映画『箱入り息子の恋』感想〜悲劇にしたのはなぜ?〜

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星野源主演の『箱入り息子の恋』。2013年、市井昌秀監督。

実家暮らし、35歳の彼女なし昇級なしの公務員、天雫健太郎(星野源)が目の不自由な25歳の今井奈穂子(夏帆)と、お見合いをきっかけに恋に目覚めて行くストーリー。



逆差別

この「訳あり」男女という同情を誘う設定に対しては、まず減点。

奈穂子の父親役を演じた大杉漣を介して、作り手側の健太郎に対するバイアスと、視覚障がい者に対するバイアスがあまりにも強く出ている。

僕の近い周りに目の見えない人がいないだけに、じゃあお前が実際直面したらどうなんだと言われると言葉に詰まるが、大杉漣の演じていた神経質な態度は逆に視覚障がいの人に不快感を与えるのでは、と思った。

夏帆はやはり綺麗で、この物語に母親役の黒木瞳とともに瑞々しさを与えていた。

ただ、目の不自由な役を上手に演じていたかは疑問符がつき、単純な演技能力で言えば『RISE UP』の山下リオの方が良かったと思う。

しかし、彼女の持つ美しさと透明感、そして儚さが作品を明らかに支えていたので、夏帆はやっぱりすごいなって。

映画全体で見ると、とても評価に困る類の作品だった。
部分的に良いところと悪いところがはっきりしていたから。

良かったところ

天雫(あまのしずく)家の両親、平泉成と森山良子の描写はとても良かった。

名字が長いからアマノって呼ばれるんです、という自己紹介も必要な補強情報だったし、夫婦がアクションゲームを夜通しやるシーンは最高。詳細は映画で。

森山良子の子離れしきっていない感覚も、健太郎のような独身実家生活の男性がいる現代には適応するもの。

大杉漣からしてみたらうだつのあがらない社会人かもしれないが、立派に無遅刻無欠勤で公務員の仕事をしている息子を誇りに思えるのもまた、母親の愛である。

次に、健太郎と奈穂子のデートコース。吉野家の牛丼が冴えない公務員の象徴かは置いといて、立ち食いそばを含めたファストフードを使った構成はびっくりした。

そして吉野家で奈穂子が左利きだということに気づいて(?)彼女の左側から右側に席を移した健太郎の優しさ。

ゲームの好きな健太郎が自分の趣味に引き込むことなく、相手を思いやって行動できるという他者とのコミュニケーション能力を示せたのは上で述べたバイアスから一歩外に出たシーンだった。

その意味では母親の黒木瞳に奈穂子が、何で健太郎とお見合いさせたかの理由を問い、いつかの雨の日に奈穂子に傘を貸してくれた男性は健太郎だったの、と母が答え、奈穂子が知ってたよ、と答えるシーン。

つまりお見合いは傘を貸した健太郎にとってはもちろん、目の見えない奈穂子にとっても初めまして、ではなかったということで、目が見えない分、聴力に神経を研ぎ澄ませている人たちの描写としてはなかなか味があった。

良くなかったところ

残念ながら良くなかったシーンも散見された。

細かいところから言うと天雫家にずかずかと上がり込んで一方的にお節介を焼くおばさん。まったくもって作品に不要である。

あとはとにもかくにも人を肉体的に傷つけてストーリーに変化を持たせようという作り方が気に入らない。

健太郎の一度目の大怪我も不快だったが、クライマックスでの惨い描写は全くもって必要だったのだろうか。

彼の箱入り息子としてのアイデンティティ、また、愛に満ちた両親の顔を思うならば、なぜあの様な形をとったのかが全く理解できない。

35歳、いい大人の走り出した恋愛が随分と霞んでしまったような気がした。

登場人物にあらゆるトラブルを内包させて、ドラマ仕立てにしようという魂胆は否めない。

楽しいシーンもあったが、極端に振れすぎているノンフィクション風も考えもの。

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