今回ご紹介するのは高校球児をテーマにした『ひゃくはち』。
2008年、森義隆監督。斎藤嘉樹、中村蒼、高良健吾。
神奈川県の強豪・京浜高校野球部の補欠部員にスポットを当てた物語です。
実在の横浜スタジアムや相模原球場も舞台となっており、リアルさは折り紙つき。
ブラスバンドや控え部員、チアリーディングも含めて、試合を盛り上げる応援も本物の高校野球さながらです。
『ひゃくはち』のスタッフ、キャスト
監督・脚本:森義隆
原作:早見和真
青野雅人:斎藤嘉樹
小林伸広:中村蒼
相馬佐和子:市川由衣
佐々木純平:高良健吾
星野健太郎:北条隆博
コブー:橋本一郎
柳沢:太賀
内田:阿部亮平
コーチ:桐谷健太
アキ:三津谷葉子
サンダー監督:竹内力
雅人の父:光石研
コーチ役の桐谷健太は『ROOKIES』で、新米記者役の市川由衣は『H2』で、キャプテンの星野を演じた北条隆博は『H2』と『ROOKIES』で、主人公たちの代の一つ先輩の内田を演じた阿部亮平は『ポテチ』という野球作品に出演しています。
野球色の強いキャスティングです。
あらすじ紹介
野球の名門として知られる京浜高校の補欠部員・雅人とノブは、甲子園のグラウンドを目指して毎日過酷な練習に励んでいた。しかし上級生が引退しても、彼らに与えられるのは雑用ばかり。そんな中、有望株の新入生が入部したことにより、2人は高校最後の甲子園のベンチを巡って争うことになり……。29歳の新鋭・森義隆監督が、補欠部員たちの奮闘を爽やかに描いた青春ドラマ。雅人役に映画初主演の斎藤嘉樹、ノブ役に「恋空」の中村蒼。
ひゃくはちとは煩悩の数であり、ボールの縫い目の数でもあります。
レギュラーになるために
野球の強豪校でベンチ入りを目指す選手たちを描いており、非常に観やすくて感情移入しやすい、若者向けの映画。僕は高校で部活をやっていなかったからガチ部活というものを体験していませんが、きっと強豪校ってこんな雰囲気が無きにしもあらずなんじゃないかなって。
多分モデルは神奈川の横浜高校。
強豪・京浜高校に一般受験で入学した雅人(斎藤嘉樹)とノブ(中村蒼)は、甲子園のベンチ入りを目指し、様々な手を使ってアピールを試みます。
関西から推薦でやってきた佐々木(高良健吾)をはじめ、特待生が全国から集まってくる中で、二人は地元(神奈川)出身。ノブは鶴間の方が地元であることが一時帰郷の際に描かれています。
立ち位置としてはレギュラーには届かない、ベンチ入り当落線の選手たちです。2年生の夏はスタンドで応援していました。
そんな雅人に、新米記者の相馬(市川由衣)は質問をぶつけます。
--「あなたにとって高校野球って何?楽しい?」
「楽しくはないです。苦しいだけです」--「じゃあ、なんでやり続けるの?試合にもあんまり出れないのに。」
「最後の夏までやり遂げてからだったら、そういう質問にも答えられる気がします」「夏の大会のスタンドには、3年間死ぬほど頑張って来たのにグラウンドの土さえ踏めないやつがいる。メンバーの誰でもいいから死んでくれないか、って祈ってる奴がいることを、知っていてください」
甲子園に出るためには、よその高校を倒す前段階の戦いがあります。
そしてその前段階として、誰かを蹴落として、メンバーに入るための戦いがあります。
大親友もベンチ入りを懸けた蹴落とすべきライバルとして時に存在するわけですね。
雅人はレギュラーの佐々木に「One for All」(一人はみんなのために)だろと言われ、食ってかかりました。
「そんなこと選ばれた側の人間だけが言える綺麗事だろう」
「お前らレギュラーに俺らの気持ちなんて一生わかんねぇだろうけどな」
これに逆上した佐々木が掴みかかり、吠えながら雑魚だのなんだのと喚くシーンもとてもリアルでした。高良健吾上手すぎです。
応援団やら、偵察役やら、役割は決められているように見えても、みんな試合に出たいと思っている球児には変わりありません。
決してこれは野球部だけに限った話ではなく、「控え」という立場を経験した人なら誰しも共感できるのではないでしょうか。
体罰も喫煙シーンも普通にあるんですが、とにかく美化されがちな高校野球の現実を伝えようとみんなが一生懸命な姿が感じられました。
高校野球の臨場感も最高
この映画は神奈川を舞台にしていると紹介しましたが、設定面も実にリアルです。
主人公たちが在籍する京浜高校のユニフォームの右袖に刻まれる赤文字の「KANAGAWA」は本物そっくりですし、左袖のトリコロールのエンブレムも横浜高校を連想させます。
ユニフォームはグレーにブラックで「KEIHIN」。文字の縁にゴールドがあしらわれていて、仙台育英高校のデザインにも似ています。
一方、県大会の決勝で京浜高校と戦うのは桐嶺学院という高校。
神奈川の高校野球ファンの方なら桐光学園 or 桐蔭学園と藤嶺藤沢を混ぜた校名にも聞こえるでしょうか。ちなみにユニフォームは東海大相模と似ており、帽子の「T」は桐蔭学園と近い形でした。
この二校が横浜スタジアムであいまみえる県大会決勝も、京浜が相模原球場で戦った秋季関東大会も、実にリアルなんですよね。お客さんの数、客層、ブラスバンドの聞こえ方、そして何より選手たちのプレーが、かなりレベルの高いものとして描かれています。臨場感たっぷり!
ブラバンの応援歌では京浜のチャンステーマ「京浜サンバ」と、高校野球の定番「天理ファンファーレ」、「ダッシュKEIO」が使われています。
映画の多くを占める、京浜高校が自前で持つ球場での練習シーンはおそらく帝京大学のグラウンドで撮影されたものでしょう。(クレジットに協力記載あり)
大きな声を挙げながら毎日死ぬほどきつい練習に耐える部員たちの流す汗と立ち込める土ほこり。鬼のようなサンダー監督(竹内力)が時に見せる親心にも泣けます。
ちなみにサンダーとは名前の山田をもじったものでしょうね(笑)。
雅人とノブは3年生夏の大会で背番号「19」「20」をもらってベンチに入ったわけですが、甲子園のベンチ入り枠は18人。
県大会を勝ち抜いた後の二人の未来に思いを馳せるのもいいかもしれません。
綺麗事だけじゃ絶対に成り立たない、夢の舞台を目指す部活動の青春。
リアル高校球児、ここにあり。
寮生活を送る雅人のことを誰よりも応援しながらも、本人に決してプレッシャーがかからぬように平常心を装って接するお父さん(光石研)の演技も光りました。部活を頑張るお子さんを持つ親御さんにも、ぜひ見ていただきたい映画です。
友達にとある野球名門校だった子が二人います。彼らがこの映画を観たら共感するのかな。ぜひ聞いてみたいですね。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。