2014年、見逃して「しまった!」と思った映画は数あれど、一番はやはり原作に衝撃を受けた『私の男』だろう。
DVDで借りても良かったが、キネカ大森で二本立て上映というのを見て一年ぶりの大森へ。
主演は浅野忠信、二階堂ふみ、監督は『海炭市叙景』の熊切和嘉。
そういえば一年前の大森も雨の二階堂ふみだった。鑑賞したのは『地獄でなぜ悪い』。
時間軸の逆転は無し
小説は時間軸を真逆にして進んでいく。そのインパクトは圧巻的だったが、映画では時間軸を逆転することなく描いていた。
もちろんその方がわかりやすいはずなので、初見さんの理解度向上には一役買っているだろう。
この作品はナレーションはおろか、とにかく余計なセリフや音楽がない。挿入歌はドボルザークの『新世界より・遠き山に日は落ちて』のみである。
流氷をはじめとするオホーツクの厳しい冬の音に二階堂ふみの無邪気な声が映える。
腐野(くさりの)花を演じた二階堂ふみは、もう本当に抜群だった。
少女と女。女と娘。娘と…
場面によっていくつかの二面性を滲ませていた二階堂ふみ。
原作でのキーポイントの一つとなっていた花の成長と淳悟への依存度の変化に対しては上手く演じていたと思う。
『ヒミズ』とも『地獄でなぜ悪い』とも『ほとりの朔子』ともまた違う二階堂ふみでありながら、彼女だからこそできる演技ははっきりと見えた。
小町と話す花、また大塩に向かって叫ぶ花は確実に二階堂の良さが乗り移っていた。
淳悟の幼児性はどうだろう
二階堂の花以上に、浅野の演じた淳悟は僕が小説を読んで抱いていた淳悟像と乖離していたので慣れるまで時間がかかった。もう少しスマートで脚の長い、暗い人をイメージしていた。
だけど、指をしゃぶったり花の身体を舐めたりするシーンを中心に淳悟の幼児性は見える。
ショートホープを吸いすぎだけど、浅野忠信も良かったと思う。
この作品を評価しない人の多くと同じで、血の雨が降るシーンと二人が関東に移りゆく過程、またその後の描き方は残念である。
前者はおそらく、熊切監督がこだわった改善点だと思う。だからその感じ方は人それぞれ。
後者は明らかに物語が早歩きしている感じになったので、上京以降はもう少し丁寧に扱うべきだった。
急に淳悟が屑になってしまったしね。きっかけがあったとはいえ。
二人の心の闇と病みの描写が足りなかった。
時間軸の改変は積極的なものなのであれば大いに拍手。観ておいて良かった。