映画『メランコリック』ネタバレ感想|銭湯と東大くんと“夜”のお仕事

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こんにちは。織田(@eigakatsudou)です。

今回は2019年の映画『メランコリック』をご紹介します。

主人公の和彦役を演じた皆川暢二さんがプロデューサーを務め、和彦のバディ・松本役の磯崎義知さん監督の田中征爾さんとともに作り上げたインディーズ映画。というのは鑑賞した後に知ったんですが、低予算うんぬんを感じさせない、面白い映画でした。

東大卒のニートな主人公がバイトすることになった銭湯は、実は閉店後に殺人&処理が行われている場所でした!という話。この設定がすでに面白いですよね。

この記事では『メランコリック』の設定の面白さ、また主人公・鍋岡和彦の立ち位置を考えながら感想を書いていきます。

プライムビデオで観れるので未見の方はよろしければご覧ください。

あらすじ紹介

名門大学を卒業後、アルバイトを転々とし、うだつの上がらない生活を送っていた和彦。ある日、偶然訪れた銭湯で高校時代の同級生・百合と再会した彼は、そこで一緒に働かせてもらうことに。やがて和彦は、その銭湯が閉店後の深夜に浴場を「人を殺す場所」として貸し出していることを知る。さらに、同僚の松本が殺し屋であることが明らかになり……。

出典:映画.com

スタッフ、キャスト

監督・脚本 田中征爾
鍋岡和彦 皆川暢二
松本晃 磯崎義知
副島百合 吉田芽吹
東オーナー 羽田真
小寺 浜谷康幸
田中 矢田政伸
田村 大久保裕太
この後、本記事はネタバレ部分に入ります。映画をまだご覧になっていない方はご注意ください。



『メランコリック』の設定

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

舞台は浦安

『メランコリック』の舞台は千葉県・浦安
東京ディズニーリゾートがある舞浜と同じ市ですが、TDRに行くにはバスで30分ほどかかります。一本で行けるんで便利ですけど。

実在した浦安の銭湯「松の湯」さんがこの映画でも大事な役割を担っています。

銭湯の内部にもバルドラール浦安(フットサル)のポスターが貼ってあったり、浦安の町名・猫実(ねこざね)が映ったり、ヤクザのおじさん・田中(矢田政伸)が乗っている車が習志野ナンバーだったりと、随所に地元感を出していました。

銭湯「松の湯」でバイトすることになった主人公の青年(30歳)・鍋岡(皆川暢二)と、一緒に働く金髪青年・松本(磯崎義知)の二人は、履歴書を見ると東京都葛飾区の住まいとのこと。

まあ葛飾も千葉寄りなので浦安に近いことは近いですけど、鍋岡の住所となってる青戸から浦安までは車で20分くらいの距離と、決して“地元”ではありません。

ただ映画の中では「松の湯」が鍋岡の家族も知っている「あそこね」的な場所と考えると、浦安だの葛飾だのと実際の地図で考えるのはあまり正しくないのかもしれませんね。

東大は出たけれど

そんな主人公・鍋岡(皆川暢二)は、地元の高校から東京大学法学部政治学科に進んだ秀才くんです。

しかし、卒業後はアルバイトを転々として未だに実家で暮らしています。ハリーポッターの本が並ぶ部屋で母親に強い口調で反抗する鍋岡和彦、30歳。ちょっと前に流行ったスラングで言うところの「こどおじ」でしょうか…。

彼はひょんなことから訪れた銭湯で高校の同級生・副島さん(吉田芽吹)に再会し、微妙に危うい感じながらも楽しい会話をします。お風呂上がりで「っていうか私凄いスッピン」と恥ずかしそうにする副島さん。可愛いな!?

このタイミングでは、副島さんの中では鍋岡はまだ東大卒(で仕事大変なんだろうな)のエリート扱いです。

副島さんから今度高校の同窓会あるけど?と誘われた鍋岡は一旦厳しそうな回答をしたものの、副島さんが同窓会でもっと話せると思ったのに、と名残惜しそうな雰囲気を見せると翻意。

「じゃ行こうかな」(早口)と目線を合わせずに答え、最後には「風邪には気をつけてね外寒いから」(ひと息)と副島さんの帰路を心配する思慮を見せます。

この鍋岡の話し方が最高なんですよねw

この後に同窓会で副島さんと狙い通りお喋りをして、実はいま休職期間中でと明かし、副島さんの提案通り「松の湯」で働くことになった鍋岡。銭湯に客として訪れる副島さんとはバイト後に待ち合わせて飲むという青春を送ることになります。春がやってきました。

ちなみに副島さんはオートロックなしのアパートの1階に住んでいるわけですが、安全面的に怖くないんですかね…?治安いいのかな浦安。

「銭湯で殺人」の合理性

鍋岡は字が汚い金髪青年・松本(磯崎義知)と同期採用という形で「松の湯」のアルバイトに就職。

一見普通の銭湯の「松の湯」でしたがその実態は、終業後の深夜に人を殺し、処分する場所として使われている場所でした。

『冷たい熱帯魚』しかり、浴場は映画でも現実でも死体の血抜き処理でよく使われる場所ではあるんですが、実に合理的ですよね。どうせ掃除するし。
なお、死体は釜で燃やします。死体処理と焼却をどちらもできる便利な場所。

「松の湯」には小寺さん(浜谷康幸)という有能な殺し屋がいて、彼の鮮やかな殺害現場を見てしまった鍋岡は腰を抜かしてしまいました。まあ普通そうなりますよね。

見てしまったな貴様、生かしておけぬ…になった小寺さんでしたが、銭湯のオーナー・東さん(羽田真)が間に入り、秘密を共有することで何とか命が繋がった鍋岡。
翌日からは共犯者として“夜の仕事”に仲間入りしました。

もちろん家族や副島さんにはこのことは秘密です。そして同期の金髪男・松本にも。

求められる喜び

鍋岡(皆川暢二)はその後“夜の仕事”で現場の後処理をして、東さんから特別手当をもらいます。
金銭面でもそうだと思いますけど、それ以上に自分が戦力として、危険な仕事を担う一員として求められている喜び、充実感にあふれる鍋岡。

上機嫌で“昼の仕事”(通常のお風呂営業)に取り組む鍋岡に松本(磯崎義知)は何か良いことあったんすか?と問いますが、鍋岡は意味深を匂わせながら別にとはぐらかします。うざいですね。笑

そもそも東大出の自分と同じ日に面接に臨み、汚い字で書いたくしゃくしゃの履歴書を提出し、ろくに問答もしないままに採用となった松本に対して鍋岡は微妙なライバル意識を持っています。
ライバル意識というよりも同列に扱われたくない、こいつよりは上でありたいという感覚でしょうかね。

鍋岡の負い目

想像するに鍋岡は高校で快挙とも言える東大進学を果たしたものの、校内ではパッとする存在ではなかったのでしょう。同級生の間では「東大(に行った鍋岡)くん」という位置付けだと思います。

僕の高校でも慶應義塾大学に現役で入った(超快挙)同級生がいましたが、卒業後は名前じゃなくて「慶應」って呼ばれてました…

周囲から評価される学歴を歩みながらも鍋岡は定職につかず、うだつの上がらない生活を続けていました。

「東大」は鍋岡を形容する言葉でありながら、彼の生き方をも縛り付けます。
松本が「100万回聞かれてることだと思いますけど」と前置きしながら尋ねたように、「東大出」ではない人からしてみれば何故東大卒の青年が銭湯のバイトをしてるんだというのは自然な疑問であるものの、本人にしたら東大卒の人生を勝手に規定されたらたまらないって感じですよね。

ただ厳しいかもしれないですけど、鍋岡にも至らないところはあったように感じます。

例えば田中襲撃決行の当日に松本と「13時」で待ち合わせたのに、鍋岡が銭湯に現れたのは10分過ぎ。また同期採用の松本に対しても結構上から目線で偉そうな態度をとっています。そういうとこじゃないかな…?

鍋岡のコンプレックスの部分に話を戻すと、高校で同じく地味キャラだった田村(大久保裕太)は現在やり手の実業家として名を馳せています。
高校の同窓会も田村が出資した「うちの店」で行われ、高校時代には見向きもされなかった女子に囲まれて圧倒的な主役となっていました。成功者です。

成功したい。主役になりたい。仕事ができる自分でありたい。

成功し、主役になると思われるようなキャリアを重ねながらも実家住まいのフリーターに甘んじている鍋岡にとって、成功願望は強かったと思います。
だから“危険な仕事”を遂行する戦力として頼られ、特別手当を支給されたときの喜びはひとしおだったでしょう。

鍋岡は副島さんとのディナーに行くため、ある日の“夜の仕事”を欠席したものの、彼女と別れた後に“夜の仕事”が行われている松の湯へ向かいます。

「おお、和彦が来てくれたよ!」とか「助かるよ!やっぱり和彦くんが必要だよ!」みたいな感じで小寺さんや東さんに歓迎されると思ってたんでしょうね。
なぜなら俺は夜の大事な任務を任された一員だから。松本と違って。

鍋岡の失望

しかし「松の湯」にいたのは松本でした。

「どうして松本が呼ばれてんの?」

鍋岡の放った台詞が全てですよね。
適当な感じで採用された松本とは違い、俺だけが選ばれたはずの“夜の仕事”。必要とされていたのは俺だったはずなのに。

しかし松本も“夜の仕事”の一員だったわけです。むしろ主力でした。

松本は場慣れした様子で処理をこなし、鍋岡にも指図をします。

この時の鍋岡の失望は大きかったはずです…

そして追い討ちをかけるように、東オーナーは「“昼”は和彦くんがリーダー、“夜”は松本くんがリーダー」と分担を決めました。

鍋岡の中で、仕事の価値として「夜>昼」という重さの違いがあったはずです。
“昼”の銭湯の通常業務は代替可能なものである一方で、“夜”の仕事は選ばれた者にしかできない難しい仕事。

どんな職種でもそうですけど、入りたての人に任される仕事と、一人前になってから任される仕事は違いますよね。鍋岡からしてみれば“昼”の銭湯業務が前者、危険を伴う“夜”の仕事が後者なわけです。

遊びじゃない“仕事”

松本が殺し屋・小寺さんと一緒に危険な現場へ「外回り」に行く一方、鍋岡はお留守番役を任されます。
松本はなかなか有能なようで殺人作業もスムーズにこなし、小寺さんや東さんからも頼られていました。

“夜”のリーダーになれなかった鍋岡ですが、次第に松本との立場の違いを実感するようになり、「危険な仕事は松本が、それ以後の処理は俺(これも大事な作業)」的な感覚になっていきました。処理作業でも特別手当もらえるし危ない仕事に加担しているのは確かだからです。

しかし小寺さんが凶弾に倒れ、松本しか実行役がいなくなると情勢は変わってきます。鍋岡お前も現場出ろっていう話です。

この苦しい状況を突破するためのただ一つの方法、それは“仕事”を押し付けてくる田中を消すこと。松本、鍋岡、そして東さんはラスボスを倒すための計画を練ります。

仕事への覚悟はあるか

先ほども書きましたが、この段階になると鍋岡にとって「危険な仕事」とは松本がやってくれるものだと高をくくっています。“仕事”の役割分担。

しかしそんな鍋岡に松本は、覚悟も危機意識も足りないし、当事者意識を持ってくれと強い口調で迫りました。遊びじゃねえんだぞこの“仕事”。あんたもやるんだよ!

悪の枢軸・田中という明確な敵ができた以上、実家ぐらしで彼女持ちの和彦さんのスペックは付け込まれかない弱みになると言い、副島さんに危険な思いをさせたくなければ彼女と縁を切れと怒鳴ります。

今まで“夜の仕事”ではお客さん状態だった鍋岡ですが、これで明確な戦力となるわけです。ついに“夜の仕事”に求められたんですね。

覚悟を決めた鍋岡は松本にレクチャーを受けながら銃の構え方、突入の際のハンドサインなどを確認します。

バディ感あってめっちゃかっこいいシーンでした!

決行前夜には松本と二人で飲み明かしました。

下戸でお茶をひたすら飲み続ける松本とかわす言葉の数々。
“仕事”のライバルだった存在が唯一無二の仲間になっていきます。さあ行くぞ鍋岡和彦、俺はやるんだ!!!

戦力外、からの主役に

しかし決行当日、田中の自宅へ向かう車中で、松本はカチコミに一人で行くと告げます。昨日あれだけピストルの構え方やハンドサインまで確認したのに、それは和彦さんの覚悟、本気度を試すものだったと。

「気ィ悪くしないでほしいんですけど、正直足手まといなんスよ」

要するに戦力外通告。なんですが、鍋岡は松本の言葉を受け止め、「松本、気をつけて」と送り出しました。

「お疲れ」とか「行ってらっしゃい」とか、今回の「気をつけて」とか、『メランコリック』は見送りの挨拶が素敵なものが多かったですね!

結局裏切った東さんの前に松本が騙し討ちに遭いながらも、最終的には鍋岡が主役に昇格して悪者を駆逐しました。
やったぜ鍋岡!大丈夫か松本!

 

ちょっと副島さんがあまりにも物分かりのいい人として描かれている感はありますが(笑)、最後は超絶ハッピーエンドでしたね。

信じられないようなスリリングな一日を締めくくるのは、ちょっと能天気な鍋岡の父母。鍋岡家万歳!
下戸の松本が頑張ってお酒を飲み、アンジェラも(復縁した)副島さんも交えて、新生・松の湯で宴会に興じる彼らは何もかもが完璧で、幸福で、ハッピーでした。

善人が報われる最後で良かったです…!

サスペンスコメディーを体現した心地良い2時間。
うだつの上がらない鍋岡和彦30歳が幸せを噛みしめる、素晴らしい映画でした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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