映画『老後の資金がありません!』ネタバレ感想|老後の不安は消えません!

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こんにちは。織田(@eigakatsudou)です。

今回は2021年公開の映画『老後の資金がありません!』をご紹介します。
『そして、バトンは渡された』も同じ時期に公開された前田哲さんが監督を務め、天海祐希さんが主演しています。

「老後2000万円」のフレーズが政治家から飛び出して3年が経ちました。
積極的な運用を国が推奨していることもあり、金融資産形成は国民にとってより一般的なテーマとなってきています。

“必要なお金”への関心が高まる中、本作品を観ての感想を次の点から書いていきます。

  • 解決策は提示される?
  • リテラシー醸成には一役
  • 良い人が多いという幸運

本記事はネタバレを含むため、作品未鑑賞の方はご注意ください。



あらすじ紹介

節約がモットーの主婦・後藤篤子(天海祐希)は、夫の給料や自身のパート代をやり繰りして老後の資金を貯めてきた。ある日、しゅうとが他界し400万円近い葬儀代が必要になるが、自身のパートの契約が更新されず、さらに娘の結婚が決まって多額の出費に頭を抱える中、夫の会社が倒産してしまう。そして成り行きで同居することになったしゅうとめは、金遣いが荒かった。

出典:シネマトゥデイ

スタッフ、キャスト

監督 前田哲
原作 垣谷美雨
脚本 斉藤ひろし
後藤篤子 天海祐希
章(夫) 松重豊
まゆみ(長女) 新川優愛
勇人(長男) 瀬戸利樹
後藤芳乃(義母) 草笛光子
志津子(章の妹) 若村麻由美
秀典(志津子の夫) 石井正則
松平琢磨 加藤諒
コンビニ同僚 副島淳
神田サツキ 柴田理恵
この後、本記事はネタバレ部分に入ります。映画をまだご覧になっていない方はご注意ください。



解決策は提示されない

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

冒頭でも書いた通り、資産・資金に対しての国民の関心は年々高まっています。

「老後2000万円」なるフレーズが飛び出したことで、どうやって今後の資産を持っていくかを考えていくことを求められています。
NISAやiDeCo、ふるさと納税といったものは多くの人の知るところになりましたし、「投資」についても令和になってからはより一般的になっています。

私自身も試行錯誤しながら預金以外の資産形成に挑戦しており、「お金」に関してはそれなりに興味関心を持っています。

なので『老後の資産がありません!』はとてもタイムリーな映画であり、楽しみにしていました。どういう風に老後資産を「ありません!」から立て直していくのか、に期待していました。

結論から言えばこの映画は、資産形成に悩む人たちに解決策を提示する物語ではありません。笑

資金増加について

家計の「収入」を増やす上で、選択肢となるのは以下のものです。

  • 労働者の収入増加(昇給、転職、副業など)
  • 投資行動による利益

『老後の資金がありません!』では、サラリーマンとして働く夫(松重豊)、電器店でパートとして働く篤子(天海祐希)の50代夫婦がともに失業し、老後に必要と言われる2000万円(映画内では4000万円とも言われていましたね…)をどうやって捻出していくのかに悩む姿が描かれています。

終盤には二人ともアルバイトを経て新しい会社に転職し(おそらく二人とも正社員としての採用)、給与増加を達成しました。
しかし、50代の職探しでどういったことがポイントになるかという部分は描かれていません。これは章さん、篤子さんのキャリアや人柄、人脈による成功であり、属人的なものになります。

また、今あるお金を運用する「投資」による資産形成についてはほぼ皆無と言っていいでしょう。
傷心の章さんが一瞬夢を見た宝くじのような「投機」にお金をつぎ込むことがなかったのは幸いですが、後藤家が行なった資産運用は不動産(持ち家)の売却のみです。

これも売却益-残りのローンでプラスになったのは良かったんですが、持ち家を売ってシェアハウスに居住するという選択肢はあまり現実的ではないと思いました。
子どもが独立したとはいえ長男の勇人(瀬戸利樹)はまだ所帯を持ってないわけですし、彼にとっての「実家」を無くすというのは結構リスキーです。

序盤での後藤家の資産は預金の730万円(不動産など除く)。今の時代、金融資産を銀行預金に全振りしていることに違和感を覚えた方もいるかもしれません。

支出抑止について

一方で出費を抑える部分についてはどうだったでしょうか。

こちらも後藤家が何にどれだけお金を払っているのかという支出明細、また冠婚葬祭に伴う突発的な支出について金額が詳らかになる一方、固定費を削減したのはマイカーの売却くらい。
例えば光熱費の会社・プランや携帯のキャリアを見直したり、節税につながるものを行なったり、ということはありませんでした。固定電話も置いたままです。

冠婚葬祭において、無理に見栄を張らずに身の丈に合ったもので十分ですよね?っていう考え方には個人的に同意します。が、人生に一度きりのお祝いの場(結婚式)を質素なものでも構わないとするのは一般的ではない気がします。

横浜の富裕地区

ただ、この映画は「老後の資金が」ないんです!という物語で、現在の家計が逼迫している話ではないことを考慮する必要があります。

知覧茶(横浜園)、高級和牛(肉処かつヰ)を義母・芳乃(草笛光子)が買っていたのは、センター北駅にある都筑阪急。章さんは青葉区のハロワに行って就活していました。

横浜の青葉、都筑は平均所得が市内の中でも有数に高く、いわば富裕層が多く住んでいるエリアになります。なので閑静な住宅街に(少なくとも3LDK以上の)一戸建てを構える主人公たちは比較的裕福な家庭だったと想像できますし、後藤家にとっての「資金がありません」は生活水準を落とす必要がある、程度のものだったのかもしれません。

お金の不安に直面したことで何かを失う、というところまでは行っていませんでした。

だからこそあのタイミングで家を売ったのは驚きましたが…

ちなみにお金を増やす方法や節約術を学べる作品ではないというのが今回の感想ですが、バラエティに振り切った演出には切迫した雰囲気から逸脱する効果があったように思えます。問題点を意図的にぼやかしたというか…。

個人的にはタレントさんの多用や「大泉健三」とのバトルは不要だと思ったものの、悲壮感を和らげる点では功を奏していました。撮り方によっては身につまされてしんどくなりそうな話ですしね。

リテラシーの醸成

一方で、全くこの映画から学ぶべきものがなかったかと言うと、そうではありません。

葬式にどんだけお金がかかるのかをテロップと友近氏の激しめな演出によって知ることができますし、自分の終活についても朧げながら考えさせられます。
戒名にかかる費用は80万円と。祖父が死亡した時、親族が戒名を気に入らんと言って変更したことがあったんですが、相当な金額がかかったのを思い出します。

さらに良かったのは義母・芳乃(草笛光子)が詐欺に遭ったところでした。

ニセ電話詐欺

勇人(瀬戸利樹)の名前を騙った電話がかかってきたシーンです。
今回のケースは上で引用した「警視庁生活安全部」のツイートとほぼ同一のケースですね。

いつの時代でも話題になる電話詐欺ですが、実は自分の祖母も以前被害に遭いました。
私の名前を騙った人から電話がかかってきて、交通事故を起こしたので示談金を振り込んでほしいと言われ、10万円を振り込んでしまいました。

そんなこともあって、自分はこの映画の電話が詐欺ということに気づきました。
が、芳乃同様、おとり捜査のところで引っかかりました。ちなみに一緒に鑑賞していた妻は最初の電話が詐欺であることに気づいていませんでした。

オレオレ詐欺、振り込め詐欺などという名称がかつて世間を賑わせた中で、このような偽の警察官を装った人たちがおとり操作を仕組むのはニセ電話詐欺というらしいですね。

詐欺の手口はいたちごっこ式にどんどんアップデートされていくので「ニセ電話詐欺」のさらに上をいくパターンも出てくるとは思いますが、「オレオレ詐欺」「振り込め詐欺」で知識が止まっていた人に対して新たな詐欺の手口を提示したのは現実に即していました。

ちなみに作内では武勇伝として描かれていましたが、篤子さんとお義母さんがサツキさん(柴田理恵)と企てたなりすましごっこも、あれ普通に詐欺ですからね。笑
本物の大泉健三からしてみれば、娘が詐欺師に騙されているんじゃないかと疑うのは当然です。

大切な友人であっても、お金の絡むことに関しては冷静な判断をしていかなければいけません。



良い人が多い幸運

最後に、この映画が最後まで楽観的な形で進んだのは、主要人物に良い人が多かったということが挙げられます。
どこが良い人なのかというと、相手を責めない、ポジティブな考え方ができる人たちというところですね。奇跡的ですらあります。

順応能力が凄いお義母さん

まずはお義母さん・芳乃(草笛光子)です。

彼女の場合、環境への適応力が凄かったですね。
浪費癖の抜けないババアと思わせたのは最初だけ。

後藤家の生活レベルに順応し、料理に文句を言うこともなければ、あれがないこれがないと毒づくこともありませんでした。

自分の金銭感覚を下方修正した芳乃さんは、篤子が月謝5000円のヨガ教室に行くことを咎めたりもしません。
「ヨガに月5000円は高いわよ。私だって節約してるんですから」とかなってもおかしくないと思いましたが、義母は誰かを否定したりしませんでした。

また、彼女は高級ケアマンションから後藤家に引き取られ、その後に実娘の志津子(若村麻由美)夫妻の家に引き取られます。

当初章さんが「犬や猫じゃないんだから」と言っていましたが、子どもの家を転々とさせられる芳乃さんを見ているとあながち冗談にも聞こえません。厄介者、爆弾のように扱われていたことは、もしかしたら自分でも気づいていたかもしれません。

それでも息子夫婦と暮らすことになった現状を恨みも憂いもせず、適応して楽しむ芳乃さん。強い。

ちなみに狭心症で大事に至らなかった芳乃さんを含め、一家が大きな病気や怪我をしなかったこともこの映画の救いであり、幸運でした。
あれでもし誰かが倒れて医療費が…みたいな展開になっていたらしんどいものがあります。

天使のような勇人くん

続いて長男の勇人くん(瀬戸利樹)です。

信じられないくらいしっかりしていましたね…!

両親が失業して家計の見直しを迫られても、彼は嫌な顔ひとつ見せません。「また豚もやし鍋?」と言うくらい。

就職が決まった大学生とはいえ、遊びたい盛りの年頃で実家に金銭的不安があれば少し落ち込んだりやさぐれたりしてもおかしくないところ。ですが、勇人くんは現実を受け入れ、決して多くない服を着回し、落ち着いて生活しています。

もちろん親に対して早く就職しろよとか毒づくことも、俺もっと遊びたいのにお父さんお母さんのせいでと悲観することもありません。何ならお母さんの味方に立って、金銭感覚の緩い姉貴を諌めています。

祖母と暮らすことになっていくらか自由を奪われたはずですが、理想的な孫として後藤家の潤滑油になっています。こんな息子いるんすかって言うレベルで神です。

あとはいつまで実家にいるのかな?くらいでしたけど、その懸念も終盤になって払拭されます。おお。拍手。
聞けば初期投資の少なくて済む会社の寮と言うじゃないですか。大喝采です。

上でも書いた通り、その後篤子さんたちは持ち家を売り、シェアハウス居住の道を選びます。
結婚して松平と暮らす姉はともかく、勇人にとっては“実家”がない状況となるわけですが、きっと彼にとってはそんなこと大した問題ではなく、自立して生きていくんでしょうね。

この先の人生で勇人に資金が必要になった時、出し惜しみせずに援助がなされることを祈ります。奇跡と言っていいくらいに良い子でした!

仏の篤子さん

そして主人公の篤子さん(天海祐希)です。
勇人が天使だったら篤子さんは仏です。仏の顔も三度どころか二十度くらいでした。

降りかかる災難と出費の嵐にも負けない部分に加えて、印象的だったのは夫・章さんへの対応です。

本気で愛想をつかしたのは夫の無断外泊翌日に浮気疑惑現場を目撃した後くらいでしょうか。(まああの件も義母と篤子さんの絆が深まった点で良かったのかもしれませんが…)

それ以外では人任せで動こうとしない章さんを怒ることもなく、前向きに過ごしていました。

さて、この夫婦。映画公式のツイートには「篤子さんと章さんの関係性は憧れます」と書かれています。

どうでしょう。それはちょっと過大評価しすぎなのでは。笑

章さんは基本的に家計状況に無頓着で、いろいろなことを篤子さんに任せきりにしています。
危機感もなくぼんやりとしているのは、失業しても自暴自棄や塞ぎ込みにならないなどプラスの部分もあるんですが、基本的には無責任という表現がふさわしいです。

一番ムカついたのが、夫婦揃って失業した状況で芳乃さんへの仕送り月9万は難しいよねという話になった時。
志津子さんのところに相談する必要があるわけですが、章さんは「篤子さんから言ってよォ」と懇願します。

!?

志津子は章さん方の家であり、その9万円の仕送りは彼の母・芳乃に直結したものです。それを自分からは申し訳なくて言いにくいから代わりに言って(でも失業したことは内緒にしてね)とか信じられない。甘えんなマジで。

もし逆の立場で(謎のサーフショップを始めた)義両親に仕送りを頼まれた場合、篤子さんから「章さんの方から断ってよォ」と言われて章さんは納得するんでしょうか。しないですよね。

あとこの旦那は家のことを何もしません。ご飯つくったり掃除したりもないですし、挙句の果てにはロト6に無謀な夢を抱いたりしています。私が篤子さんだったらあれはブチ切れてますよ…

ってなわけで木偶の坊と化してしまった章さんはなかなかこちらをイライラさせるキャラクターでした。悉く意地悪に走る志津子(若村麻由美)の行動も寵愛された兄・章への恨み節と考えると理解はできます。(その意地悪の矛先になるのが篤子さんというのが悲しい)

にも関わらず、篤子さんは夫を大丈夫だからと励まし、出費の計算をこなし、義母の世話までしています。篤子さんに色々背負わせすぎではと思うくらいに。

それでも気丈に寛大に振る舞い、何とかなるさね的な雰囲気で突き抜ける篤子さんが凄い。リアルなのかネタなのかよくわからない(笑)物語に太い幹を通してくれた天海祐希さんは本当に素晴らしかったです。

 

タイトルに書いた通り、この映画は老後の資金が気になる人たちに解決策を示してくれるものではありませんでした。

ただ、バラエティに振り切った楽観的な描写に篤子さんをはじめとした神がかり的に良い人たちの包容力がマッチして、観終わった後の感覚はわりとスッキリしたものになったのではないでしょうか。現実的かどうかは別の話ですが。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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