映画『LOVE LIFE』ネタバレ感想|この世界は不完全と理不尽に満ちている

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こんにちは。織田です。

今回は2022年公開の映画『LOVE LIFE』をご紹介します。

『淵に立つ』などの深田晃司監督。主演は木村文乃さん。矢野顕子さんの楽曲「LOVE LIFE」をモチーフにした作品とのことです。

『淵に立つ』でも感じられた不穏な雰囲気は健在でしたが、嫌悪感や怖さよりは前向きな後味でした。
この記事では映画の感想を書いていきます。

ネタバレを含むため、未鑑賞の方はご注意ください。



あらすじ紹介

元夫との間に生まれた息子・敬太(嶋田鉄太)と、再婚相手の大沢二郎(永山絢斗)と共に幸せに暮らす妙子(木村文乃)。平凡だが穏やかな日々を過ごしていたある日、一家は思いも寄らぬ悲劇に見舞われる。突然の出来事にぼうぜんとする妙子、彼女を見守ることしかできない二郎の前に、妙子の元夫で何年も失踪していたパク・シンジ(砂田アトム)が現れる。

出典:シネマトゥデイ

スタッフ、キャスト

監督・脚本 深田晃司
大沢妙子 木村文乃
大沢二郎 永山絢斗
大沢敬太 嶋田鉄太
大沢明恵 神野三鈴
大沢誠 田口トモロヲ
山崎理佐 山崎紘菜
パク 砂田アトム
この後、本記事はネタバレ部分に入ります。映画をまだご覧になっていない方はご注意ください。



映画のネタバレ感想

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

不信

冒頭で紹介した通り、この映画では序盤から不穏な雰囲気が漂います。

息子・敬太(嶋田鉄太)のオセロ大会優勝を祝うため、部屋を飾りつける妙子(木村文乃)。団地のベランダから見える眼下の広場で、仲間と一緒にボードメッセージを掲げるデモンストレーションをする夫の二郎(永山絢斗)。その「仲間」の中には、妙子と敬太が知らない女性(山崎紘菜)も入っていて、妙子は二郎に彼女のことをそれとなく尋ねるも、返ってきたのは訳ありな返答でした。妙子と二郎の間に漂う不穏な雰囲気。

妙子は二郎に、お義父さん、認めてくれるかな?と訊いています。ホームパーティーは敬太のお祝いであると同時に、二郎の両親に結婚を認めてもらうためのイベントでもありました。やってきた二郎の両親、特に義父(田口トモロヲ)は硬い表情。食卓の長椅子に座っても、夫婦の方を見ないで横向きに、何なら背中を向けて座っている風すらあります。

目を見て話そうとしない、というのはこの映画のキーポイントでもありますよね…

午前中の不在時に義母(神野三鈴)が妙子に「パチンコかしら」と言っていたことから、休日は遊び歩いている親父かと思いきやそうではなくて、何とも不器用で無口な頑固親父という感じです。趣味の釣りの話を振られて「中古(のロッド)」という単語を出すと妙子が敏感に反応して「撤回してください」と迫りました。隠せないお互いの不信感。

このやり取り、そして妙子と義父の静かなるバトルがひと段落してから義母がかけた“孫”のセリフを通じて、私たちは敬太が二郎と妙子の間にできた子ではなく、妙子と元夫の子どもだということ、また実の孫ではないことに対する義両親の精神的な乖離を理解します。

死後

オセロの画像

出典:写真AC

敬太(嶋田鉄太)の祝勝会兼・大沢父(田口トモロヲ)の誕生会として銘打たれたホームパーティーは順調に進みます。

自身の部下でもある二郎(永山絢斗)の同僚に手作り感満載のメッセージを贈られ、ご満悦の様子の田口トモロヲ。二郎の愉快な仲間たちも、意味深な山崎(山崎紘菜)たち二人の脱走はあったものの、無事に課題をこなしてパーティーに参加します。カラオケ機で盛り上がる一同。お歌の教室に通っているという義父も満更でもない感じで歌い出し、賑わいを見せていました。

休日の昼間とはいえ、集合住宅でカラオケをやるのは結構勇者では?

ですが、大人たちが盛り上がっている最中、敬太が命を落とします。

これ、妙子(木村文乃)や二郎たち大沢家の人間はもちろんですけど、パーティーに出席してた同僚の皆さんや、急遽助っ人で借り出されたシスター(?)とかもうトラウマ級の惨事ですよね。

義父母にとって敬太は”実孫”ではなかったからでしょうか、二人は妙子に「気をしっかり持ってね!」などと極めて外野的で他人事チックなな慰めをかける中、彼の亡骸を一旦自宅に安置することになると聞くと一変して当事者意識に。あの部屋は敬太の家である一方で、二郎両親の思い出の詰まった家でもあります。

念願のマイホーム、結婚生活、二郎の誕生、様々な記憶を刻んできた家に、他人の死体が一時安置されることに義母(神野三鈴)はパニックを隠せませんでした。その言い方はないでしょうって感じですが、思い入れのある団地の部屋を息子夫婦に譲って“あげた”立場からすると、口出しをしたくなるのも理解できます。

極端な見方をすれば、血のつながった家族がいなくなったことで、妙子は大沢家にいる理由なんてなくなったのでは?と思ってしまうんですけど、そんな単純な話ではありません。二郎は、僕たちの子どもを早くつくれと言われる状況になる、みたいなことを言っていました。それを“言う”主語は二郎の両親なんでしょうけど、そのプレッシャーに向き合う二郎には相応のストレスがかかると思いますし、一方で両親の要望に見せかけて二郎の本心かもしれません。想像の域を出ませんが。

この旦那と、加えて向かいの棟からは義両親の生優しい庇護にも見える監視下に置かれた状態で、大沢家の一員として今後の人生を歩むことは何とも不穏です。あの義両親の圧のかけ方というか距離感、本当にきつい。私なら絶対無理。

不完全な登場人物

個人的には『LOVE LIFE』の登場人物に感情移入するのが難しかったです。
どの人たちにも「えぇ…」って部分がありました。

二郎の場合は、結婚直前で破談になった山崎への関わり方がありえないですよね。捨てた酷い男として見られるのが怖いのかもしれませんが、山崎と再会する時の口実、実はうちの父も山崎さんのことを気に入っていた、など何のフォローにもならないことを言うわけですよ。何を今さら。

このタイミングで過去の傷跡を埋めようとしたとしても、山崎にとっても妙子にとっても、良い未来は待っていません。当然ながら妙子への向き合い方も不誠実です。また、自分の両親、妙子と4人が集う際に、2対1で妙子が数的不利の状況になっても寄り添おうとしないことにも引きました。

子持ちで再婚した妙子に対して壁をつくり続けた二郎の父親も、そんなお父さんの否定的な態度を隠れ蓑にして、私はそこまで言うのは悪いとは思っているんだけどな風を装いつつ、やんわりと妙子との精神的乖離を突きつける二郎の母親も厳しくないですか?常日頃あんな人たちの近くで暮らすの地獄だろ。

一方で妙子もどうしてそんなに刺々しい態度を周囲に取るのかよくわかりません。敬太を除いた家族をはじめ、周囲に仏頂面を貫いています。同僚の女性に公園でとる態度とか「それはないよね…」と思わせるものではなかったでしょうか。この映画には不穏な雰囲気が漂うと書いてきましたけど、その不穏を構成する一つは妙子の不信感だと思います。人を信じることを諦めているように映ります。

妙子の元夫であり、敬太の実父でもあるパクさん(砂田アトム)にも不誠実な部分はあります。妙子の厚意を利用した渡韓もそうですし、何かを“してもらう”ことへのハードルがものすごく低い。正直甘えにも映ります。

ただ、感情移入はできないけれど、それは酷というものですよと声をかけたいけれど、当人たちの不完全さに至らせるものを考えると一概に否定もできません。妙子も二郎も二郎の両親もパクさんも、相手や第三者の気持ちを考えられないような行動をするわけですが、そのエゴの裏には余裕のなさがうかがえます。

妙子二郎の二人を考えてみてもそうです。妙子は敬太以外の周りを誰も信じていないような、冷たい態度を取り続けます。ありがとうもなかなか言いません。基本上から目線です。
二郎は両親の引っ越しを手伝い妙子の元を離れた日に山崎と会います。一方で妙子もパクさんを、義両親の暮らしていた部屋に招き入れます。

浮気と表現されても仕方ないですよね。

妙子は夫が隠す、元恋人(山崎)への執着に傷つきます。しかしそれに気づかないふりをしていました。
二郎は妙子が公開する、元夫(パク)に対する情に傷つきます。彼の場合はそれに気づかないふりをするのは不可能でした。

でも妙子の鉄仮面みたいな冷たさにも、妙子と二郎が互いの不在時にそれぞれ取った行動にも、彼女たちなりの理由があります。それは私たちが知ることはできないし、結婚契約を交わし、夫婦という関係をとっている二人であっても、所詮は他人同士であり理解し合えないことがあるというのを示していると思います。

不完全です。不完全ですけど、人間ってあんなものではないでしょうか。

守る愛

風船の画像

出典:Pixabay

妙子にとっての「LOVE」とは何か。それを考えると、彼女は大切な人を守ってあげることに愛を感じていたのではないでしょうか。

息子の敬太に対してはもちろん、前夫のパクに対しても、妙子は守っています。護っているという漢字を使った方が適切かもしれません。
当然ながら護られている側は依存します。この人=妙子がいないとダメだと思っていきます。一方で妙子は、「この人を護れるのは私しかいない」という使命感に満ちているように映ります。

なぜ妙子があそこまでパクに対して手を差し伸べたのか、信じたのか。それは彼女が元夫に敬太を重ねていたからだと思います。護るべき対象として。

ただし、パクは敬太ではありませんでした。韓国でもう一人の“息子”を知った妙子は、二郎との生活に帰ってきました。
ラストシーンの長回しは二人の未来を感じさせるものでした。そこに不穏な要素はもうありません。

前向きな結末を感じられた本作品は、深田監督の『淵に立つ』とはまた違った味わいでした。『ドライブ・マイ・カー』と似た要素もありましたが、私は『LOVE LIFE』の方が好きです。

最後までお読みいただきありがとうございました。