映画『若おかみは小学生!』~ヒカルの碁との近似性~

2週間ほど前になってしまいますが、9月21日に公開された映画『若おかみは小学生!』を鑑賞してきました。

令状ヒロ子さんの児童文学シリーズが原作で、絵は亜沙美さんが担当しています。
講談社の青い鳥文庫で刊行されていることもあり、小学生くらいをターゲットにした作品です。
おっこの声優を務めた小林星蘭さんも、小学生のころに愛読していた作品と話していました。

交通事故で両親を亡くした織子(以下「おっこ」と表記します)が、祖母の経営する「春の屋旅館」に引き取られ、温泉町の若おかみとして奮闘する物語。
おっこの小学校6年生ならではの視点や無垢な心が、観る人を惹きつけ、非常に評価の高い作品となっています。

『君の名は。』などを手がけた新海誠監督もこの称賛ぶり。

期待に胸を膨らませて劇場へ向かいましたが、予想以上に良い映画でした!

以下、大量にネタバレが含まれていますので、未見の方はご注意ください。

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温泉町で会った不思議な精霊

関家の一人娘・小学6年生の「おっこ」(cv/小林星蘭)は、温泉街「花の湯温泉」に訪れた帰路の高速道路で交通事故に巻き込まれ、突如両親を失います。
祖母・峰子が旅館のおかみを務める旅館「春の屋」に身を寄せたおっこの前に現れたのは、同世代くらいの男の子の幽霊「ウリ坊」。

ふわふわと空中を浮遊し、鼻をほじる彼は、峰子の幼馴染み。幼少期に不慮の事故で命を落とし、現世の峰子を見守ってきたといいます。

祖母・峰子とは幼馴染みだったウリ坊(C)令丈ヒロ子・亜沙美・講談社/若おかみは小学生!製作委員会

「おまえ、俺のことが見えるんか!」
実体のない生活?に飽き飽きしていたウリ坊にとって、自身を認識できるおっこの存在はうれしくてたまらない様子。

高齢ながらも旅館を切り盛りする、大好きな峰子ちゃんを助けてあげてくれ!と懇願されたおっこは女将の見習いとして春の屋を手伝うことになりました。

温泉町というだけあり、転校先の同級生も観光業に従事している家族の子が多数。
その中で、「ピンフリ」(=ピンクのフリフリ)と陰で言われている真月(cv/水樹奈々)はライバルの高級旅館の跡取り娘でした。

思ったことをすぐに口に出すおっこは、彼女の反感を買いながらも春の屋でおかみ修行に奮闘していきます。

なお、花の湯温泉のモデルの一つとなっているのは兵庫の有馬温泉だそうです。

良かった点その1

本作品がとてもすばらしかった理由の一つ目が、幽霊と人間の関わり方です。
少し語弊があるので、現世の人間と来世の人間の関わりといった方がいいかもしれません。

ウリ坊の他にも美陽(みよ)、鈴鬼(すずき)という個性的な幽霊や小オニが登場します。
自分にしか見えない不思議な仲間たちと一緒に、いろいろと困ったいたずらをされながらも、おっこは着実に旅館の若おかみとして成長していきました。

女の子の幽霊の「みよちゃん」。その正体は…(C)令丈ヒロ子・亜沙美・講談社/若おかみは小学生!製作委員会

私にだけ見えるあなた

自分だけに見える何者、という点では弊ブログでもレビューした『いけちゃんとぼく』に近いものがありました。
いじめられっ子だった主人公のヨシオが、「いけちゃん」という謎の精霊と関わりながら強く、素敵な男の子になっていく物語です。

また、個人的に一番重ね合わせたのはアニメやコミックスで人気を博した『ヒカルの碁』におけるヒカルと佐為の関係性でした。

単なる小学生だったヒカルに、平安時代からやってきた藤原佐為は囲碁の手ほどきをやや無理やり行い、その成長を後押ししていきます。
おっこを若おかみに仕立てたウリ坊と似た、ある種の執念を感じます。

佐為はヒカルにだけ見える存在で、普通に話しかけても見えていない周りは当然「えっ?」となります。自分にしか見えないものとの会話ではベタな形ですが、このパターンはおっことウリ坊の間でも使われていました。

ヒカルにだけ見える佐為(C)ほったゆみ・HMC・小畑健・ノエル/集英社・テレビ東京・電通・ぴえろ

ヒカルが強くなっていくにつれて、佐為の存在価値というものはだんだんと薄れていきました。佐為も別れが近いことを予感していき、ある日ヒカルの前から姿を消しました。

魔法が解けるまで

こういった物語では、主人公だけに見えている、あるいは主人公だけが秘密を知っている対象の「魔法」みたいなものが解けるまでがセットとして描かれます。

その魔法が解ける瞬間はどちらかの寿命(時限)であったり、主人公の独り立ちであったりするわけですが『若おかみは小学生!』でのそれは、おっこが花の湯温泉の未来を担う存在になったというタイミングだったのではないでしょうか。

ウリ坊が「おっこが、俺らのことが見えなくなってきている」と言ったとき、彼は来るべきときが来た、というような表情でした。

(C)令丈ヒロ子・亜沙美・講談社/若おかみは小学生!製作委員会

ウリ坊たちがおっこの前から消えていくのか、おっこがウリ坊たちの前から消えていくのか。そこは正直定かではありませんが、彼らがおっこにとって大事な友達であるという描写は、おっこがいつも持っていた手作りの綿人形にも込められています。

グローリーさん(cv/ホラン千秋・後述)と向かったドライブの最中にも、おっこは人形を握り締めていました。いつも一緒だよ。一人じゃないんだよ。

映画が終わった後の、中学生になって奮闘していく世界でもきっとおっこは、ウリ坊たちを携えながら生きていくんだと思います。
ヒカルが「佐為がいたらこの局面どうする?」と思っていたように。

(左から)ウリ坊、鈴鬼、みよちゃん(C)令丈ヒロ子・亜沙美・講談社/若おかみは小学生!製作委員会

ラストシーンの神楽で舞うおっこたちに吹き付けた花吹雪は、ウリ坊が最初におっこに見せた「峰子ちゃんとの特別な場所」のアンサーであるような気もします。ウリ坊もこれで旅立つことができたのかな?

不思議な幽霊たちとの楽しい日常、そして別れ(旅立ち)を描いた作品として、とっても心に突き刺さる映画でした。

良かった点その2

ウリ坊や美陽ちゃんのところとも少し重複しますが、『若おかみは小学生!』では死というものをとても身近に描いています。

ウリ坊も美陽ちゃんも、命を落としていまの姿になっています。
旅館でおっこが初めて(?)しっかりと接客を行ったあかね君(cv/小松未可子)はお母さんを亡くしています。

その一方で、両親を交通事故で失ったおっこは、春の屋に引き取られた彼女は悲しみを普段の生活でほとんど見せずに描かれていきます。「両親がいないから」という彼女に対する形容詞もまったく出てきません。
冒頭の交通事故のシーンがなければ、おっこは単純に祖母のところで下宿する女の子のようにすら見えます。

トランクを持って春の屋に入るおっこ(C)令丈ヒロ子・亜沙美・講談社/若おかみは小学生!製作委員会

逃げも、隠れもせずに

だからこそ、気丈なおっこが時折見せる寂しい気持ちや、心的外傷に動悸が収まらないシーンは胸が詰まりました。

旅館を訪れた事故の当事者・木瀬(cv/山寺宏一)の無神経さには傷つき、また彼が彼なりの思いを振りかざさざるを得ない現実につらくなりました。
おっこはもっとつらかったでしょう。

でも彼女は勇気とプライドを振り絞りました。「親を亡くしたかわいそうな若おかみ」ではなく「春の屋の若おかみ」として。
物語としては傷ついた彼女が悲しみに塞ぎこみ、お客様(=木瀬)がひたすらに平謝りするパターンもあったはずです。
それでも、彼女はつらい運命から逃げようとする木瀬に手を差し伸べ、迎え入れました。

母を亡くしたあかね君(C)令丈ヒロ子・亜沙美・講談社/若おかみは小学生!製作委員会

死を身近に知っているからこそ、その悲しみや境遇に引きずられてちゃいけない。だって私はここにいるから。
そんな強い気持ちが、おっこと製作陣から感じ取れました。

付け加えになりますが、グローリー水領さんは、初めておっこを温泉で見たときに彼女の境遇にも幽霊の存在にも気づいていたのかもしれません。
彼氏と別れて浮世離れした感のあったグローリーさんにとって、おっこは現実に向かい合う勇気をくれた大切な存在になりました。

温泉旅館という非日常空間で、改めて地に足をつけて自分を見つめ直せる。おっこに春の屋で出会った人々はそんな思いだったのではないでしょうか。

良かった点その3

最後に、この作品で一番気に入ったキャラクター・真月についてです。

春の屋にとってはライバルとなる高級旅館の跡取り娘・真月。
プライドが高く高圧的で、春の屋のことを「お客様に失礼な旅館」と言い放ったりします。

教室での第一印象は最悪でした。典型的なライバルキャラで、最後はおっこにやり込められる、そんな姿を想像していました。

「ピンフリ」はピンクのフリフリからついた(陰の)あだ名(C)令丈ヒロ子・亜沙美・講談社/若おかみは小学生!製作委員会

プライドの理由

彼女がおっこにキツく当たり「若おかみじゃなくてバカおかみね!」と罵るのは単なる意地悪ではありませんでした。

温泉町である花の湯地域が今後存続、繁栄していくためにはどうすればいいのか。真月は常に考えていました。
その上で、おっこがお客様をもてなすだけのレベルに達していない。そう判断しておっこを否定し続けました。

勝気でマウントを取りたがるライバルキャラクターがのちに考え方を改めたり、負けましたわとばかりに頭を下げる展開はよくあります。

けれど、真月は最後まで強気な姿勢を崩しませんでした。
なぜか。

それは彼女が絶対的に正しいからです。

練習着もピンク(C)令丈ヒロ子・亜沙美・講談社/若おかみは小学生!製作委員会

『若おかみは小学生』では様々な本で勉強している真月を描写しているほか、同級生からも「真月ちゃんは(ムカつくけど)やっぱりすごいよ」という台詞を引き出しています。

きっと彼女は、おっこたち12歳が普段しているたくさんの楽しいことを犠牲にして観光業でこの町が生き残っていくための勉強をしています。

多少性格に難があったとしても、最後まで弱気なところを見せることなく真月を描ききったのは、努力の塊である彼女を一つの正義として製作側が認めているからだと思うんですね。
お客様をおもてなしするために必死でもがくおっこも正しいです。どっちも正しいんです。

あなたには意地ってものがないの?

「春の屋」でお客様に出す献立に困ったおっこは、真月のところに助言を請いに向かいました。

迎えた真月は「あなたには意地ってものがないの?」と呆れます。ライバル旅館の、それもあんなにいがみ合っている私のところに来るなんて。

でも、おっこが自分の意地よりもお客様に満足してもらうことが大事と話すのを聞いて、真月はおっこを「わかおかみ」として認めます。恐らく彼女がおっこに対して一番物足りなく感じていた部分での、成長を実感します。

このシーンは「春の屋」でおっこが顔を真っ赤にして悩んだ末にとった行動というところも見逃せません。
おっこが、真月を認めた瞬間という言い方もできると思います。
ここの一連は、個人的に一番ぐっと来る場面でした。

他人を認めることってすごく難しいことだと思います。自分を敵対視している相手だったらなおさら。
悔しいし、笑われるかもしれない。

でも、認め合ったその先には、今までにない景色が見えてくる。
そんな素晴らしい世界を教えてくれた映画でした。

自分の当たり前から一歩外に出て、相手の良さを探して頼ってみる。
僕たちも普段の生活で実践できるんじゃないかなと思います。

個人的には高校生くらいの世代に観てほしい作品。

★★★★★。

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