13年公開、三池崇史監督の『藁の楯』。
大沢たかお、藤原竜也。
原作は木内一裕の小説。
組織ぐるみの首取り計画
幼女殺人犯の(再犯)清丸国秀(藤原竜也)という男の首に被害者の祖父(山崎努)が懸賞金10億を懸け、「この男を殺してください」というセンセーショナルな全面広告で大規模な殺人教唆。
清丸は福岡県警に出頭し、銘狩(大沢たかお)、白岩(松嶋菜々子)らがSPとして警視庁までの護送を任される。
しかし、殺せば10億という高い報酬。一般市民から警察内部まで、清丸を殺そうとする人間たちが立ちはだかる。
予告編を見ていたのでこの導入は知っていた。面白い設定であり、加えて狂気の殺人犯は藤原竜也である。
映画館で観たかったのだけど、かなわなかった。
Wikipediaにも載っているが、清丸殺せば10億という衝撃的な広告は新聞の降版間際、要は完成する直前に意図的に社員、印刷所の人たちによって差し替えられた。
新聞社で働いていたことがあるのでわかるけれど、新聞の広告は広告部と整理部と校閲部というセクションによって何重にもチェックが施される。
それを印刷する印刷所の人が確認して初めて新聞として印刷されるわけである。
だからこんな広告が、しかも新聞全紙で行われたとなればとてつもない組織ぐるみの出来事で有り、実際作内でもそのとてつもなさに関しては描写していた。
製作が日テレ=読売新聞というのもあるだろうけど、この異常な広告に対しての描き方は譲れないところがあったと思われる。
吹き荒れる人間不信
さて、ストーリーとしては清丸の護送、すなわち彼の首を狙う者たちからの脱出に渡る不信、狂気、欲望が渦巻いたフィクショナルな作りになっている。
銃声バンバンのスピード感もいいのだが、人間不信がまた良いスパイスになっている。
原作を読んでいないので比較はできないが、守備範囲の広い三池監督といえども、かなり得意な形で撮れた一本だと思う。
三池監督の良いところはこのようなメインキャラがはっきりした作品において、悪役、あるいは黒幕をわかりやすく描くところである。
2時間ドラマと言ってしまえばそれまでかもしれないが、本作においては映画館のスクリーンで銘狩たちの道中を追う方が興奮できるはずである。
清丸を演じた藤原竜也はやはり上手で、カカカッと人を小馬鹿にしたような笑い方がたまらない。
彼自身にかけられている容疑が冤罪なのかもという深読みもしてみたが、彼は単純に狂った猟奇犯であった。
三池監督はこのような人間の(存在としての)屑を描くのも上手い。
松嶋菜々子が意外に物足りなかったとか、威勢のいいキップを切っていた永山絢斗がネイマールにしか見えなかったとか色々思うところはあったが、やはり大沢たかおを主役に置いたところで勝ちである。
普通の二枚目俳優では単なる正義感の振りかざしに思えるような彼のキャラクターも、大沢たかおの持つ優男の部分が全て打ち消し、銘狩という人間を深くわかりにくいものにしていた。
主人公が単細胞ではないとわかると、こういったスリリングな作品はぐっと面白くなる。こっちが深読みするから。
日テレ製作らしい大げさな演出も含めつつ、物語の深さよりも面白さを追求してくれた。
エンターテイメントとして楽しめる作品。