映画『セイジ 陸の魚』を鑑賞。伊勢谷友介監督、西島秀俊、森山未來。
伊勢谷友介の監督作品は初めて観たが、素人目に言わせてもらえばとても洗練された作品だったと思う。
映し方にこだわりを見せつつも自己満足にならないように視聴者と向き合って暴走しない。
それでいて、決してこじんまりと小綺麗な作品に収まっていないバランス感覚が優れているなと思った。
大人の生々しい夢物語
人は人を救えるか、という哲学的なテーマかつ、西島秀俊演じる主人公のセイジがミステリアスな雰囲気の持ち主である。難しかったと思う。
その中でセイジが動物愛護団体に動物を救いたいならヒトの数を減らせばよい、と持論を浴びせるシーンがある。
論破しつつも愛護団体の考え方も一つの正義と認める多義的な構成。テーマを描写する出色の出来だった。
もちろん西島秀俊の朴訥とした演技も際立っていたが、何かに固執している人を論破するだけのアイデアを持つ人間とはその分野においてどこか独善的になりがちである。
そこをセイジは達観していて、じゃあどうして?ってところを森山未來が視聴者とともに紐解いていく。
森山未來は僕の中で花マル級の安心感を与えてくれる俳優であるが、『北のカナリアたち』とも『モテキ』とか『スマイル~聖夜の奇跡』とかとも異なる魅力。
舞台の村に旅人として潜り込んだ彼は外側の人間としての視野と表情を心得ていた。
西島秀俊も本作では若干ナルシシズムの入ったぶっきらぼうが功を奏していたように感じた。
裕木奈江さんという俳優は井上和香の10年後くらいのイメージ。多分初めて観たけど色っぽく、さらに地元がすぐ近くであることにまたびっくりした。
人間相関図が少しわかりにくかったことは課題だが、見る側に哲学的な問いかけをできる作品。
新井浩文が渋川清彦と夢とは何ぞやと語り合っているところなど、凄く青春群像のようで実はイイ年こいた大人の生々しい夢物語なのである。