映画『ドロステのはてで僕ら』ネタバレ感想|2分後の俺とこんにちは

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こんにちは。織田です。

今回は2020年公開の映画『ドロステのはてで僕ら』を、Amazonプライム・ビデオで鑑賞しましたのでご紹介します。

『サマータイムマシン・ブルース』(2005)などで知られる劇団「ヨーロッパ企画」のオリジナル長編映画。
『サマータイムマシン・ブルース』と同じく、劇団代表の上田誠さんが原案・脚本を務めています。

カフェを舞台に演劇調で進む物語は新鮮でした!



あらすじ紹介

とある雑居ビルの2階。カトウがギターを弾こうとしていると、テレビの中から声がする。
見ると、画面には自分の顔。しかもこちらに向かって話しかけている。
「オレは、未来のオレ。2分後のオレ」。
どうやらカトウのいる2階の部屋と1階のカフェが、2分の時差で繋がっているらしい。
“タイムテレビ”の存在を知り、テレビとテレビを向かい合わせて、もっと先の未来を知ろうと躍起になるカフェの常連たち。さらに隣人の理容師メグミや5階に事務所を構えるヤミ金業者、カフェに訪れた謎の2人組も巻き込み、「時間的ハウリング」は加速度的に事態をややこしくしていく……。

出典:公式ホームページ

スタッフ、キャスト

監督・撮影・編集 山口淳太
原案・脚本 上田誠
マスター
(カトウ)
土佐和成
隣の理容師
(メグミ)
朝倉あき
アヤ
(カフェ店員)
藤谷理子
コミヤ 石田剛太
オザワ 酒井善史
タナベ 諏訪雅
時空局の男 永野宗典
時空局の男 本多力

物語は基本的にマスター(土佐和成)が営む閉店後のカフェ、またカフェやマスターの部屋(2階)が入った雑居ビルで進みます。

マスターの前に訪れる不思議な時間軸、そして「ドロステ」とは何なのでしょうか…?

 

『ドロステのはてで僕ら』のあらすじや評判はMIHOシネマさんの記事でも読むことができます。(ネタバレなし)
ぜひご覧ください!

この後、本記事はネタバレ部分に入ります。映画をまだご覧になっていない方はご注意ください。



映画のネタバレ感想

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

 

ドロステとは

ここからは映画の内容に言及して感想を書いていきます。
まずはタイトルにも入っている「ドロステ」という言葉について。私は恥ずかしながら知りませんでした。

最初この単語を聞いたときに、何かの略語かと思ったんですよね。

ドロステ効果(ドロステこうか、オランダ語:Droste-effect)とは、再帰的な画像(紋章学における紋中紋)のもたらす効果のこと。あるイメージの中にそれ自身の小さなイメージが、その小さなイメージの中にはさらに小さなイメージが、その中にもさらに……と画像の解像度が許す限り果てしなく描かれる。

名前の由来はオランダのドロステ・ココアのパッケージからである。尼僧が持っている盆の上に、ココアの入ったコップと一緒にドロステ・ココアの箱が乗っていて、その箱の絵には、コップとドロステ・ココアの箱が乗った盆を持つ尼僧が描かれている。

出典:ドロステ効果 フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

映画内でも説明されていたように、ドロステ効果とはオランダのココアのパッケージに由来した構造です。

ドロステ・ココア(出典:Pixabay)

「わかったさんのアップルパイ」という児童書を読んで、子どもながらに「ドロステ効果」を体験しましたが、こちらの方がわかりやすいのでツイートを引用します。こういうことですね。

これを初めて読んだ時の衝撃は凄かった…!

ドロステ・ココアや「わかったさんのアップルパイ」におけるドロステ効果は、とある舞台(パッケージや本のページ)内で対象者がどんどんと小さくなっていく姿を第三者として眺める視点でした。

一方映画ではiMacのモニターを向かい合わせで鏡写しにすることで事象を再現。

これによって、ドロステ効果を得ているのはパッケージや本の中の人物ではなくてモニターに映る自分自身になりました。映画内のマスター(土佐和成)です。

ドロステ×タイムテレビ

上で紹介したドロステ効果——ドロステ・ココアや「わかったさん」——において対象者の入れ子構造になっているのはあくまでも現在の自分本体。

これだけだと向かい合った鏡に映る自分自身をただ延々と眺めることになるわけですが、この映画『ドロステのはてで僕ら』は、鏡写しになった自分が“現在の”自分ではなく“2分後の自分”とすることで、状況がややこしくなります。

時間軸の移動が働くことでSF要素がぐっと加味されます。

2階の自室からモニターを覗く俺(マスター)が“現在の”俺だとしたら、1階のモニターから話しかけてくるのは“2分後の俺”。
“現在の俺”が2分後に下に降りて1階のモニターを覗き込むと、2階のモニターにはさっきまで“現在の俺”だった自分が“2分前の俺”として映し出されます。

ドロステ効果の画像

(出典:Pixabay)

タイムテレビという表現が出てきますが、現在から未来を一方向的に知ることができるドラえもんのタイムテレビと違って、モニター越しに双方向で対話することができるものでした。

つまり現在の自分が2分後の自分を知ることもできるし、2分後の自分が“現在”として2分前の自分に働きかけることもできます。

そんなこんなで、ドロステ効果に直面したマスター(土佐和成)アヤ(藤谷理子)コミヤ(石田剛太)は理解に苦しみ、後からやってきたオザワ(酒井善史)タナベ(諏訪雅)も事態の把握に面食らいます。

けれどこのオザワという男、知恵が働くようで、“2分”という未来までの距離の延長に着手。2階から持ってきたモニターを向かい合わせにして置くことで“2分後”を無限にモニター内に連続させることが可能になりました。モニターはコードレスなのかと思ったらずっと繋がれたままで下に移動してきましたね。

“2分後+2分後…”を生成することにより、2分より先を、未来の自分づてに知ることができるようになります。

マスター→アヤとコミヤ→オザワとタナベ、とタイムテレビの秘密を知る者は増えていき、最終的に隣人の理容師・メグミ(朝倉あき)も巻き込まれていきました。

ただ彼女が登場した後半に来ると、もはやドロステのタイムテレビ効果を説明するのは野暮ったくなって来る事情もあるのでしょう。
メグミは結構あっさりと、この不思議な事態を受け入れていました。のみこみ早すぎ。

後出しじゃんけん

で、少し先の未来を知ることができるなら何ができるか、と考えたときにまず思い浮かぶのはやっぱり一攫千金です。

例えば競馬の結果を知ってれば当たり馬券を買うことができるわけで、モニターの効果を把握したタナベたちは例に漏れず、未来の自分を使ってお金を得ようと悪だくみします。

もし自分だったら100パー競馬で金儲けを目論むところですが、映画の中ではカフェや理容店の閉店後、夜の時間ということもあり、公営ギャンブルはもうやっていなかったんでしょうか。タナベ(諏訪雅)たちはお金が街中に落ちていることを知るのでは?という発想に至り、未来の彼らから札束がゴミ山のビデオデッキの中にあることを知ります。

これはどうやって知ったんですかね?未来でそういうニュースが流れていたのでしょうか…

野暮な突っ込みはさておき、隠された札束をゲットした彼ら。しかし、札束の持ち主であり、カフェの上階に居を構えるヤミ金業者たちにネコババを見つかってしまいました。

そして、期せずして巻き込まれたメグミ(朝倉あき)が人質としてヤミ金業者のアジトに連れて行かれてしまいます。
ああ、だから競馬にしとけとあれほど。

ドロステとはなんぞや、から、ドロステを利用した後出しじゃんけんへと、物語は大きく転換していきました。

メグミを助けに行こうとするマスター(土佐和成)
そんなマスターの未来は、またもドロステモニターで知ることができるわけで、取り巻きたちはマスターが最後に勝利することを知ります。彼に勝つための装備を授けていきます。

事務所に乗り込んだマスターは、彼らが見た「数分後」の未来の通り勝利を収めますが、この戦闘シーンはなんとも緊迫感に欠けるというか味気ないものでしたね。笑

お腹に忍ばせたケチャップを刺させ、背中に挟んだシンバルで銃弾を打ち返し、最終兵器はダンゴムシのフィギュア。
どの道具をどう使えばいいかわかっています。というかそれが機能するように、“現在”が進行していきます。

マスターも自分が死なないのがわかっているからでしょう。鬼気迫る感じもありません。
既成事実のようにヒロインを救出しました。

現在は未来に規定される、未来を変えることはできないという事実が、マスターの勝利とともに突きつけられます。

ハッピーエンドなのかもしれないが

メグミを救出したマスターでしたが、彼の前にまたも難敵出現。

ベージュのステンカラーコートに身を包んだ、時空局の人間なる2人組が登場し、時空移動の秘密を知ってしまったマスターたちに記憶の忘却を迫ります。そしてその忘却作業は避けられない確定未来だとも。

これまでの流れだと未来を変えることはできないため、マスターと理容師メグミは選択の余地がないと思われましたが、2人は押し付けられた行動を拒否して未来を変え、時空局の2人は消失しました。

!?
これでいいの!?消しちゃって大丈夫?

マスターが序盤で「これは夢」「夢から覚ーめよっ」と言っているシーンがありましたが、個人的に最後は「これは夢」で覚めて欲しかった感があります。
未来は自分たちの手で変えることができる、切り拓けるんだ!と捉えれば前向きなのかもしれませんけど、ちょっとご都合主義感が拭えませんでした。

なお、この時空局の2人、永野宗典さん本多力さんが演じているんですが、この2人は『サマータイムマシン・ブルース』(2005)でメインキャラの学生役を担当しています。

15年前からのお二人の変遷、本作での“未来人”にあたるキャラクター設定を考えると、『サマータイムマシン・ブルース』をご覧になった方は感慨深くなるところがあるかもしれません。

並行再生で比較してみた

最後に注文をつけてしまいましたが、この『ドロステのはてで僕ら』、とにかく凄かったです。

何より特筆すべきはワンカット調で進む本編の手法
現在と2分後(+α)の自分たちをモニター越しに共存させることで同じシーンを繰り返していく中で、役者さんもスタッフも2分刻みで同じことを再現しなきゃいけませんよね。

これをシームレスに、ワンカット(風)で撮っているため、途中確認も許されないわけです。
超絶綿密なプランを立てて撮影されたであろうことがド素人の私にもわかります。凄いとしか言いようがないです。

同じシーンが“現在”、“2分後”、“2分前”のように何度も繰り返し出てきますが、一つのシーンを複製しているわけではないので実際の役者さんのセリフの速度や表情は全てちょっとずつ異なります。

モニターの画像

ちなみに観終わった後の2回目は、テレビで本編を流しながら、傍らのスマホで2分遅れで再生するということをやってみました。

アヤがスリランカの首都を答えているシーンを例にとると、テレビの再生画面ではアヤが1階モニターの向こうで「スリジャヤワルダナプラコッテ」を回答していて、2分遅れのスマホの再生画面では2階のモニターのこちら側で“2分前の”アヤが答えているという感じですね。

でもって、先ほど書いたようにアヤの発した2つのスリジャヤワルダナプラコッテは完全なイコールではありません。当然ですよね。

複数デバイスでの視聴環境にある方は、登場人物がドロステ効果を検証している映画前半で試してみてはいかがでしょうか。笑

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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