気持ちにも、恐らくは花屋に訪れた宏美の気持ちにも気づいていたであろう彼女。

さほがこの先どんな人を好きになって「その気持ち」を伝えるのか。
「mellow」でお花を買って想いを伝える日が来るのか。

そんな未来を想像するとまた、ほっこりした気持ちになります。
今泉監督らしい優しさ、「好き」を胸に秘める人への後押しが込められた良い映画でした。

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最後に、映画『mellow』の作品情報についてはMIHOシネマさんの記事であらすじ・感想・評判などがネタバレありで紹介されています。鑑賞済みの方は、是非ご覧になってみてください!

最後までお読みいただき、ありがとうございました。