映画『うみべの女の子』ネタバレ感想|「キスしてほしい」が届かない

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こんにちは。織田です。

今回は2021年公開の映画『うみべの女の子』をご紹介します。

浅野いにおさんのコミックをウエダアツシ監督で実写化。主演には石川瑠華さん青木柚さん
14歳、中学3年生の少女少年たちの繊細かつ大胆な思春期にフォーカスした作品です。

コミックでは結構性描写がきつかったようですが、映画ではそれほど感じませんでした。
「恋」と「性」をテーマにしており、R15+作品なのでそれなりに「する」場面はあるものの、この類の描写が苦手な人でも大丈夫かなと思います。

予告編すら見ず、事前知識ゼロで鑑賞したものの、かなり楽しめました!特に登場人物たちの抱える想いを推し量りながら、彼女たちの心情に寄り添う作業がとても楽しかったです。

これは僕自身が14歳からかけ離れた歳をとってしまったからかもしれませんが…

この記事では下記の4点を中心に、感想を書いていきます。

  • 少し背伸びした14歳たち
  • 恋愛の順番とは?
  • 小梅に潜む支配欲
  • 厨二=悲劇の主人公

ストーリー展開上のネタバレを含むので未見の方はご注意ください。
また、原作未読の立場であることをご了承ください。



あらすじ紹介

海辺の小さな街で暮らす中学生の小梅(石川瑠華)は、憧れの三崎先輩(倉悠貴)に手ひどく振られたショックから、かつて自分のことを好きだと言ってくれた内向的な同級生・磯辺(青木柚)と関係を持ってしまう。
初めは興味本位だったが、何度も身体を重ねる二人。やがて、磯辺を恋愛対象とは見ていなかったはずの小梅は、徐々に磯辺への想いを募らせ、一方、小梅に恋焦がれていたはずの磯辺は、その関係を断ち切ろうとしてしまう。二人の気持ちはすれ違ったまま、磯辺は過去にイジメを苦に自殺した兄への贖罪から、ある行動に出ることとなる・・・。

出典:Filmarks

作品の舞台となった「海辺の小さな街」として、茨城の大洗神奈川の三浦がロケ地で使われていました。
砂浜が広範囲で広がっているわけではなく、作内で主人公の小梅が「小さい浜しかない」と言っていたように、いわゆる海水浴場ではない「海辺の街」です。

「国道沿いのビリヤード場」など、地方都市っぽい描写もありましたね。
横浜F・マリノスのフラッグがはためいていた商店街は多分、横須賀・久里浜の商店街かと思います。

スタッフ、キャスト

監督 ウエダアツシ
原作 浅野いにお
脚本 ウエダアツシ、平谷悦郎
佐藤小梅 石川瑠華
磯辺恵介 青木柚
鹿島翔太 前田旺志郎
小林桂子 中田青渚
三崎先輩 倉悠貴
うみべの女の子 高崎かなみ
大津くん 平井亜門
白瀬香菜恵
(小梅と合コンに行った子)
宮﨑優
鈴木摩理
(三崎の連れのギャル)
円井わん
磯辺の父 村上淳

主人公の小梅を演じた石川瑠華さんは2021年公開『猿楽町で会いましょう』の圧倒的熱演が記憶に新しく、また小梅の親友役・桂子を演じた中田青渚さんは、『君が世界のはじまり』、『街の上で』などでグッと心を掴まれました。

小梅が高校進学後に付き合った大津くんを演じた平井亜門さんは『アルプススタンドのはしの方』(2020年)での演技が印象に残りました。

青木柚さんが演じた磯辺をはじめとして、「三崎」、「鹿島」、「白瀬」、「大津」と、海にまつわる漢字がついた名前のキャラクターが多いですよね。中学の名前も「うしお=潮」と海辺感が強い名前でした。

主要キャストの出演した他作品の一部は、記事の最後に紹介しています。
この後、本記事はネタバレ部分に入ります。映画をまだご覧になっていない方はご注意ください。



少し背伸びした中学生たち

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

映画『うみべの女の子』では、主に中学3年時のキャラクターたちが描かれます。主人公の小梅(石川瑠華)磯辺(青木柚)桂子(中田青渚)鹿島(前田旺志郎)たちは中学校の新3年生。ちなみに小梅が想いを寄せていた三崎先輩(倉悠貴)は1学年上で高校生になっているようです。

観ていて思ったのが、「主演の二人は、そのまま高3でもいけるんじゃない?」ということでした。それくらいに彼女たちは14歳にしては大人っぽい、ちょっと意地悪な言い方をすると、マセて映りました。

初体験を知る彼女たち

これは観た人の人生遍歴にもよるとは思うんですけど、一般的に中学生で初体験を済ませる子たちは「早い」部類に入ります。自分の中学でも「経験済み」の子たちは10%にも満たなかったと思います。

その数%に、決してクラスで目立つ存在ではない方の小梅と磯辺は入っているわけです。しかも秘密主義を徹底。2人がそういう関係を持っていることはほとんど知られていません。

中学生の頃って狭いコミュニティだから、どうしてもそういうのは筒抜けになると思うんですよね…

これが恥ずかしいから言わないのか、言う必要がないから言わないのか、は判断が分かれるところですが、個人的には後者の要素が強いと思うんですよ。凄いですよ。自分だったら絶対仲の良い友達には言っちゃうと思います。まあそんな心配をする必要のない中学生時代でしたが。

逆に三崎先輩みたいな不良イケイケ系だった友達は中学時代に初体験を済ませている子たちもいましたが、彼らは普通に自慢込みでそれを言いますからね。笑
保健室でしてた子はいたものの、さすがにトイレでしてた武勇伝は聞いたことないです。小梅と磯辺凄すぎです。友達だったらちょっと引く。

一方で、みんなでキャッキャ言うことが楽しい桂子とか、ちょっかいをかけて気を引こうとする鹿島とかは、いかにもな中学生として映りました。「精子くさい」と桂子がからかい、「お前だってトイレの芳香剤みたいな匂いの100均で買った香水つけてんじゃねえよ」と鹿島が返したくだりはマジでガキっぽくて中学生だなって感じでしたよね。

恋愛の順番とは?

「恋」と「性」をテーマに置いた本作品において、特徴的なのは「恋」と「性」の順番です。

ワンナイトから始まる大人の恋と違い、学校という同じ環境で過ごす中高生時代は、「恋」から始まり、告白とかを経て付き合って、そこから関係を持つことが一般的ですよね。昔の用語で言うと、「好きです」「付き合ってください」→「お願いします」→A→B→C(死語)っていう流れです。

けれど小梅(石川瑠華)と磯辺(青木柚)は、キスの前段階をすっ飛ばして、なんならキスすらも放棄して、BないしCに突っ走っていきます。そしてそこで「した」境地はあまりにも充足感に満ちていた。2人は愛を知らないまま、ひたすらに体だけを求めあっていきます。

「さみしいよ。磯辺の下半身に会えないのは」
「上半身はどうでもいい」

小梅が言っていたこの言葉は最たるものではないでしょうか。

愛がある行為なんて幻想。
校内で事に及ぶ背徳感なども手伝って、2人はひたすらに己の欲求を相手で消化し、満たしていきます。

「ねぇ、磯辺。してもしても何か足りない気がするのはなんでだと思う?」(小梅)

きっとそこには恋とか愛が足りないんですよね。具体的にいうと小梅側の恋慕です。

好きの順番とキス

けれど「好き」が全くこの2人に介在していなかったかというとそうではなくて、磯辺は当初小梅に好きになってもらおうとしていましたし、小梅も磯辺のことをかけがえのない恋愛対象としてみていくようになります。ただし2人の矢印はすれ違ってしまったわけです。

「優しい人」が好きな磯辺は、小梅の優しさによって自分を外に連れ出してほしいと思っていたんでしょうけど、彼女の自己満足にだんだん心が離れていきます。

当たり前のように体を重ねる2人でしたが、キスになると違いました。

最初に磯辺が求めた時、小梅はさせませんでしたし(三崎先輩のことが諦められないという面もあったでしょう)、逆に小梅が船着場で求めたときは磯辺が拒みました。

特に小梅にとって、キスという行為はその人を心から愛する契約みたいなものなんでしょうね。体の結びつき以上に、精神的な結びつきを意味しているんだと思います。で、しようと思った時にはもうすれ違ってたわけです。切ない。

ちなみに高校生になった小梅は、大津くん(平井亜門)という男子とこちらも秘密裏に付き合っているわけですけど、ここでも彼女は大津くんに唇を奪うことをなかなか許していません。
ただ、大津くんが「そろそろキスくらいさせてよ」と言ってたのでキスの先もまだなんでしょうね。ここは磯辺と順番の入れ違った「性」と「恋」をしてしまった反省なのかなと思います。

小梅に潜む支配欲

横須賀の画像

そんな小梅(石川瑠華)はみなさんの目にどう映ったでしょうか。

個人的には、彼女自身でもあまり気づいていないであろう自分本位な部分が興味深く映りました。

桂子といるときの私

桂子(中田青渚)と一緒にいるときの小梅の印象からみていきます。

桂子は小梅にとって親友です。ただ、2人の会話や行動を見ていると、主導権を桂子が握っているように映ります。

これは上下関係とかではないんですけど、「帰ろう」とか「夏休みだー!」とか会話を切り出すのが常に桂子なんですよね。小梅は基本、桂子が口火を切ってから彼女に合わせています。桂子が塾行き始めたから、という理由で夏期講習に通うのもそうです。

もちろん大切な友達だと思うんですよ。でも大切だからこそ、言えないことを小梅は抱えています。

磯辺(青木柚)が最初小梅に告った時も、彼は桂子たちといる小梅のキャラクター、大人しくて優しそうな同級生として好意を抱いたと思うんですよね。

磯辺といるときの私

「佐藤ってさ、何でそんなに学校の時とキャラ違うの?」

一方で、磯辺といるときの小梅は、「学校での佐藤」よりも主体的に見えます。桂子と話すときと全然違いますよね。

失恋の埋め合わせに磯辺の好意を利用し、彼の欲求を満たして「あげる」ことで自分も満たします。
磯辺が闇を打ち明け、優しい人が好きだと言ったときも、「〜してあげる」という言い方で寄り添います。多分自覚はないと思うんですけど、「磯辺に寄り添ってあげる私」に充足感を見出しているように映ります。

簡単にいうと、磯辺が自分を必要としていることに満足しているんですよね。
だから磯辺が「うみべの女の子」(高崎かなみ)に熱を上げ始めると面白くないわけです。もちろん磯辺に対して好意、恋慕の感情が生まれ始めた嫉妬が一番だとは思いますが、自分が自分らしくいられる磯辺という場所を失うことへの焦りもあったのではないでしょうか。

「そんな楽しそうな磯辺、見たくなかった」という言葉には多少の占有欲も含まれていると思います。

そんな小梅のことを見透かすように磯辺は、都合の良い時だけバカ面して腰降ってる男を優越感に浸って見てるんだろ、と吐き捨てました。

厨二=悲劇の主人公

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結局小梅も磯辺もこじらせてるんですよね。二人とも厨二です。
その厨二とは、悲劇の主人公を演じる自分に陶酔していると言い換えてもいいかもしれません。

磯辺は磯辺で死んだお兄さんの幻影にとらわれている自分を悲劇のヒーローと思っている節がありましたし、何でもかんでも斜に構えて他者を見下しています。俺はお前らとは違うと。

鹿島と口論になったときも相手の一番嫌なところをえぐるように挑発しました。多分自分で挑発しながら昂ぶってテンションが上がってきたんでしょう。この映画で一番磯辺が生き生きしていたシーンでした。

教師とかからしたら一番面倒くさいタイプですよね。頭がいいだけに厄介。

小梅も普段級友たちの前で解放できない自分を満たすかのように、磯辺の前ではエゴをちょいちょい見せていきました。

三崎先輩に襲われかけた話をした時も、彼女の口ぶりにあったのは単純な危険体験だけではないですよね。年上の男たちに「選ばれ」、車に乗せてもらって、お酒や葉っぱ上等のあぶないオトナの遊びを私はしたんだよという自負が透けて見えます。さらにいえば、そこで獣男たちの毒牙にかかってしまった香菜恵(宮﨑優)と私は違うという部分もあったかもしれません。

磯辺は「お前慰めてほしいのか自慢したいのかどっちだよ」と半ギレで返してましたが、本当その通りですね。小梅は自慢している自覚がないから逆上しました。

その後の「死ねよ」の応酬も含め、このシーンはそれなすぎて笑いました

ただ、自分を満たすことを第一義として動いていた二人が、他己犠牲を知るようになったのは良かったです。

小梅は9月15日の彼の誕生日にせっせと手紙をしたためてプレゼントを用意し、対する磯辺も船着き場での小梅からの告白を彼女のことを想って拒絶しました。自分が犯してしまった事に彼女を巻き込みたくないからです。
どっちも「自分」より「相手」のことを先に考えての行動ですよね。

 

最初に書いた通り、登場人物、特に小梅と磯辺の心情を考えながら堪能できる良い作品でした。
不安定で繊細で、かつ大胆で単純な思春期の二人を演じた石川瑠華さん、青木柚さんに惹き込まれ続けました。

愛なきセックスに溺れたと言うのは簡単ですけど、小梅と磯辺が互いに満たし合った時間は(愛が介在してなかったとしても)空っぽなんかではないと思うんですよ。
鹿島が野球に打ち込み、桂子がお笑い芸人の追っかけに夢中だった頃、小梅と磯辺は確かにお互いの身体を必要として求めあっていました。
たとえそれがハッピーエンドではなかったとしても、この映画には悲壮感をあまり感じませんでした。

きっと大人になってからも14歳の春夏はきっと良い思い出として刻まれるんじゃないかなと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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