星野源主演の『箱入り息子の恋』。2013年、市井昌秀監督。
逆差別
奈穂子の父親役を演じた大杉漣を介して、作り手側の健太郎に対するバイアスと、視覚障害者に対するバイアスがあまりにも強く出ている。
僕の近い周りに目の見えない人がいないだけに、じゃあお前が実際直面したらどうなんだと言われると言葉に詰まるが、大杉漣の演じていた神経質な態度は逆に視覚障害の人に不快感を与えるのでは、と思った。
しかし、彼女の持つ美しさと透明感、そして儚さが作品を明らかに支えていたので、夏帆はやっぱりすごいなって。
良かったところ
天雫(あまのしずく)家の両親、平泉成と森山良子の描写はとても良かった。
名字が長いからアマノって呼ばれるんです、という自己紹介も必要な補強情報だったし、夫婦がアクションゲームを夜通しやるシーンは最高。詳細は映画で。
大杉漣からしてみたらうだつのあがらない社会人かもしれないが、立派に無遅刻無欠勤で公務員の仕事をしている息子を誇りに思えるのもまた、母親の愛である。
そして吉野家で奈穂子が左利きだということに気づいて(?)彼女の左側から右側に席を移した健太郎の優しさ。
ゲームの好きな健太郎が自分の趣味に引き込むことなく、相手を思いやって行動できるという他者とのコミュニケーション能力を示せたのは上で述べたバイアスから一歩外に出たシーンだった。
つまりお見合いは傘を貸した健太郎にとってはもちろん、目の見えない奈穂子にとっても初めまして、ではなかったということで、目が見えない分、聴力に神経を研ぎ澄ませている人たちの描写としてはなかなか味があった。
良くなかったところ
細かいところから言うと天雫家にずかずかと上がり込んで一方的にお節介を焼くおばさん。まったくもって作品に不要である。
健太郎の一度目の大怪我も不快だったが、クライマックスでの惨い描写は全くもって必要だったのだろうか。
彼の箱入り息子としてのアイデンティティ、また、愛に満ちた両親の顔を思うならば、なぜあの様な形をとったのかが全く理解できない。
楽しいシーンもあったが、極端に振れすぎているノンフィクション風も考えもの。