こんにちは。織田です。
今回は、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020の出品作品である『レイディオ』を紹介します。アマプラで鑑賞しました。
制作は中央大学のクリエイター集団「RARERU」と中央大学放送研究会。
キャスト、スタッフともに、中央大学の学生が中心となって製作された映画です。
この『レイディオ』は45分の作品ですが、外連味の一切ない、綺麗な直球の物語。それを可能にした純粋さっていうところはやっぱり、「現役」の持つ感度の瑞々しさに由来するんじゃないかなと思いました。
- “彼女”への主人公の向き合い方
- 美しすぎる終盤のメッセージ
今回はこの2点について感想を書いていきます。
映画のネタバレを含むため、鑑賞済みの方向けになります。ご了承ください。
あらすじ紹介
深夜ラジオを聞くことが趣味の地味でモテない大学生の加藤は、学部のゼミで同じラジオを聞いている女性・松岡と出会う。夢もなく、友人もいなかった加藤に、松岡は「後悔しない生き方」をしたいと言った。加藤は真っ直ぐ生きる松岡に次第に惹かれていくも、彼女が自分とは違う世界で生きていることを知る。
スタッフ、キャスト
監督 | 塩野峻平 |
原案 | 塩野峻平 |
脚本 | 中村綾菜 |
加藤 | 加藤隼也 |
松岡 | 松岡美優 |
石井 | 石井佑治 |
吉井 | 吉井純平 |
彼は気づいていなかったのか
以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。
『レイディオ』が45分の映画なのは、上で述べたとおりです。この記事タイトルでは「青春傑作」という表現もさせていただきました。
ただし、映画45分のうち、3分の1くらいが経つと──具体的に言えば松岡さんが入院していると分かったあたりで──恐らく展開は想像できるはずです。
これが「外連味の一切ない、綺麗な直球の物語」と評した所以です。変化球は投げてきません。
ど直球の既定路線をどう進むか。『レイディオ』は、その進み方がとてもピュアであり、大きな役割を担っていたのが主人公の加藤くんでした。
入院している松岡さんのお見舞いに足繁く通う加藤くんは、進行する彼女の病の重さを理解していたのか、そうでなかったのか。
個人的な見解としては、加藤くんは彼女の状況を理解した上で何もないようなスタンスを取っていた、と考えています。
何ごともないかのように
「大丈夫?」
「体調、悪いの?」
加藤くんの言葉は、一見すると危機感や切迫感を欠くようにも聞こえます。
けれど、幽閉された暗い世界で力を吸い取られる松岡さんの状況を、決して良くはない松岡さんの具合を、彼が察していないはずはないんですよね。
それでも加藤くんは──彼女が「死ぬ」という言葉を口にした後も──深刻な状態であることを知らないかのように、“何ともない松岡さん”を前提とした言葉をかけ続けます。
『他言は無用』の話を、明日も来週も来月も続けられると信じています。
加藤くんの取ったスタンスは、「すぐ良くなるよ」、「大丈夫だよ」みたいな励ましのものとも、また違うと思うんですよね。
こういう励ましの言葉は、いま状態が良くない人にかけるものです。
でも病気のことについて“触れない”加藤くんは、その前提を、“病気を患っている松岡さん”ではなくて、“何ともない松岡さん”に置いています。
だから松岡さんも、加藤くんと話している時は病気のことから解放されます。
闘病を描いた作品は本当に数多くありますが、彼のように病気に全く触れない(気づいていないかのように)ケースというのは珍しい。
珍しいというか難しいんだと思います。自分の中で「触れない」選択を抱え込む必要があるわけなので。
“察する”素振りを見せず、元気な松岡さんだけを信じて待つ加藤くんの振る舞いこそが、「人の心にそっと寄り添うことができる」彼の優しさを表していると思いました。
あまりにも美しい終盤
そんな加藤くんに向けて、松岡さんが綴った想い。
それはクリスマスイブの夜のラジオ『他言は無用』で、「アンビバレントパジャマ」の投稿として紹介されました。
メール職人を引退します、という内容で始まったその投稿の読み手は『しょっぱな』の吉井さんから松岡さんへと変わり、「優しいハト」は「彼」と響きを変え、そして「君」へと変わりました。
MCとリスナーの共有空間へ向けたものから、「君」ただ一人へのメッセージへと変わりました。
『アイカツ! 10th STORY ~未来へのSTARWAY~』という作品の感想でも、「みんな」向けの言い方から突如として「君」と単数系のYouで示されることの効果について書きましたが、松岡さんの独白も同じです。
1対1の構図、加藤くんただ一人に向けた言葉を、マイクに乗せていきました。
「君の大切な人になってみたかったけど、残念ながらそれは私じゃなかった」
「悔しいなぁ」
後悔をありがとう
「私の人生にたくさんの宝物と、後悔をくれてありがとう」
特に強烈だったのはこれです。泣きました。ガチで泣きました。
後悔という単語がこんなにも美しく聞こえる物語を私は他に知りません。このセリフを聞くために何度でも観たい。
「後悔」っていうのは、本来歓迎しない種類の言葉のはずです。松岡さん自身も「死ぬ時に後悔をしない生き方をしたい」と言っていました。
しかしここでいう「後悔」とは、楽しさだとか生き甲斐であることと同義です。ひとたび暗い世界に閉じ込められてしまうと、幸せな時間を二度と味わえないとわかっているからこその、後悔です。
ちなみに、二人で談笑する楽しい時間が描かれているのは、一度目のリンダ リンダが流れるシーン。このブルーハーツの名曲が松岡さんにとって、またこの作品にとって大切なものとなっている意味を、しっかりと補強してくれました。
「作家・加藤くん」が流したリンダ リンダがエンディングで流れるのも必然です。
あとラジオ聞かない私が言うのもあれなんですが、『しょっぱな』の吉井さん、石井さんの温度感もとても良かったです。
特に金髪眼鏡の石井さんが凄い。アゴに手をやる癖だとか、ニヤリとする表情とか、「あっそう」、「コイツいっつも怖ぇんだよ」とか、あの声色や仕草には既視感しかありません。
「袋小路包囲戦」こと加藤くんの投稿も、「アンビバレントパジャマ」こと松岡さんの投稿もわりとMCにはディスられてるわけですけど、その突き放しがあることで二人を二人だけの世界に完結させている気もします。
また、『しょっぱな』のディスの中にも二人への安心感はやっぱり透けて見えていて、そんなところが「フクロ」や「パジャマ」にとっては常連として認識されている喜びになっているのかなと想像しました。
人気番組の投稿コーナーを半ば私物化している部分は現実的にどうなんだろう?と思ったものの、逆に言えば突っ込みどころはそこくらい。もちろんあのラジオがストーリーをつなぐ“場”として機能していることは明らかなので、そのメリットは突っ込みどころを補って余りあるでしょう。
小細工なしの真っ直ぐな物語が展開される45分間。
『レイディオ』は、“良い話を観たい”という際にぜひ選択肢に入れて欲しいと思える映画でした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。