映画『落下する夕方』〜上品な言葉遣いに際立つ「おかえりなさい」〜

1998年の映画『落下する夕方』を鑑賞。

合津直枝監督、原田知世、渡部篤郎。

原作は江國香織の同名小説。読んだのは2年前かな。

彼氏を奪った女がやってきた

 

江國香織の作品は起伏に乏しいため、映像化してもなかなか盛り上がりをつくることは難しい。

彼女の文学の良さは柔らかく優しい表現と舞台描写、きめ細やかな主人公(主に女性)の心情描写だと思う。

その一方でセリフや仕草がお上品なので日常生活として実感するには少し難しいところがあったりする。

本作はリカ(原田知世)が四年付き合った彼氏の健吾(渡部篤郎)から「出ていく」と別れを告げられ、しかも健吾が想いを寄せている新しい彼女・華子(菅野美穂)がリカの部屋に転がり込んでくるという話である。

健吾が出て行った2LDKの部屋に。

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不安定なリカを原田知世が好演

冒頭にリカのナレーションが入り、これは原作の流れを大事にする上でとても意味があった。

個人的に江國香織作品の映像化には主人公の語りが必要だと思っている。

この作品で一番魅力的なキャラクターは華子。菅野美穂は無垢さと、その奥に秘めた寂しさや危なげな部分を表現できていたと思う。

19年前の作品なので当然ながら菅野美穂は幼く、渡部篤郎も別人のように若い。

ただ一番よかったのは主人公役の原田知世。
リカの不安定さと健吾への依存、リカへの不信感とそれが薄れていく様を原作の印象通りに演じていた。

だから僕は、この作品を楽しんで、原作を懐かしみながら観ることができた。

90年代の匂いがそんなにしない

20年前の作品という感じがそんなにしないのは服装のセンスや、風景や室内の切り取り方のおかげだろうか。

手前に電線が連なる構図から遠くに電車の走る街を切り取ったり、カレンダーの毎日をピンを埋め込んで進めていったり。

また江國香織さんらしい生活感の薄い独特な言葉の数々が、逆に当時の時代感を弱めるのに役立っていたと思う。

人と関わるのは、人を待つのはどういうことなのかを柔らかい視点で紡いだ作品。

「おかえりなさい」の美しさが際立ち、だからこそ終盤で電話を取ったリカの「はいッ」が印象的だった。

そういえば、浅野忠信が弁当屋で惣菜を選ぶ客として序盤意味深に登場したが、まさかその後出てこないとは……びっくり。

 

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