こんにちは。織田です。
今回は2019年公開の映画『あの日々の話』をご紹介します。
劇団「玉田企画」を主宰する玉田真也監督が2016年初演の舞台作品を映画化。
キャストの方々も、舞台初演時の出演者を揃えています。
カラオケでオールをする大学生の一晩を描いた作品の本作。
本記事では2013年公開の『恋の渦』という作品を併せながら、『あの日々の話』を紹介していきたいと思います。
以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。
あらすじ紹介
大学サークルの代表選挙を終えた現役生やOBら男女9人が、二次会を開こうとカラオケボックスに集まる。思い思いの曲を歌う中、席を外した女子のバッグからコンドームが出てきて、男子たちは興奮してしまう。会が終わろうとしていたとき、ある人物の一言が人間関係を壊すほどの騒動に発展する。
「ある人物の一言が人間関係を壊すほどの騒動に発展する」は正直よくわからなかったですが、全体的に人間関係にヒビをバキバキ入れて行くような展開で面白かったです!
スタッフ、キャスト
監督・原作・脚本 | 玉田真也 |
ホソカワ (4男) |
山科圭太 |
ヨーコ (4女) |
森岡望 |
サオリ (3女) |
高田郁恵 |
サイトウ (3男) |
野田慈伸 |
アサイ (2男) |
木下崇祥 |
フミ (1女) |
長井短 |
イシカワ (1男) |
前原瑞樹 |
マオ (1女) |
菊池真琴 |
オガワさん (1男) |
近藤強 |
カラオケ店員 | 太賀 |
村上虹郎 |
()内は学年と性別です。
作品内では1年生しか明言はされていませんが、それぞれの言葉遣いから推察しました。
オガワさん(近藤強)は社会人学生の1年生。年上のおっさんなので、みんな敬語で話しています。
ホソカワとヨーコがサークルのOB、OG。ホソカワはインターンに行っているようです。(4年の秋冬にインターンというと留年でしょうかね…)
オールの午前4時の匂い
以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。
こちらに引用したのは映画『あの日々の話』のポスター。
東京・高田馬場駅前のロータリーに、カラオケでオールした9人の大学生が映っています。
実際に映画で出てくるカラオケ店(JOYSOUND)は品川の店舗でしたが、「馬場のロータリー×オール後の朝」という組み合わせは、高田馬場で遊んでいた人にとっては実にエモい光景ではないでしょうか?
この映画ではサークルの現役生(1〜3年)7人、OB、OG2人の計9人が二次会でカラオケに突入。
サークルの代替わりをする飲み会だったようです。
カラオケでオールする一晩、その数時間の出来事を描いた映画ですが、深夜のテンション、始発が近くなった退廃感みたいなのが直に感じられる作品でした。
カラオケにフリータイムで入り、5時の閉店(始発が動き出す時間)までの過ごし方。
特に終盤の4時くらいに訪れる、終わりの雰囲気ですよね。もうみんなで盛り上がって歌うテンションはとっくのとうに終わっていて、誰かのくゆらすタバコの匂いがやたらと鼻につくあの匂い。
意識が「オールナイト」からこれから始まる「今日」に変わっていく、あーこれから授業かぁ、とか、バイトめんどくせえ、とか、何時間寝れるのかなぁ、とか。そういうダルっとした雰囲気も、見事に終盤で表現されていました。
カラオケオールの魔力
いやまあ僕もそうだったんですけど、なんで大学生ってあんなにカラオケオールをしたいんでしょうね?
居酒屋での一次会を終え、「この後カラオケ行く人ー?」と掛かる声。だいたい行くメンバーと行かないメンバーはいつも同じ。
そこまでして歌いたいの?と聞かれればそれは違くて、やっぱり酒が入った酩酊状態で大きな声を遠慮なく出したりだとか、あるいは(だれかが歌ってるときに)暗い部屋でこそこそ喋ったりだとか、そういうことが楽しかったんですよね。
周りに他のお客さんがいる居酒屋と違って、カラオケのルームは密室です。そこで大きい声を出して騒ごうが、他のお客さんには迷惑がかかりません。暗がりの中で手を握り合っても、だいたい他の人は(仲間内でも)気づかないし、2人の甘美な秘密として共有されます。
そんなイチャイチャするんだったら2人でやれよとなるわけですが、“みんながいる”中での背徳感がたまらないんですよね。多分。
明るい居酒屋だったら気になるあの人に声をかけて喋るなんて出来ないけども、暗いカラオケの中なら、しかも大きな声・音が響くバカ騒ぎの中だったら、周りにもバレない。
もし疲れたら、寝たり携帯を一人でいじったりしても特に何も言われない。
曲が流れる中、2人でこそこそとお話ししました。スキンシップを取りました。
この快感に尽きると思うんですよ。
その先にあるものが映画『あの日々の話』で馬鹿な男たちが夢見る「ワンチャン」なんですよね。
世代はふた昔前の感覚
『あの日々の話』は2018年製作、2019年公開の映画ですが、世代的に刺さるのはもう少し前に大学生だった世代ではないでしょうか?
1年生の男子・イシカワ(前原瑞樹)は前半でモンパチの『小さな恋のうた』(2001年リリース)を歌い、その後に彼らは、カラオケの定番曲として湘南乃風の『純恋歌』(2006年リリース)を入れています。
世代の違うおっさん社会人学生・オガワさん(近藤強)は長渕剛の『巡恋歌』じゃないの?と戸惑いますが、現役学生たちは長渕の巡恋歌なんて知らないよのていで『純恋歌』で盛り上がりました。
『小さな恋のうた』も『純恋歌』もカラオケの定番であることには間違いないんですけど、これって「今」の子たちの定番曲と言われるとちょっと違うんですよね。
むしろ30歳を越えた人たちにとってど真ん中だった歌です。僕がそうです。
多分世代的に10年くらい前に「大学生だった」人たちのノリだと思うんです。
だから『あの日々の話』はスマホこそ出てくるものの、世代的にドンピシャなのは昭和末期〜平成初期生まれの人たちなのではないでしょうか。
『恋の渦』と近い匂い
『あの日々の話』を紹介するにあたって、外せないのが2013年公開の『恋の渦』です。
部屋コンに集まった男女9人。イケてないオサムに、彼女を紹介するのが今夜の隠れテーマだ。しかし、やってきたユウコのルックスに男は全員ドン引き。それでも無理矢理盛り上げようとするが、すべてが空回りし、微妙な空気のままコンパは終わったはずだったが・・・。その夜を境に、男女9人の交錯する恋心、下心、本音と嘘が渦巻き、ゲスでエロくておかしな恋愛模様が繰り広げられていくのだった。
『恋の渦』では映画冒頭、男女9人(男5、女4)が部屋に集まって鍋パをします。いわゆる部屋コンというやつです。
部屋コンが終わった後は、登場人物たちが住む4つの部屋に人がばらけ、その4か所で物語が進行します。
『あの日々の話』でも、メインキャラクターの学生たちは男5、女4の9人。こちらはカラオケボックスという密室空間で、物語がほぼ完結します。
『恋の渦』では男性5人中4人がフリーター(20代中盤と思われる)、1人が大学生、女性4人中3人がショップ店員(年齢は多分こちらも20代中盤かと)、残り1人が大学生という設定でした。かつてDQNと表現された雰囲気で全員がカテゴライズされています。
『あの日々の話』はみんなが大学生、しかも同じサークルという環境でしたね。
舞台化と三浦大輔
『あの日々の話』では映画冒頭、“この作品は三浦大輔作「男の夢」に着想を得たもの”というただし書きが表示されました。
実はこの三浦大輔さん、映画『恋の渦』の脚本・原作担当であり、2006年に舞台で上演されていた『恋の渦』の脚本・演出を担当されていたんですよね。
もっといえば舞台『恋の渦』を上演していた劇団『ポツドール』の主宰者です。言ってしまえば、『恋の渦』の生みの親なんですよね。
『あの日々の話』は三浦さん作・ポツドール上演の「男の夢」という劇に着想を得た作品。
『恋の渦』同様、舞台での上演が先で、その後に映画化されました。
映画『あの日々の話』を観ている時に「恋の渦っぽいなぁ〜」と思っていたんですが、それも納得です。
喧騒と静寂
カラオケって防音がしっかりしてますよね。
部屋から立って廊下に出ると、中で歌ってたときにはとても廊下が静かに、また中で歌っていない時はやけにうるさく感じると思います。
『あの日々の話』では特に部屋が静かなときの、部屋外との騒音差が特徴的でした。ドアが開くことにより、「密室」が密室ではなくなることも、現実に戻される区切りを感じさせます。
また人の喋り声によるノイズというのも印象的で、特に3人以上いるときの喧騒、二人きりになったときの静寂がコントラストを持って描かれています。
これは『恋の渦』でもそうで、冒頭の鍋パではみんなが思い思いに喋ってひたすらうるさいんですよ。ただ、その中でも特に話すことなくなって携帯を触り出す“何もない”シーンっていうのがあって、その時は大して大きくもない「ぷよぷよ」の音楽がやけに大きく響くんですよね。
3人のバカ話から一人抜けて2人になったときの静けさも、女子3人の会話シーンで描かれていました。
その静寂は大体がちょっと気まずいもので、それを打ち破るために誰かが話し出す。そんな「うるさい必要がある」緊張感も両作品を見る上で面白い点だと思います。
セリフに既視感しかない件
『恋の渦』も『あの日々の話』も、自然会話的なセリフが抜群なんですよ。もちろん計算された台本通りなんですけど、言わされてる感がゼロ。
特にセリフ文頭に付く「ってか」の使い方が抜群ですよね。全然逆接的じゃないのに、とりあえず「ってか」ってつけるあれ。僕らもやってました。ってか今でも使ってる。
大学生だけにとどまらず、カラオケ店員役の太賀さんの、若干イラついた感じがまた上手でした。あの面倒臭そうな対応、カラオケで店員さん呼んで迷惑かけたことのある人にとっては実にわかりみが深いと思うんですよ。ごめん店員さん…って。
『恋の渦』を観たときは、「あるある感」がそこかしこに散りばめられながらも、ちょびっとだけ異世界を感じたんですよ。
パリピのうるせえ感じとか、男女にまつわるエロとか。
客観と主観の境界線が凄くゆるい作品ではあるんですけど、どこかに傍観のところも残ってたんですよね。『恋の渦』は。
だから所々で他人事に感じられたし、9人のDQNたちを心から愛すべき存在として観れたんですよ。
でも『あの日々の話』はマジで既視感しかありませんでした。学生時代に深夜のカラオケでバカやってた我々と同じ物語でした。そこにあるのは共感性羞恥だけです。
あの頃何とも思わずにやっていたことは、いま見返してみたら堪らなく痛かった。これ学生時代の友達と見てたら「いや、お前おんなじことやってたよ」って絶対言われるやつ。痛すぎ。
既視感で言えば、『あの日々の話』の会話の中には『恋の渦』と同じようなセリフが混ぜられています。
「童貞同士でチーム組んでさ、アシストしあう?的な?」
これは3年生のサイトウ(野田慈伸)が口走ってたんですが(文末の「的な?」がまた上手いですよね笑)、これは『恋の渦』でも似た描写がありました。
オラオラ系のコウジ(新倉健太)が男友達に「俺がお前らにパス出して、お前らが決める、みたいなのが出来てたじゃん?」と司令塔ぶって語るのもそうですし、タカシ(澤村大輔)が「絶対浮気しない同盟」をコウジの彼女と結んでいたシーンもそうです。
『恋の渦』のタカシ君は室内でサングラスを装着する(傍目には)痛い子だったんですが、『あの日々の話』でも店内でサングラスをつける男子がいましたね…。
先輩への逆襲・マウント
9人中の大体が(恐らく)同世代だった『恋の渦』と比べると、『あの日々の話』は自分と異質な他者へのマウンティング、特に下級生から上級生へのマウントが目立ちます。
同じサークルに属しているとはいえ、学生である以上は先輩・後輩の上下関係は避けられません。
また、1年生の中にもオガワさん(近藤強)というおっさん社会人学生を盛り込み、ヒエラルキーのさらなる捻れを生んでいます。
敬語を使う関係としてはこんな感じですね。
ただ、時としてこの不等号は反抗的な態度とともに覆されます。
イシカワうざすぎて草
『あの日々の話』のサイトウ(野田慈伸)は、上に媚びて下に厳しい、典型的なうざい先輩でした。そのサイトウにお前ら1年なってねーんだよと詰められていたのが1男のイシカワ(前原瑞樹)です。
イシカワは男女誰とでも積極的にコミュニケーションを取れて、前サークル幹事長のホソカワ(山科圭太)とも問題なく会話ができるコミュ強です。
ただ羽目を外しすぎるところがあって、サイトウの怒りを買い、彼の前では子猫状態になってしまったんですね。前半部分では。
サイトウ>イシカワの力関係がデフォとして進む中、カラオケオールにまつわる「ワンチャンあるんじゃね?(ヤれるんじゃね?)」の話に野郎どもがなると、その不等号の関係は突如逆転しました。
「俺は誰にいく」という(勘違いも甚だしい)表明をイシカワを中心に男どもがしていく中、サイトウは下ネタトークについていきません。さっきまでのオラオラの勢いはどうしたサイトウ。
他の男が部屋の外に出てイシカワと二人きりになったサイトウは、彼に自分が童貞であることを明かします。だからこのノリに若干乗り切れないことも。1年性のイシカワ「も」同じチェリーであることを信じて。
しかしイシカワは経験済みだったんですよね。
ここで立場が完全に逆転します。
女の子と付き合うにはどうすればいいんだろうと悩むサイトウに、イシカワは上から目線になりました。ちょっと前まであれだけサイトウにビクついてたのに、急にタメ語混じりで恋愛指南を始めます。
俺はこうやって女と仲良くなりましたよ。あ、でもこれ言うほど簡単じゃないですからね、とマウント甚だしいイシカワ。うぜぇ……!!
上の世代へのディス
上級生にたて突くのはイシカワだけにとどまりません。
1女のフミ(長井短)は、OGのヨーコ(森岡望)から呼び出しからのネチネチ説教(しかも対象は自分ではない)を受け、我慢の限界に達します。
ヨーコさんは何でも男と女で片付けるし、男女の友情とかないと思ってるんですよね?それって男全然知らないだけでしょ?と。
いやぁ、個人的に男女の友情は成立すると思っている派なので、フミの反逆には拍手喝采でしたね。
ただ言われてる側の、ヨーコからしたら不愉快極まりないわけです。何ならおばさん扱いされてましたからね。たった3つの年の違いといえども、学生の中ではあまりにもデカい3個差。旧世代。酷い言い方をすれば老害です。
このフミも基本的には周りが見えて良い奴に見えましたが、奥底には「男が切れたことない自分」に自信を持ち、恋愛経験未熟な先輩に対して精神的優位に立っています。
さらにこの9人の中で最も人生経験豊富なオガワさん(近藤強)も、表面的には敬意を持たれながらも、ナチュラルにジェネレーションギャップからの差別化を受け続けていました。
他の人はみんなソラで歌える湘南乃風もオレンジレンジも、知らないオガワさん。根底に流れる世代間の断絶。
学生ノリに混じろうと努力するオガワさんの奮闘はことごとく空回りに終わり、常に仲間はずれ状態を強いられていました。
こういうのってサークルだけじゃなくて、職場とかでも同じだと思うんですよね。
同じ世代が集結していると、彼らだけの時はそんなこと気にもしないんだけど、異世代の人が入ってくると途端に「うちらの世代/時代」を意識するようになる。
極端にいえばオッサンお呼びじゃないんですよっていう話ですよね。嫌な言い方ですけど。
男女のゲスい部分をさらけ出した『恋の渦』と比べて、『あの日々の話』は痛さ(特に男子)を表面化した作品だったので共感性羞恥を感じざるを得ませんでした。
ちなみにオガワさんが「男ってバカなんだよね」(だから多めに見てやってよのニュアンス込み)って言っていましたが、それで済ませちゃダメですよね…。それを免罪符にしてる限り、多分一生バカだと思われてしまうわけで…。
あの頃カラオケで馬鹿騒ぎしていた方に、是非観てほしい会話劇でした。
村上虹郎さん目当てで観る方は辛抱強く終盤まで待ちましょう!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
私事で恐縮ですが『恋の渦』はマイベストムービーです。興味がある方は是非ご覧になってください!