映画『君の膵臓をたべたい』ネタバレ感想〜実写版とアニメ版の比較をしてみました〜

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こんにちは。織田です。

今年2018年に公開された、劇場版アニメ『君の膵臓をたべたい』を鑑賞してきました。
住野よるのベストセラー小説を原作に、牛嶋新一郎監督が声優に高杉真宙、Lynnを抜擢して制作。

昨年の夏に月川翔監督、浜辺美波、北村匠海の主演で実写版が公開されました。

『君の膵臓をたべたい』実写版の感想はこちら

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映画『君の膵臓をたべたい』ネタバレ感想〜ボロ泣き必至〜

2017年8月15日

実写版がかなり良い出来だったので、そちらと比較しながら、原作に忠実な本作のレビューをしていきます。

なお、ネタバレが多発しますので、未見の方はご注意ください。



『キミスイ(アニメ版)』のスタッフ、キャスト

監督:牛嶋新一郎
原作:住野よる
僕:高杉真宙
山内桜良:Lynn
恭子:藤井ゆきよ
隆弘:内田雄馬
ガム君:福島潤
桜良の母:和久井映見

あらすじ紹介

2017年に公開された実写版映画も大ヒットを記録した、住野よるのベストセラー小説の長編アニメ映画化。他人に興味を示すことなく、いつも一人で本を読んでいる高校生の「僕」。ある日「僕」は一冊の文庫本を拾う。「共病文庫」と記されたその本は、天真爛漫でクラスの人気者である山内桜良が密かに日常を書きつづった日記帳で、そこには、彼女が膵臓の病気を患い、残された余命がわずかであることが記されていた。「PとJK」「散歩する侵略者」の高杉真宙が主人公「僕」役で声優に初挑戦。ヒロインの山内桜良役を声優のLynnが演じる。監督は「ALL OUT!!」の副監督をつとめ、本作が初監督となる牛嶋新一郎。

出典:eiga.com

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

 

映画のネタバレ感想

以下、作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

アニメ版の良かった点

昨年観た時は知りませんでしたが、実写版は原作の小説を少し改変して作られています。(後述)
一方でこちらのアニメ版は、原作に忠実に作られていました。

アニメ版のよかった点をいくつか挙げて、解説していきます。

ナレーションの使い方

「君の膵臓をたべたい」は「僕」の視点を通して語られていきます。
本作では「僕」のナレーションを随所に散りばめていましたが、独白調になりすぎず、作品を客観的に紹介するという点で親切なものでした。

「僕」は常に自分だけと向き合い、他者に対して興味を示しません。だからこそ、他者を客観的に(観てもいないんでしょうけど)捉えることができる。
そんな「僕」の、温度のあまり通っていない視点がナレーションには効果的だったと思います。

桜良の描写

アニメ版が圧倒的によかったのは、桜良の描き方に尽きます。
アニメだからこそできる、シーンの中での細かな動きにしっかりフォーカスしていました。

例えばヒルトンホテルで、お姫様抱っこをしてもらいベッドに運ばれるシーン。
実際の時間にして10秒足らずであろう「僕」の数歩を、スローモーションのように切り取って特別な感じを出しています。ここで、彼の腕の中で運ばれる桜良の鼓動の変化、指先の動きが丁寧に映されています。

アニメ版は実写版に比べて、桜良が「僕」に対して異性という意識を強く持っています。恐らくそれが原作通りなのでしょうが、照れるシーンや細かな動きで彼女に芽生え始めた恋心をうまく表現していました。

男女の「気になる」や「仲良くなりたい」は単純にイコール恋心ではない。仲良くなりたいから絡むんだ。

実写版ではこのように評しましたが、アニメ版では明らかに恋愛感情が発生していましたね。


クラスの中で人気者となっている桜良の描き方も上手でした。
制服の上からパーカーを着ているシーンが最高。ああいう着崩しを許されているのは、クラス内で確固たる地位を築いているからこそだと思います。「僕」じゃきっとできません。
あとは単純にパーカー姿の桜良が可愛いですね。

ショートの浜辺美波とは違う桜良のキャラデザインも良かったです。天真爛漫な感じがよく伝わってきました。

背景描写が美しい

実写版でも十分クオリティーの高いところがありましたが、やはり美しさという点ではアニメに一日の長があります。
特に2人が海辺を歩くシーンは秀逸。やはり水が介在するシーンの、アニメ映像は強いですね。裸足で歩く桜良の話を聞きながら、「僕」が彼女のローファーをぎゅっと握った描写もたまりません。

その後にベンチに座る位置や、2人を写す角度、足についた砂を払う桜良。
細部までこだわりが見られ、アニメ映像を使う魅力を十分に生かしていたのではないでしょうか。映像面という意味では、アニメにして良かったなと思えるところがたくさんありました。

実写版の良かった点

アニメ版と実写版を総合的に比較すると、個人的には実写版の方が琴線に触れる作りになっていました。
これはアニメ版が劣っていた、のではなく、実写版がより良かったという表現がふさわしいです。

個人の好みになってくるとは思いますが、以下、実写版の優れた点を列挙していきます。

恋心を薄くした点

上でも書いた通り、実写版の「僕」と桜良に介在するのは恋心のレベルまで昇華されていません。恐らく意図的に、月川監督や製作陣が抑えていたんだと思います。

「キミ」で呼び合う2人の関係は「仲良し」以上でも以下でもない。実写版ではとにかく距離感に気を遣って作られている印象が強かったです。

その一方で、矢本悠馬が実写版で演じた「ガム君」は、明らかに「僕」に対して「友達」になろうという意識が強く出ていました。また、桜良の親友役を演じた恭子に至っては、桜良、「僕」に対する強い干渉を描くことにより「仲良し」との違いを色濃く出していました。

恭子の描写で実写版が完勝

この恭子というキャラクターについて、僕は実写版のレビューを書いた時は、あえて触れませんでした。

「僕」と桜良の関係は恋人でも友達でもなく仲良しである。

これは余命のはっきりしている桜良に対して「僕」が自らに課した割り切り方の一つであり、「僕」にとっての「友達」という言葉は最後に意外な人に向けられる。

その伏線もまた青くて微笑ましい。

まだこの映画を観ていない人に向けて書くと、僕はこの記事内で一人の女子生徒について触れていない。
そのキーパーソンは「キミと僕/私」のドライな関係に比べてとっても依存性の高い関係を求めるキャラクターで、それがゆえに「友達」「親友」「恋人」といったワードが作品内でより強いメッセージを持つようになったと思う。

「僕」はその人物に向かって「キミは本当に彼女(桜良)のことが好きなんだね」と言う。
「僕」と桜良が「友達」にならなかったのは、また決して「好きだ」という言葉を発しなかったのは彼女の存在が大きかったんじゃないかな。

『君の膵臓をたべたい』(実写版)

親友役の彼女を印象的に登場させることで、「僕」の感情にブレーキをかけていました。ここは本当に実写版が上手かった。

「僕」(北村匠海)のことを桜良につく害虫かのように毛嫌いする恭子(大友花恋)を見て、僕は彼女が本当は「僕」のことを気になっているんじゃないかと邪推しました。でも、恭子の中にあったのは、ただただ桜良への友達感情だったんですね。


彼女のことを一番理解しているのは私でありたいという自負もあったと思います。
恭子の使い方。そこが実写版とアニメ版の大きな違いだったかなと。

ちなみにアニメ版では、「僕」がナレーションで恭子のことを「彼女(桜良)の保護者」と表すシーンがあります。この言葉選びはとっても良かったですね。

時間軸の操作は正解だった!

実写版では、小栗旬、北川景子の2人を起用し、「僕」たちの12年後を並行して映し出していました。
原作からの大きな改変部分でしたが、先述の恭子、ガム君が「僕」に関わる場面であった伏線の回収に加え、「僕」と桜良が図書委員であったことの意味づけもしっかりとできていました。

普通に映像化したらアニメ版のような形になると思うんです。こちらも「星の王子さま」をキーワードに、本の世界を何とか作品内に落とし込もうとしていました。
終盤に桜良の独白が行われるファンタジックな演出は「星の王子さま」にフォーカスした一つの結果でしょう。本と作品の関係性を描く上では一つの正解だと思います。

 
ただ、実写版は2つの時間軸を操作することによって、正解を超えてきました。
アニメ版では「一年後」という形を取っていましたが、キャラクターや作品全体に及ぼす影響力が比になりません。

実写版で2人が図書委員として棚ごとの分類をしていたシーンの回収は鳥肌が立ちました。積極的な改変は大正解だったのではないでしょうか。

涙の量

最後に、圧倒的な差を感じた場面を挙げます。
本作品において、どこで泣くかは人それぞれですが、僕にとっては「僕」が桜良のお母さんの前で「共病文庫」を読み、感情を解き放つシーンでした。

「お門違い」という言葉の使い方、これまで閉じ込めてきたものを発露する僕。文字にすれば実写版もアニメ版も変わりません。
ただし、実写版でみせたお母さんの表情、そして北村匠海の「僕」が演技に込めた気持ちの量はやはりアニメ版とは違いました。その違いはそのまま、流す涙の量の差となった気がします。

事実、昨年実写版を見たときは本当に涙が止まりませんでした。
もう少し、感情に訴えかける描き方もできたのではないかな?と思いました。「僕」の最大の見せ場ですからね。


共病文庫
共病文庫に対する「僕」のアプローチの違いも特徴的でした
劇場版アニメ『君の膵臓をたべたい』は素晴らしい作品でした。
一方で、前年に公開された実写版の評価がまた大きく上がりました。

傑作を観ることで、別の傑作が大傑作に昇華する。実写版の素晴らしさに改めて気づくことができたのは幸せだと思います。