映画『左様なら』ネタバレ感想|『桐島』に匹敵。教室内のポジション描写は圧巻

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こんにちは。織田(@eigakatsudou)です。

今回は2018年公開の映画『左様なら』の感想をご紹介します。

石橋夕帆監督、主演は芋生悠さん祷キララさん

海辺の高校を舞台にしており、主人公の由紀(芋生悠)を軸に物語が進んでいきますが、彼女だけではなくクラスの一人一人をほぼ余すことなく描いています。青春群像劇と言っても過言ではないですし、観た人それぞれの心に残る登場人物がきっといるはずです。

本記事では『左様なら』が描き出す教室内のグループや、私が最も印象に残った河野愛美(夏目志乃)という生徒について感想を書いていきます。

感想部分では作品のネタバレや展開に触れていきますので、未見の方はご注意ください。



あらすじ紹介

海辺の町に暮らす高校生の岸本由紀(芋生悠)は穏やかな毎日を送っていたが、中学からの同級生・瀬戸綾(祷キララ)から突然引っ越すと言われる。その翌日、綾が他界してしまい、そのことが由紀とクラスメートとの関係に影響して、由紀はクラスで孤立する。

出典:シネマトゥデイ

スタッフ

監督・脚本 石橋夕帆
原作 ごめん
この後、本記事はネタバレ部分に入ります。映画をまだご覧になっていない方はご注意ください。



教室内のグループ

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

 

『左様なら』で見事なのは、由紀(芋生悠)がいるクラスの一人一人の立ち位置の描写です。

おそらく全26名のクラスなんですが、どんな層に位置しているのか、ほぼ全ての生徒について描かれていました。教室のどこかに、観た人なりの感情移入や既視感があるはずです。また、生徒たちそれぞれを把握して冒頭の由紀が教室に入ってくるシーンから観直すと、また違った気づきがあることでしょう。

生徒22人が記載された公式サイトのキャスト一覧はこちら

登場人物の一覧とともに見ていきましょう。

由紀たちのクラスの座席の画像

由紀たちのクラスの座席

由紀たちのグループ

岸本由紀 芋生悠
佐藤麻衣 高橋あゆみ
相原瑞樹 日向夏

由紀(芋生悠)は作品当初、麻衣、瑞樹という二人と行動をともにしています。
麻衣は「テスト勉強全然してない〜」と言いつつも実はちゃんと勉強してるタイプの子で、一方の瑞樹は結花グループ(後述)ともそれなりにコミュニケーションを取れる存在。序盤のカフェで結花グループと遭遇した時も、わりと普通に美優、愛美と話しています。

由紀が美優たちの方を一切向こうとしないでいたのとは対照的です。

クラス内の立ち位置としては大きな勢力ではないものの、中心グループとも上手くやっているためハブられる対象ではありません。

結花たちのグループ

安西結花 日高七海
木下恵里奈 武内おと
松井美優 石川瑠華
河野愛美 夏目志乃
高橋修平 大原海輝
相馬大地 白戸達也
阿部朔太郎 森タクト

続いて「クラスのボスザル的な女子」(由紀談)である安西結花(日高七海)たちのグループです。

圧倒的な発言力を持つ結花を中心とした女子4人は、教室の中でも結花や恵里奈(武内おと)の陣取る中央後方を定位置として、存在感を放っています。カースト最上位です。

加えて、クラス一番の美男子である高橋修平(大原海輝)、クラスの中でも発言力の強そうな相馬大地(白戸達也)、野球部の阿部(森タクト)という男子のなかで目立つ3人がいて、この2グループは一緒にいることが多々。

相馬と美優(石川瑠華)が付き合っていたり、高橋への矢印が女子側から出ていたりする部分もあり、上位×上位でつるんでいる感じですね。

結花がボスである象徴は、彼女が辱めを受けた由紀をハブろうと周りに持ちかけた授業中の場面。(隣の席の瑞樹もあそこで丸め込まれたんでしょう…)
意地悪な笑いを含んだ結花の画策はヒソヒソ話でありながら、クラス中に“何かが起こっている”と気づかせるには十分でした。それが攻撃的な内容であることも、彼女や恵里奈の反応から想像できます。

あの時、特に廊下側の生徒たちは緊張感を漂わせて結花たちの内緒話に耳を澄ませていました。ボスザルの影響力がいかに強いかを示すには十分な演出でした。

慶太たちのグループ

飯野慶太 平井亜門
岡野凛 栗林藍希
大橋拓磨 田辺歩
西亮太 武田一馬
関根美穂 安倍乙

由紀と幼なじみの慶太(平井亜門)たちは5人グループ。結花たちに次いで大きな規模で、教室の窓側が定位置です。

グループのリーダー的存在と思われる岡野凛(栗林藍希)はボスザルとも普通に話せる関係らしく、最大勢力との関係も悪くありません。ただ、位置としては間違いなく結花グループの下になります。

ですが、由紀と大きく関わってくる慶太はもちろん、瀬戸に想いを寄せていた大橋(田辺歩)、慶太に想いを寄せる美穂(安倍乙)という恋の文脈から、第二勢力でありながら個々人の心内にも想いを馳せることができます。

由紀がクラスでハブられた後も慶太は彼女を気にかける視線を隠そうとしませんでしたが、その慶太を見つめる美穂の視線が、彼女の立ち位置を物語ります。

滝野たちのグループ

滝野蓮 田中爽一郎
天野翔平 本田拓海

「ライブ来ない?」とめっちゃポジティブに誘う滝野(田中爽一郎)は、最前列に座る天野(本田拓海)とつるんでいます。とはいえ滝野は誰彼かまわずに話しかける明るさを持っているのも特徴的です。

序盤は滝野側からの一方的なアプローチにも見えましたが、映画が進んでいくといつも行動をともにしているので天野としても滝野との距離感は良いんでしょうね。また名前がわかりませんが、映画後半では由紀の前に座っている男子生徒を含めた3人で談笑しているシーンもあります。

無所属

瀬戸綾 祷キララ
宮島佳代 近藤笑菜
野田真由美 加藤才紀子
保坂悠人 タカハシシンノスケ

グループに属していない人たちも当然います。

一匹狼的な瀬戸綾(祷キララ)、THE・真面目という感じ(でもスルーされている)の宮島(近藤笑菜)、すみっこで大人しく佇んでいる野田(加藤才紀子)、宮島が遠足の班分けで誘った内田(塩田倭聖)といった面々は休み時間を一人で過ごしていることが多いです。

また、上で引用した公式のツイートでは、保坂(タカハシシンノスケ)が「友人がおらずいつも一人。」と説明されています。

愛美の立ち位置

冒頭で述べた通り、『左様なら』で特に印象的だったのが河野愛美(夏目志乃)の描写です。

最上位の4人グループに属していた愛美でしたが、グループ内での立場は最も弱いものでした。“結花 → 恵里奈・美優 → 愛美”という力関係です。ただこの4人の内情は「1+2+1」ではなく、「3+1」です。

意見を求められない限り自分からは発言しませんし、結花たちの意見に頷くばかり。結花たちからは“いつもくっついてきてるだけ”(私たちが仲間に入れてあげてる)という風な扱いが透けて見えます。結花たち3人が手首につけているシュシュも愛美はしていません。

要は舐められてるんですよね。結花たち3人からしてみれば、くっついてきてるだけの愛美に多少の苛立ちもあるかもしれませんし、それを相馬は「顔色窺ってばかり」(それでいいのかよ)と言及しました。

「+1」の苦悩

伊豆急行の写真

伊豆急行線 河津駅(出典:写真AC)

これは愛美が「3+1」の「1」であることがはっきりとわかる前の映画序盤からも描かれていて、最初の教室談笑シーンで一人だけ愛美は座らずに立っていますし、由紀や瑞樹たちと鉢合わせたカフェでも4人の中で一番最後にくっついて現れ、彼女たちの会話で愛美が返した言葉もあっさりと流されています。

その中でも由紀たちの見ているメニューにぶっ込んできた美優を一人にせず、一緒になって選ぶ愛美に優しさを感じました

一方で自分の意見を押さえてまで結花たちのグループに属することは彼女にとって意味があることで、相馬のような外野に指摘を受けたところで、そんなことはわかってやってんだよという感じですよね。相馬の気持ちもわかりますが…。

遠足のグループからの離脱をはじめ、感謝を微塵も含まない「神〜」という言葉で覆われたパシリだったり、遊びの予定から一人だけ外されたりと、「+1」への風当たりは強まっていき、彼女は限界に達しました。

結花一派として最も関わるべきではなかった由紀に助けられ、愛美は教室内のポジションを別の場所に移すようになります。ハブられている子に声をかけることの勇気は言うまでもありません。

残された2人

そんな彼女を、由紀におはようと声をかけて“対等に”談笑する愛美を、恵里奈(武内おと)は怖い目で睨みます。まだ喋んのかよというように、一度ならず二度睨みつけます。

このシーンに限らず、本作品は人を「見遣る」視線にこもった感情の表現がとても良いです!

恵里奈(と恐らく美優)にとって愛美のポジション移動は裏切りであり、自分たちがパシることのできた存在の損失でもあります。
また、瀬戸が高橋と喋っていた時、由紀が滝野と喋っていた時と同じように、見下していた対象が楽しそうに話すことへの苛立ちもあるはずです。

さらに「3+1」の「+1」が抜けたことで、結花グループ内に新たな階層が生まれる可能性もあります。恐らく恵里奈と美優が最も危惧しているのは“最下層”がいなくなり、自分が愛美の立場に転落することでしょう。

それは相馬に「美優が滝野のことをかっこいいと言っていた」とこぼしたであろう恵里奈かもしれないし、彼氏持ちの美優かもしれないし、「やりすぎだよね」と呆れられていた結花かもしれません。もちろん上下関係が生まれないまま、3人で対等に盛り上がる可能性もあります。

映画が終わった後も彼女たちの高校生活は続いていくわけで、教室内でのパワーバランスがどう変わっていくのかも気になります。

 

『左様なら』のように教室の細部まで描かれた作品を見ると、自分の高校時代を思い出さざるを得ません。

瀬戸や由紀に対するようなあからさまな省き(=いじめ)は女子間、男子間ともになかったんですが、グループ内での力関係だったり、グループの移動だったりは存在しました。自分を押し殺すように追随して最上位グループに身を置いていた(ように見えた)女子もいて、愛美を見た時は真っ先に彼女のことが頭に浮かびました。

ちなみに私個人で言うと、親友とクラスが離れたので学級内では孤立した存在と見られていたかもしれませんし、『左様なら』の天野くんのように“割と目立つ子の友達”くらいの立ち位置で認識されていたかもしれません。

主人公の周辺にフォーカスして描く青春傑作は多いですが、クラスの一人一人の立ち位置を細やかに描写した群像劇として『左様なら』は圧倒的な説得力を持ちます。
『桐島、部活やめるってよ』に匹敵するレベル、個人的にはそれ以上だと思いました。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

※2023年7月、記事の一部内容を修正しました。

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