こんにちは。織田です。
今回は2014年公開の映画『ドライブイン蒲生』をご紹介します。
たむらまさき監督、染谷将太さんと黒川芽以さんが共演した作品。
伊藤たかみさんの原作小説が好きだったのでAmazonプライムビデオで鑑賞してみました。
街道沿いの田舎町で育った姉弟を描く、良く言えば丁寧な、悪く言うと退屈とも受け取れる物語でしたが、本記事では下記の部分について感想を書いていきたいと思います。
- 原作との比較
- 姉と弟の感情の機微
あらすじ紹介
閑古鳥が鳴く「ドライブイン蒲生」に生まれ育った姉サキ(黒川芽以)と弟トシ(染谷将太)は、ヤクザ崩れの父(永瀬正敏)のせいで、幼いころからバカの一家と近所から疎まれてきた。そんな惨めな境遇に失望したサキはヤンキーとなった揚げ句、子供を身ごもり姿を消してしまう。それから数年後、夫に暴力を振るわれたサキは嫌っていた実家に出戻り……。
スタッフ、キャスト
監督 | たむらまさき |
原作 | 伊藤たかみ |
脚本 | 大石三知子 |
トシ(弟) | 染谷将太 |
サキ(姉) | 黒川芽以 |
父 | 永瀬正敏 |
母 | 猫田直 |
サキの娘 | 平澤宏々路 |
ミチルくん | 小林ユウキチ |
クビナシ | 黒田大輔 |
題名にもなっている「ドライブイン蒲生」は、主人公たちの父親が営んでいる飲食店の名前です。
「蒲生」(がもう)は彼ら一家の苗字です。東武スカイツリーラインの駅ではありません。
「蒲生の家」という単語がしばしば出てきますが、「家族」に苗字を重ねているのがとても印象的ですね。
原作との比較
以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。
ここからは内容に触れつつ、感想を書いていきます。
まずは原作小説との比較についてです。
作品の舞台は茨城に
まずはこの映画の舞台について。
サキ(黒川芽以)がDV夫との話し合いをする場に選んだドライブインが「龍ヶ崎」、また古紙回収業者のクビナシこと小岩(黒田大輔)の軽トラが土浦ナンバーだったことから、茨城南部を舞台にしていることがわかります。
サキと弟のトシ(染谷将太)が育った実家も、親父(永瀬正敏)がドライブインを営んでいました。
車で移動する人が多い地域では結構良くあるロードサイド型ビジネスです。栃木が舞台の『森山中教習所』も登場人物たちが食事する場としてドライブインが出てきます。
本日より、森山中教習所のみなさん写真を続々公開していきます!毎日行きますよー?
本日は花金!森山中の花として、松田役を演じます岸井ゆきのさん登場。保存していいのですよ? pic.twitter.com/GW7UGLTL0X— 森山中教習所 (@moriyamachu) June 24, 2016
さて、この茨城の舞台設定で気になるのが、映画内で出てきた「くらわんか舟」というキーワード。
トシたち蒲生一家は「くらわんか舟」の末裔なのですが、「くらわんか」とは大阪・淀川を運航していた舟のことです。
伊藤たかみさんの原作小説ではこのように説明されています。
くらわんか。かつて大阪の港から京都まで、淀川をたくさんの舟がゆきかっていたと言う。船上の彼らに酒や食い物を売っていたのが、くらわんか舟である。国道一号線は淀川とほぼ平行して走っているので、京都への玄関口に当たる枚方周辺には、これにあやかった名前の店がいくつかあるのだ。
原作小説は「くらわんか舟」の由来となった枚方を舞台に描かれており、登場人物も関西方言を使っています。
色々と都合はあったのかもしれませんが、舞台を枚方から変えたのは少し違和感がありました。
細かすぎて伝わらない行動原理
続いて映画上のシーンについても見ていきます。注文多くてすみません。笑
この映画では、脈絡がわかりにくいシーンがいくつか出てきます。
例を挙げるとこんなところでしょうか。ちなみに全て原作小説のシーンを踏襲したものになります。
- コタツを立てて、ヒーターの熱に姉弟が当たっているところ
- サキが知らない男と行為しているところ
- サキとミチルくんが幼児用の風邪シロップを飲んでいるところ
一つ目は、サキ(黒川芽以)がトシ(染谷将太)に「私たちの本当のお父さんは別にいる」と言ったシーンですね。
この後トシが親父に告げ口してサキはこっぴどく怒られるので必要なセリフではあったんですが、コタツを立てかける(風呂に入らなくても赤外線によって除菌されるらしい)シチュエーションにこだわらなくて良かったのではないでしょうか?
二つ目はサキが知らない男と家で行為をしているシーン。
サキにはミチルくん(小林ユウキチ)という彼氏がいて、トシの先輩にあたるミチルくんは映画内でも結構メインキャラとして描かれています。トシのことも可愛がってくれています。
原作においてのこのシーンは、ミチルくんが「蒲生の家はバカ」と言った他人の言葉に(一度だけ)一緒になって笑ったことに対して、サキが彼氏への見せしめとして他の男と寝た、っていう文脈です。
でも映画の中でミチルくんが蒲生をバカにしているところは見当たらないですし、マジで不要なシーンだったんじゃないかなと思います。
三つ目はサキとミチルくんが食卓で我慢比べのように何かを飲んでいるところ。
甘すぎ!と言ってミチルくんが吐いていましたが、あれは幼児用の風邪シロップです。子供の頃は美味しかったですけど、どこかの時期から甘ったるすぎて無理になりますよね…?
で、なぜサキとミチルくんが風邪シロップをグイグイ飲んでいたかというと、当時それを一本飲むとトリップできるということで流行っていたそうです。これは原作で言及があります。
でも映画でその部分は全く触れられてなく、サキとミチルくんが何やら栄養ドリンク的なものをグイグイ飲んでんな〜くらいの印象のわけです。
上でも書いた通り、全て原作小説に描かれたシーンです。
この映画は、あらゆるところで原作のシーンを忠実に再現しています。原作を読んでいると、細かいシーンも理解できます。
けれど映画初見では何の脈絡もないあの描写ではトシが不思議な男の子で、サキが彼氏じゃない男とも寝る女で、サキとミチルくんが謎の飲み物を飲んで遊んでいるようにしか見えないのではないでしょうか?
原作小説では一貫してトシの視点から描かれており、状況説明や背景説明が地の文で綴られています。
客観的に映す手法を取った以上難しかったのかもしれませんが、もう少し説明があっても良かったんじゃないかなと思いました。
黒川芽以と染谷将太の姉弟は秀逸
記述に間違いがありましたので一部修正しました。ご指摘いただきまして、ありがとうございます。(2023年3月)
ここまで文句を並べ立ててきたわけですけども、こうやって感想を書いている以上良かったところもありました。
例えばサキ(黒川芽以)がバイトの履歴書で「父・三郎、株式会社蒲生商事・営業部長」と父の履歴を詐称したシーンなんかは面白くて(バイトの履歴書に家族の項目を書く必要があるのかはさておき!)、思わず笑ってしまったんですよね。
原作では小学生時代のサキが宿題の作文で父親を詐称していたのですが、成人後と学生時代の二軸で構成された映画版では難しかったのでしょう。バイトの履歴書という形で改変されており、とても良かったです。笑
染谷将太が醸し出すセコさ
で、このシーン、自分の親(の職業)を恥ずかしいと思ってるのか!!と永瀬正敏演じる父は激昂してサキに手を上げるわけですけど、机で剥いていた落花生の山をひっくり返す彼の横でカップラーメンを食べていたトシ(染谷将太)は自分のカップ麺を守ろうと手で蓋をして隠してるんですよね。可愛い。
でもこのトシくんは結構セコいところがあって、姉ちゃんが親父に怒られているところを見るのが好きなんですよね。
説明不足によってこの部分も映画だとわかりにくいですが、この弟は姉貴の生意気なところを親父にチクって怒られるように仕向けてるんです。
それが前項でサキが言った「私たちの本当の父はあの人ではない」を親父に告げ口したシーン。
サキが親父に怒られ、親父が暴れ散らした(机に置いてあった菓子を撒き散らす)後始末を母親がしているところを見て、トシは鼻をかみながらほくそ笑んでいます。
サキが親父と敵対しているのを分かった上で、あえて自分が甘い汁を吸おうとしています。
これが親父からの愛情が姉と比べて少ないから振り向かせようとしているのなら話は別ですけど、むしろトシはサキより数倍オトンに可愛がられています。
ともすればファザコンにも捉えられるトシでしたが、そのへんは染谷さんの飄々とした演技で緩和されていましたね。
ちなみに「どんくさい小心者」と表現されているトシは、物語の節々で諍いから一歩引こうとします。
例えばクビナシ(黒田大輔)にミチルくん(小林ユウキチ)と喚いてキレさせた時も、トシは逃げ帰った家の中で笑いながら、堪忍してよ冗談だよというふうに手を合わせています。
猛獣のように怒り狂う姉貴のようには突き抜けられないんですね。最後のシーンを除いては。
序盤に姉貴の軽に乗り込む際、シートベルトがうまく出ずに「うぜぇ」と毒づいたり強がるシーンは垣間見せていましたが、基本的にイキがった優しい僕ちゃんでした。笑
黒川芽以とオトン
そんな弟を持つ姉・サキ(黒川芽以)はどうだったでしょうか。
彼女の根底にあるのは「こんな父親(永瀬正敏)の元に生まれて嫌だ」という思いです。
親のことを恥ずかしいと思うなんてふざけんな!っていう親父の気持ちもわかるんですが、トランプのスペードを黒桃、ハートを赤桃と呼ぶ一風変わった親父のおかげで自分らは「蒲生の家は馬鹿」と嗤われるわけです。
かの親父は雨が降っているだとか風が吹いているだとかで店を頻繁に閉め、昼から飲んだくれていました。
サキは親父のことを無視し、軽蔑しています。怒られると分かっていても、親父をディスることで溜飲を下げています。
ただ一方で、親父を馬鹿で恥ずかしい存在だと軽蔑していいのは自分だけなんですよね。クビナシが「蒲生の家は馬鹿」と言うと許せないわけです。
それは「蒲生の家」の中に自分が含まれていることもあるかもしれませんが、身内を虐げていいのは自分だけ(自虐)ということです。
例えば自分の親が料理が下手くそで、いつも不味いと思って食べていたとしても、それを食った家族外の人に不味いと言われたらムカつくとか、
自分のきょうだいがどうしようもない人間だったとしても、家族以外の人間に馬鹿にされると腹が立つとか、
家族だけじゃなくて部活とかバイト仲間とか、会社の同僚とかでも当てはまるかもしれません。
なぜムカつくのかというと、結局その“身内”に対しての恥じらいとか苦しみとかからは自分は逃れられず、ずっと付き合っていかなきゃいけないわけで、それを部外者に言われる筋合いないよねっていう話です。
サキにとって親父は軽蔑する存在であり、コンプレックスの根源である一方で、なおかつ逃れられない血縁関係にありました。
だから彼女は父をこき下ろしたし、最終的には父の教えとか流儀が染みついた言動を見せます。
サキは「オトン」とか「お父さん」とか「親父」とか「あの人」とか「親」とか、父親に対しての呼称が様々なのも特徴的です。
そんなところに注目して再鑑賞するのも面白いかもしれません。
ちなみに映画で出てきた「龍ヶ崎どらいぶいん」は実在のお店で、食べログの評価を見ると決してトシの言うようなお店ではなさそうです。
映画を観て「う〜ん?」となった方は是非原作を読んでみてください。理解が深まると思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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