映画『アルプススタンドのはしの方』ネタバレ感想|ブラバンの名曲が彩る外角高めの青春ストライク

(C)2020「On The Edge of Their Seats」Film Committee

こんにちは。織田(@eigakatsudou)です。

今回は2020年7月に公開された『アルプススタンドのはしの方』をご紹介します。
兵庫県立東播磨高校演劇部の名作を映画化した作品です。

高校野球の全国大会(=甲子園)に出場を決めた県立東入間高校。熱狂に沸く甲子園の応援席、その端っこで、どうも乗り切れない生徒たちの姿を描いています。

勝ち目のないように見える戦いのなかで、頑張ることとか、そうやって頑張る人を応援することは無駄なことなの?

限界点とか挫折にぶち当たった時、悔しい心を押し殺して「しょうがないよね」と何かに折り合いをつけたことのあるみんなにとって、あまりにも突き刺さる映画です。

また、COVID-19の影響で楽しみが失われてしまった高校野球ファンにとっても、「いつもの夏」を体験させてくれる貴重な映画です。
ぜひ劇場の大音量で楽しんでみてください!



『アルプススタンドのはしの方』のスタッフ、キャスト

スタッフ、キャスト
監督 城定秀夫
原作 籔博晶
脚本 奥村徹也
安田あすは 小野莉奈
藤野富士夫 平井亜門
田宮ひかる 西本まりん
宮下恵 中村守里
久住智香(吹奏楽部) 黒木ひかり
進藤サチ(吹奏楽部) 平井珠生
理崎リン(吹奏楽部) 山川琉華
厚木先生 目次立樹

監督は城定秀夫監督。個人的にはめぐりさんや希志あいのさんを起用した優しいピンク映画の印象が強かったですが、今回はあまりにも青くて切なくて涙の味がする青春映画を完遂しています。

原作者であり、東播磨高校の演劇部顧問を務めた籔博晶さんはこの作品のいわゆる生みの親。2016年のセンバツ(春の甲子園)に母校の長田高校野球部(兵庫県)が21世紀枠で出場したことが、『アルプススタンドのはしの方』の原点となったそうです。


小野莉奈西本まりん中村守里目次立樹の4人は舞台版から続けての出演です!

予告編

宮下(中村守里)の持っている“お〜いお茶”が印象的ですが、実際に映画の中でも大事な役割を果たしていきます。ぜひご注目を。

あらすじ紹介

高校野球・夏の甲子園一回戦。夢の舞台でスポットライトを浴びている選手たちを観客席の端っこで見つめる冴えない4人。最初から「しょうがない」と最初から勝負を諦めていた演劇部の安田と田宮、ベンチウォーマーの矢野を馬鹿にする元野球部の藤野、エースの園田に密かな想いを寄せる宮下の4人だったが、それぞれの想いが交差し、先の読めない試合展開と共にいつしか熱を帯びていく……。

出典:公式サイト

演劇ベースということもあり、映画は演劇部の安田あすは(小野莉奈)田宮ひかる(西本まりん)藤野富士夫(平井亜門)宮下恵(中村守里)にかなりの重点を置いて、アルプススタンドの端っこで進んでいきます。
75分の中に、青春が濃縮100%で詰まっています。

高校野球ロスのあなたに贈る

今年2020年は、例年であれば日本の夏の風物詩とも言える高校野球の甲子園大会が、コロナウイルスの影響で中止になりました。
地方予選もありません。春のセンバツも中止になりました。

厳密には各都道府県の「独自大会」として行われているのですが、観客席に吹奏楽や学校の生徒、保護者が陣取って応援をしたり、野球好きがホイホイと観に行ったりできる状況ではありません。

そんな今年の夏だからこそ、高校野球の応援席の一角を切り取った『アルプススタンドのはしの方』を観ることができることは貴重だと思います。
少なくとも僕は、喜びにあふれています。

地方大会のつもりで観よう

甲子園大会を見ていて、「一塁側アルプスの〇〇アナウンサー!お願いします」というシーンを聞いたことはないでしょうか。
実は「アルプススタンド」というのは甲子園球場の内野スタンド(応援団の位置)を指すもので、甲子園限定のものなんですね。

つまり、『アルプススタンドのはしの方』が甲子園を舞台にした作品ということがわかります。

 
ただし、この映画最大にして唯一の突っ込みどころとして、球場が甲子園じゃないよねというのが出てきます。

この映画で使われているのは、神奈川にあるバッティングパレス相石スタジアムひらつか(平塚球場)
神奈川県の高校野球の大会や、横浜DeNAベイスターズの二軍戦が行われているようなスタジアムです。甲子園球場とはどうしてもスケールが違います。

主人公たちの学校・県立東入間高校は、甲子園常連校の平成実業という強豪と甲子園1回戦で対戦するという設定ですが、甲子園球場のアルプススタンドを知っている方は、「県大会」的な地方大会のノリで鑑賞してもらえるとスムーズに観ることができると思います。

平塚球場でも東入間のエース「園田くん」を甲子園流のイントネーションでウグイス嬢(すずきあすか)が喋るシーンは最高でしたね。その↑だ君!

ブラバンを聴ける幸せ

高校野球ファンにとって何より嬉しいのは、馴染みのある高校野球のブラスバンド応援を素晴らしい演奏で聴けることです。
演奏協力は平塚を中心に活動するシエロウインドシンフォニーさんです。

ここでは映画で使われた応援をいくつかピックアップしてみます。

狙いうち


高校野球の応援歌の中でも屈指の有名曲です。合いの手や「お前が打たなきゃ誰が打つ」の後のバリエーションなど、学校や地域によって演奏方法が違うのも特徴的ですね!

先ほど紹介した予告編動画でも使われています。

アルプス一万尺

チャンステーマとして使われることが多い一曲。動画でご紹介した高速バージョンを駆使する前橋育英高校と、近江高校が特に有名です。

映画のタイトル『アルプススタンドのはしの方』ともシンクロしていますね。曲が使われるタイミングにぜひご注目を!

天国と地獄

昔の運動会の印象が強い曲ですね。高校野球で使ってるところは珍しいかもしれません。

歓びの歌(ベートーベン)

こちらも誰もが知ってる曲ですが、高校野球の応援で実際に使っている高校はあまり見ない印象です。

天理ファンファーレ

奈良の天理高校発祥で、高校野球のみならずプロ野球にも波及しているファンファーレです。

固有の選手の応援歌ではなく、主にヒットを打った後に祝福するものですね。野球を知っている人なら、この曲が流れている=ヒットを打った/点が入ったと理解できるほどには演奏シチュエーションが有名です。

聖者の行進

PL学園がかつて使っていたのが印象的。海外、Jリーグ問わず、サッカーの応援としても使われることの多い曲ですね。

ルパン

狙いうちなどとともに、高校野球の応援歌の超定番ですね。多くの高校が採用していますが、体感的に東京の高校は特にどこの高校もやってる感じです。

映画では相手の4番・松永の応援曲として使われています。

TRAIN-TRAIN

ブルーハーツの名曲。2017年に夏の甲子園で優勝した花咲徳栄が有名です。

今年の夏はテレビや現地で聴くことのできないであろうブラバンの演奏を、ぜひ映画館で楽しんでいただけたら嬉しいです!

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。



なぜ野球部は特別なのか

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

映画の序盤。
応援席の上段、それも端っこに腰を下ろす二人の女子生徒。

演劇部の安田あすは(小野莉奈)田宮ひかる(西本まりん)は、面倒くさそうにグラウンドを眺めます。

高校生最後の夏休み。部活に受験勉強に遊びに恋に。
様々な青春を体験するチャンスがあるかもしれない貴重な一日を、甲子園に出場した野球部の応援のため強制的に球場に来させられたわけです。

「なんで野球部だけ特別扱いするのかな」
「野球部の人、何か偉そうじゃない?」

そう。野球部はなぜか特別なのです。

あの夏、端っこにいたあなたへ

僕の通っていた普通の県立校ですら、なぜか野球部の夏の神奈川県大会は「特別な用事がある人」以外、応援に行くのが推奨される風潮でした。テレビ中継のある保土ヶ谷球場の試合が当たった時などは、もはや半強制でした。バイトがある、程度の言い訳では認めてもらえないレベルです。

そして、吹奏楽部やチアリーディング部は授業があろうと絶対参加でした。バスケ部やサッカー部、テニス部の応援に吹奏楽部やチア部が来た話は聞いたことがありません。

梅雨の季節がやってくると、放課後の校舎からは野球応援のブラバン練習の音が聞こえ、中庭ではチアの生徒が「サニーデイサンデー」とか「さくらんぼ」に合わせて振りを練習していました。

そもそも甲子園の地区予選は、どっかの高校のグラウンドを使って行われる他の競技の県予選と違って、立派な県の球場を使って観客からお金を取って行われます。やっぱり特別です。

野球部の試合をスタンドから見たことがある。それは他の運動部と比べたら遥かに、体験したことがある人は多いはずです。

比喩的な意味ではなく、あの夏、本当にスタンドの端から野球部を見守ったことのある方は決して少なくないはずです。
もしかしたら目立たないように。もしかしたら面倒くせーなと思いながら。

誰かを応援、肯定すること

この映画の宮下あすはひかる藤野は、そんな目に止まらないような「端っ子」の生徒たち。
一方で吹奏楽部のメンバーである久住(黒木ひかり)、ショートカットの進藤(平井珠生)、ロングヘアの理崎(山川琉華)という、「アルプススタンドの中心」にいる生徒たちも使うことによって、端っ子の異端ぶりを際立たせています。特に宮下。

久住の「真ん中は真ん中でしんどいんだよ」は、『心が叫びたがってるんだ。』の仁藤にも通じるところがありました。

さらに、端っ子たちに目を配り、暑苦しくも「陰」に光を当てて彼女たちの存在を確かなものにする厚木先生(目次立樹)
喉から大声を張り上げ、喉を切って吐血し、セクハラ発言も厭わず、一見疎まれるようなこの熱血教師を、圧倒的に肯定したところがこの映画は最高です。

そして厚木先生の当てる「光」に気づき、素直に感謝できた端っこの4生徒。彼女たちも凄いですよね。

「しょうがない」から一歩を踏み出して「頑張れー!!」と叫んだ端っ子たち。
「しょうがない」から一歩を踏み出してもうひと押しの音を絞り出した吹奏楽部員。

他人事を自分ごとにしたり何かを応援するのって、凄くエネルギーを使うし、勇気のいることです。結果によっては、当然落胆することだってあります。
でも、頑張っている人たちに声援を送る自分自身を好きになったり、新しい自分を知ることができる部分もあると思います。

『アルプススタンドのはしの方』で試合後に進藤が流していた涙は間違いなく彼女の人生の思い出に刻まれると思いますし、宮下が久住に叫んだ「ナイス演奏!」も両者にとってきっと忘れられない青春の1コマになったと思います。

野球の設定の話

少し野球自体の話をします。

この映画をご覧になった方はわかる通り、この映画では野球のグラウンドを、すなわちプレーしている選手たちを全く映しません。

試合の展開を、私たちはスタンドの観客の反応やブラバンの選曲によって知ることになります。
今はどちらが攻撃なのか、それは守備側は基本的に吹奏楽の応援をしない、野球独特の応援スタイルも上手に使っていますね。

サッカー映画でも
全く毛色が異なりますが、プレー場面を極力抑えた手法を用いた『U-31』というサッカー映画も面白いです。

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2020年5月19日

試合展開を補足すると、以下のようになります。

試合のスコア

試合経過

  • 5回裏:平成実業 犠牲フライで先制(0ー1)
  • 6回裏:平成実業 松永の2ランホームラン(0ー3)
  • 7回裏:平成実業 エラー(イレギュラー)で追加点(0-4)
  • 8回表:東入間 ヒット→代打・矢野が送りバント→次の打者がタイムリーヒット※(1-4)
  • 8回表:東入間 犠牲フライでもう1点(2-4)
  • 9回表:東入間 2アウト満塁から矢野がアウトになって試合終了
※8回にタイムリーヒットを打った東入間の選手は、次の打者の犠牲フライでホームインしてるので恐らく三塁打ですw

両チームともに犠牲フライで点が入っていますが、野球に詳しくないひかるたちが「迷宮」という言葉で表してるのが凄く印象的でした。

送りバントの意味を厚木先生と矢野くんから学んだ彼女たちはこの先、犠牲フライもまた理解するようになるのか楽しみですね。

松永と園田の数字

選手個人として名前が出てくるのは東入間のエースで4番の園田くん、補欠の頑張り屋さん(でも藤野にディスられてる)の矢野くん、そして相手の平成実業の4番バッターの松永くんです。

いずれも映像では出てきません。特に園田くんの使い方は『桐島、部活やめるってよ』の桐島に近いですね。

藤野情報によると、松永くんは春の甲子園(センバツ)で5本塁打を放ったとのこと。凄いですね。
(2020年現在、センバツの1大会最多本塁打は3本です)

一方の我らが園田くんは、プロのスカウトも注目する好投手。打席に立つと流れるのは「TRAIN-TRAIN」

控え投手だった藤野が試合に出られなかったエピソードから考えると、連戦でもほぼ一人で投げ切るような絶対的な存在だったことがうかがえます。

県予選では「9点しか取られていない」そう。9失点を「しか」と表現したことで、いかに彼が一人で投げ抜いてきたかわかります。

例えば予選で20イニング程度投げて9失点だったら、甲子園に出てくる投手としては決して「9点しか」ではないわけです。
東入間が埼玉県代表だとして、もしノーシードの1回戦から出てきていたら、甲子園に出るまで多くて8試合を戦うことになります。

そのほとんど全てを園田くんが投げていたとすれば、8試合で9失点は確かに素晴らしい数字です。このあたりの数字のさじ加減が絶妙でした。(笑)

叫べない、こんな夏だから

アルプススタンドの端っこの方から声を嗄らすみんなと一緒に、前のめりになって「頑張れえぇぇ!!」を叫びたい映画でした。
喉の端っこの方まで、「頑」が出かかりました。

2020年7月現在、コロナの影響はスポーツ観戦に大きな影響を及ぼしています。

声を嗄らすことはおろか、ブラスバンドによる応援も、競技によっては手拍子も禁じられています。

僕はスポーツにおいてスタンドにいる人間の多くは傍観者ではなく、一緒に戦う存在、選手やチームを勇気付ける存在であると考えています。

現在のスタジアムのスタンドから観る人たちはサポーターとかファンとかブースターではなく、“観客”であることを強制させられています。映画のセリフの通り、「しょうがないって受け入れなきゃいけない」のでしょうが、やっぱり寂しいです。

腹の底から声を上げて園田くんに、矢野くんに、東入間高校に声援を送る美しき高校生。
そんな彼女たちのように、大声で頑張っている人たちに「頑張れ!!」を叫ぶことのできる日常がまた戻ってくることを祈っています。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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2020年5月9日

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