2007年の映画『それでもボクはやってない』を鑑賞。監督に周防正行、主演は加瀬亮。
電車内での痴漢にまつわる冤罪事件、警察での取り調べから法廷に至るまでを描いた社会派作品。
公開当時、話題になった作品でありながら、結局観る機会がなく6年越しの鑑賞となった。
社会派とは言いながらも、少しはストーリー性のあるものかと思っていたら、最初から最後まで真っ直ぐに加瀬亮演じる徹平たちの戦いが貫かれている。
『それでもボクはやってない』のスタッフ、キャスト
監督・脚本:周防正行
金子徹平:加瀬亮
須藤莉子:瀬戸朝香
斉藤達雄:山本耕史
金子豊子:もたいまさこ
浜田明:田中哲司
佐田満:光石研
室山省吾:小日向文世
あらすじ紹介
通勤ラッシュ時に電車に乗っていたフリーターの徹平は、電車を乗り換える際に女子中学生から痴漢行為を問いただされ、そのまま駅事務所、そして警察へと連行される。警察、検察の執拗な取り調べにも、徹平は「ボクはやってない」と答え続けるが……。
以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。
映画のネタバレ感想
以下、作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。
やっていない、ことの証明
起承転結の起の部分を冒頭で明らかにし、端的に示したことで、視聴者はその起の部分を前提条件として作品にのめり込みやすくなった。
警察の取り調べから判事補の存在、そして弁護士の担当、裁判官の変更まで順序立てられており、こういった類に詳しくない人でも段階を追っていける。これも本作品の魅力であるはずだ。
キャストに関しても感服である。加瀬亮、母親役のもたいまさこ、親友役の山本耕史はもちろん、役所広司と光石研といったあたりが非常に余裕のある演技で脇を締めている。
助演の瀬戸朝香については元々好きな俳優なのでケチを付けようとも思わないが、法廷での力強くもスムーズな発言はただただ素晴らしかったと補足しておく。
裁判の闇
途中で交代させられた裁判官を演じた正名僕蔵さんという俳優も素晴らしかった。
何を考えているのかわからないようなポーカーフェースと甲高い声のギャップ。被告人とその弁護人たち、そして我々視聴者に希望を与えてくれるような、それでいてミステリアスが並存している、不思議なキャラクターだった。
この裁判官が途中で飛ばされてしまうわけだが、そのあたりの国家権力の矛盾した事象の使い方も製作側の上手さを感じられるものであった。
後任裁判官の小日向文世と立会検事の尾美としのりは苛つき感を僕に与えたという点では役柄的に成功だろう。
尾美としのりに関しては『あまちゃん』でもアキの父親役を演じており、あまり良い印象を(役柄含めて)抱いていなかったが、どうやら僕の中では悪役俳優に位置されるようである。
小日向の悪役はもうだいぶ見慣れたので割愛。
法機関とは何が正しくて何が正しくないかを判断する機関ではなく、とりあえず証言や証拠から鑑みて判断を下す、そういった社会の知られざる深層をよくぞ描いてくれたと思う。
加瀬亮演じる徹平も話していたが、「僕はやっていないという真実を知っている」一方で、その真実を証明することがいかに難しいのか、視聴者は気づいたのではないか。
当時は裁判員制度もなかったので今はどうかとも思うが、結局のところ、無罪に翻すリスクというのはやはり取りにくいのではないかと推察する。
明日は我が身
徹平はまさしく痴漢事件に巻き込まれたわけだが、実は僕も高3のときに疑われたことがある。
さほどギュウギュウに混んでるわけでもなかったが、片手を吊革に、片手に手提げを持ち寝ていたら、電車を降りる時に「ちょっとやめてよね!」と怒鳴られた。
途中で僕の隣に立っていたというおじさんが僕の両手がふさがっていたことと寝ていたことを証言してくれたので、お尻に手提げが当たったんでしょう、的なことになって警察はおろか駅事務室にも行かず済んだけど、今考えると恐ろしいことである。
このあたりは殺人事件に遭わないようにする努力に限界があるのと同じで、本当に運任せなんじゃないかなと思ってしまう。
僕を救ってくれたおじさんは、徹平の周りにはいなかった。それだけのことである。
物事の決めつけをしないこと、そして裁判官に求められる「無実のものを罰しないこと」。
日本人は流されやすい人種ですが、物事の真偽をしっかりと判定する眼力を持ちたいと思います。
加瀬亮も瀬戸朝香も若くてシュッとしているのでファンにはおすすめ。
社会派の触れ込み以上に、骨太な作品でした。