映画『鍵泥棒のメソッド』ネタバレ感想〜丁寧な脚本と丁寧な香川照之〜

(C)2012「鍵泥棒のメソッド」製作委員会

こんにちは。織田(@eigakatsudou)です。

映画を観ていて、「これはやられた!」と思うことはないでしょうか?

張り巡らされた伏線の丁寧な回収だったり、
痛快などんでん返しだったり。

製作側の手のひらの上で転がされる快感は、エンターテインメントを享受する上で最高の幸福とも言えます。

 
今回ご紹介する映画は内田けんじ監督の『鍵泥棒のメソッド』(2012年)。Amazon プライム・ビデオで鑑賞。

内田監督が『運命じゃない人』『アフタースクール』でも見せていた丁寧な構成が、この上なく気持ちよく炸裂します。

大げさでなく、万人に観てほしい本当に面白い映画です!

『鍵泥棒のメソッド』のスタッフ、キャスト

スタッフ、キャスト

監督・脚本:内田けんじ
桜井武史:堺雅人
コンドウ/山崎信一郎:香川照之
水嶋香苗:広末涼子
香苗の姉:小山田サユリ
香苗の母:木野花
香苗の父:小野武彦
理香:内田慈
工藤純一:荒川良々
土屋(工藤の背の低い子分):林和義
藤本(工藤の背の高い子分):ウダタカキ
綾子:森口瑤子
階下の女:荒川結奈

あらすじ紹介

35歳でオンボロアパート暮らしの売れない役者・桜井は、銭湯で出会った羽振りのよい男・コンドウが転倒して記憶を失ってしまったことから、出来心で自分とコンドウの荷物をすり替え、そのままコンドウになりすます。

出典:映画.com

相手がいないながらも結婚すると決めた出版社勤務の雑誌編集長・香苗(広末涼子)と、コンドウという名で裏社会の便利屋を営む山崎(香川照之)。そして35歳独身・定職なしの桜井(堺雅人)

簡単にいうと、人生に絶望した桜井(堺)が、人生の成功者である山崎(香川)の人生になりすまして乗っ取ってしまうお話です。

何の接点もないはずの3人がひょんなことから邂逅し、これまでの人生では有り得なかったような展開に巻き込まれていきました。
 

伏線の数々が綺麗に回収されていき、「そうだったのか!」を与えてくれるストーリー。
そして伏線回収に至るまでに積み重ねられていく小さな笑いの数々。

一方で、難しそうなプロットを小難しく見せず、物語のスピード感を殺さない上手さも光ります。

役者陣ではこの後感想のところで触れていきますが、香川照之が半端じゃなく凄い
ファンならずとも必見の超傑作だと思います。

事前情報を持たずに鑑賞した方が楽しい映画です。
どうぞ丸腰でご覧ください。

また、再鑑賞しても面白いと思います。僕も上映当時以来約8年ぶりに観ましたが、やっぱり楽しかったです。
観たことがある方ももう一度ぜひ!!

 

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。



映画のネタバレ感想

以下、作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

この映画の見どころは、こちらに先入観、予想を植え付けながら、それらを一つずつ覆していく丁寧な構成です。

内田けんじ監督にしかできないであろう、圧倒的な丁寧さです。

この「丁寧」というキーワードを演者側で体現しているのが香川照之

記憶喪失になり桜井として生きる香川と、記憶が戻った後の香川。
恐るべき二面性を演じる中でも、「丁寧さ」は一貫していました。

※「コンドウ」「山崎」と二つの役名が出てくるため、この後は「香川照之」という表記で一貫させていただきます。

几帳面な香川照之

ダメ男(堺雅人)が暮らしていた汚部屋。
桜井としてそこに住むことになってしまった香川照之は、吸い殻がてんこ盛りになったマルボロも、脱ぎ捨てられたヨレヨレのネルシャツも、自分の過去を物語る一つのファクターとして受け入れていきます。

ダサいチェックシャツもタイトすぎるTシャツも、きっちりとパンツインして着用します。

数少ない所持品から「好きなもの」をあぶり出して自分というパーソナリティを探っていく。

ノートに細々と気づいた点や疑問点を書き出していく様は丁寧というほかありません。

記憶を喪失しても、目的に向かって一つ一つ課題を解決していく丁寧さは変わらなかったんですね。
これは結末へ向かってどのように物語を進めていくのか考える、内田監督の姿勢とも一致します。

便利屋としての香川照之を、「丁寧な仕事ぶりに定評がある」と表現するシーンがありましたが、それはすなわち内田監督の仕事ぶりとも言えるのではないでしょうか?

 
冴えない貧乏役者・桜井(堺雅人)が殺し屋・コンドウを演じようとしても上手くいきませんでした。
でも、殺し屋のコンドウは、貧乏役者の桜井という自分を受け入れて、成りきりました。何なら本物の桜井よりもよっぽど成功しています。

あれだけ汚かった桜井の部屋が、住む人間が変わったことによって、綺麗になっていく様も必見ですね。
どうしようもないオンボロアパートが、慎ましい生活空間へと変化していきました。




面白い香川照之

香川照之の誠実かつ丁寧な仕事ぶりは「笑い」にも転化していきます。

医師から脳に目立った外傷がないと言われ、自分が何者なのかわからずにベッドで呆然とする香川。

口を半開きにして心ここに在らずといった表情は完全に「終わった」者のそれでした。
冒頭から只者ではない感じ満載で目をギョロつかせ、不穏な空気を漂わせていた男が、巻き込まれてしまった転落劇。

おそらくカタギではない何者か、を印象付けられていただけに、桜井武史として生きる慎ましく手探りの日常には大いなるギャップが生まれます。

作品序盤は彼が困ったような顔で弱音を吐くたびに笑いました。
もうこの時点で作品の勝利が約束されたようなものです。

作品内でほとんど笑わない香川照之。
その彼が唯一笑顔を見せていた演劇鑑賞のシーンも特筆すべきでしょう。

待ち合わせ場所で香苗(広末)を見つけて超絶スマイルで手を振る香川。
演劇を観ながら大きな口を開けて楽しそうに笑う香川。

少し引いたところから観察眼的に香川を映すことで、彼が今どのような心境でどういう事態に陥っているのか(多くは苦悩)教えてくれる構成も上手です。

笑うって、いくつか種類があると思うんですね。

滑稽だから笑うものと、それがネタとして面白いから笑うものと、ギャップで笑ってしまうものと。

本作品の香川照之はその全てを合わせ持っているように映りました。

表情の機微、言葉のトーン、そしてキャラクターの演じ方。あの役は彼でなければ成り立たなかったのでは?とさえ思います。

35歳(らしい)のおっさんが迷える子羊のように自分の人生を探し、受け入れて頑張っていく姿。

何度見てもダメです。笑いが止まりません。
それはきっと、バカにした笑いではなく、純粋な面白さとしての笑いです。

 
怖くて最高に気持ち悪い香川照之が観たい方には『クリーピー』もおすすめです!

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2017年10月28日

IDカード、DVD…

香川照之の演技以外でも、この映画には笑ってしまうポイントが盛りだくさんです。

桜井が山崎(香川)の家で見つけた偽造身分証明書の数々。

全て香川照之が変装し、偽名を名乗ったものですが、これも実に面白くて全部見せてほしいくらい。
第二営業部の日焼けしたチャラ男、あれは何者なんですかね?

 
また香苗の父親(小野武彦)の葬儀で登場する、ビデオレターの取り違えも最高でした。

本来流すはずだった葬式用DVD、香苗の結婚式用、(自身の)初7日、一回忌、三回忌、七回忌用。

死期の迫った親父が、これをスタジオでコツコツと撮影して準備していたことを想像しただけで限界ですね。

IDカードも葬式のシーンも、共通するのは決して笑いを取りにいったものではないということ。

IDカードの束をパラパラとめくる桜井は怪訝な顔つきでしたし、ビデオレターのシーンもそこで笑う列席者は一人もいません。
むしろ困惑のザワザワが大きかったように感じます。

こちらがネタ元のわかる傍観者であることを利用して、緊張感や悲壮感が漂うはずの場面でさえも笑いに転化してしまう。
天才的な演出と言っていいでしょう。

細かなネタで言えば、ガラケーユーザーの桜井が山崎のスマートフォンに出ようとした時のぎこちなさすぎるスワイプも必見。

当時はそこまでスマホが一般化してなかったわけですが、今改めて見ると化石人間のように映りますね…。

この映画、全然アリです。

広末涼子が演じた香苗の生真面目さも、エンタメとしては最高級でした。

「アリです」
「アリです」
「アリです」
「アリです」

婚活中の香苗は合コンに励むわけですが、同僚が提示する候補者リストの外見に対して広すぎるストライクゾーンを示します。

「これもアリですか?」
「全然アリです」

普通の女性だったら真っ先に切られそうな個性的すぎるご尊顔(ムロツヨシ)にも、「全然アリです」という最高級の評価を(上から)下します。

「…ギリギリアリです」
「……これはうちの旦那です」

そんな香苗がやや評価を渋ったのが、副編集長(李千鶴)の旦那に対して。

そもそも見合い相手として見せてきたわけではなく、勝手に香苗が判断してしまったものですが、副編集長の堅物ぶりも相まってホッコリするシーンです。

作品の山場で、桜井(堺雅人)による渾身の血のり演技が全く通じなかったのも面白かったところ。

香川照之が桜井武史として着実に成長していく一方で、結局“本家”の桜井は何も成功できなかったわけです。

コンドウの仕事をミスり、彼がこれまで積み上げてきた功績も格も下げ、果てにはクッキー缶に入っていた緊急用資金すら使い果たしてしまいます。
本当に救いようがないクズです。

鍵泥棒は無力で何の取り柄のないまま終わってしまった、はずでした。

クライスラーの300Cに取り付けられた警報音を利用した伏線回収によって、香川照之と香苗がハッピーエンドを迎えたはずでした。

そして吉井和哉の「点描のしくみ」に入り、映画はエンディングに入ります。

堺雅人、香川照之、広末涼子と、列挙される出演俳優。

森口瑤子の後に鍵が表示され、突如として画面は桜井のボロアパートに戻ります

 
最後のワンシーンはオマケみたいなものだとは思うのですが、最後まで何一ついいところのなかった桜井が救われた大事な優しさの部分です。

これほど綺麗に、緻密に構成された映画を僕はまだ他に知りません。
時が経っても継承していきたい、邦画史において最高峰の傑作だと思います。

作品の起承転結についてはMIHOシネマさんの記事が詳しいです。

ご確認したい方はこちらからどうぞ!

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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