映画『男の優しさは全部下心なんですって』ネタバレ感想|七色の風船が飛んでいく

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こんにちは。織田です。

今回は2021年公開の映画『男の優しさは全部下心なんですって』を紹介します。

いつも男が自分の前から去ってしまう恋愛体質の女性を主人公に据えた物語。
辻千恵さんを主演に据え、のむらなお監督が脚本・編集も務めています。

主語デカ映画と思いきや、面白かったです!好きでした!

本記事では映画の感想を書いていきます。ネタバレを含みますので未鑑賞の方はご注意ください。



あらすじ紹介

宇田みこ(辻千恵)は、遊園地の跡地にあるショッピングモールに残されたメリーゴーラウンドの受付係をしている。受付の仕事が終わると、クマの着ぐるみを着て、メリーゴーラウンドの前で風船を配るのも彼女の仕事の一つだった。人を疑うことを知らないみこは、恋愛においても相手をいつも全身全霊で受け入れるものの、なぜか男たちは彼女の前から去っていくのだった。

出典:シネマトゥデイ

遊園地の跡地にあるショッピングモールに残されたメリーゴーランド、というのはロケ地となった「おやまゆうえんハーヴェストウォーク」そのもの。2005年に閉園した「小山ゆうえんち」の名残を残すメリーゴーランドです。

参考資料:あの遊園地の記憶は、メリーゴーランドと共に。栃木・小山に残る笑顔の遺産 (TABI LABO)

TABI LABOさんの記事を読むと、このメリーゴーランドは横浜にあったドリームランドという遊園地から閉園を機に移されたものということ。幼少期の頃にドリームランドは行っていたので多分私も乗ったのでしょう…覚えてないけど…

スタッフ、キャスト

監督・脚本・編集 のむらなお
宇田みこ 辻千恵
日向亮 水石亜飛夢
菅井耕 木口健太
菅井の彼女 上田操
田中靖 こだまたいち
田中の彼女 安倍乙
吉三 原田大二郎
吉三の妻 加藤才紀子
松川敦海 森蔭晨之介
夕夏 五味未知子
妹尾蜜由 田中俊介
妹尾の妻 田中真琴
この後、本記事はネタバレ部分に入ります。映画をまだご覧になっていない方はご注意ください。



カラフルな恋模様

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

 

主人公の宇田みこ(辻千恵)はメリーゴーランドで働く24歳。
彼女の前には数多くの男が登場しては、非常に後味の悪い去り方をしていきます。

みこはクマの着ぐるみを着て風船を来場者に配るのがメインのお仕事なんですが、この風船がみこの関わる「男」のキーカラーの役割を果たしていました。DJ後藤まりこさんの音楽も合わせて、彩度の高いポップな映画として仕上がっています。

エンドロールでは主演の辻千恵さんの赤から、バックカラーが切り替わっていきます。それぞれの色が、みこの見てきた男女の組み合わせに対応しています。

みことクマ

主人公のみこのキーカラーは
ポスターで持つ風船や、彼女のバッグ、キャリーケース、靴下で象徴的に赤が使われています。

また、彼女が着用するクマの着ぐるみ、クマが配る風船も、この作品の根幹となる「色」を表していました。
クマの瞳の色はレインボーです。そしてクマは色とりどりの風船、具体的には、赤、オレンジ、黄色、緑、青(水色)、藍色、紫の風船を、来場者に配っていきます。

この順番は虹の色と同じですよね

そして虹の3色目・黄色から、「男」たちの有り様が描かれていきます。

黄色い男

まず一人目は黄色のセーターを着た男・菅井耕(木口健太)です。みこは彼の部屋で同棲をしていたようですが、実は彼には遠距離恋愛の本命彼女がいて(みこにはもう別れたと説明していたようです)、その彼女が妊娠したことで部屋に呼び寄せたらしく、“セカンド”のみこは追い出されました。

居合わせた本命彼女に、みこのことを「地元の幼馴染み、の妹」と説明する黄色セーター。当日の朝までみこと一緒にいて、煙草(メビウス)を買ってきてと頼んだにもかかわらず、この身の翻し方です。個人的にはこいつが一番ムカつきましたね。笑

黄色い風船は空へ飛んでいき、以後クマ(みこ)の持つ風船からも黄色が消えます。

緑の男

続いてみこの前に現れたのは、従業員用出口で出会った田中靖というミュージシャン(こだまたいち)です。彼のキーカラーは

煙草を吸いながら詩的なセリフを口にする田中に、みこは(夕日がどうのとほざいた)黄色のメビウス男を振り払う魅力を感じたのでしょうか。
ホテルに向かいますが、彼の体質上(性癖上?)、アブノーマルな場面となります。

そんな彼を強気に支える彼女(安倍乙)に田中の行動は筒抜けであり、彼女が登場して田中は連れ戻され、みこも彼女の口から田中の真実を明かされるとともに厳しい罵りを受けます。さらに田中が強制連行されたことで、ホテル代を自分の財布から出すことになってしまいます。

田中のキーカラー・は、彼のビニール傘の縁取りや柄の部分と、ホテルのライトで表現されています。

田中さんに関しては、彼を受け入れてくれる彼女がいるので何とか幸せになってほしいですね…

彼の場合は風船が飛んでいった後にもみこと関わる機会があり、そこでいくばくかの優しさを見せています。下心なのか先日の償いなのかは謎です。後者だと信じたい。

水色の男

緑色の男ともうまくいかなかったみこを慰めてくれたのは、メリーゴーランドで働く上司・吉三さん(原田大二郎)でした。

この吉三さんは妻に先立たれてからというもの、50年間一度も「ピクリとも上を向かない」状態になってしまったと言います。

吉三さんのキーカラーは水色(青)。吉三さんのスカイブルーのジャケットに加え、みこ(と亡くなった奥様)が膨らませる風船が直接的に彩ります。

吉三さんはいい人でしたが、みこと一緒に乗ったメリーゴーランドに乗っている最中に亡くなってしまいます。
みこが膨らませる風船に呼応するように彼は50年ぶりに膨らんでいく感覚を覚え、「いって」しまいました。昇天。

後にオーナーがみこに「君の不祥事」と言ってたのは吉三さんがメリーゴーランドで亡くなったことでしょう。また吉三さん亡き後、同僚の日向が着ぐるみ要員から吉三さんのやっていた管理職務にスイッチしています。

水色の風船も、みこの手から離れていきます。

藍色の男

クマ(みこ)の持つ風船の色は、赤、オレンジ、青、紫だけになります。

次に現れたのはメンヘラ気味の脚本家・松川敦海(森蔭晨之介)。彼、そして彼の死んだ元彼女・夕夏(五味未知子)とのエピソードは、映画の中でも最も時間をとって描かれていました。

敦海と夕夏のキーカラーは青(藍色)。彼の家の箸やポットが該当しますが、スピンオフ短編・『好きな人とひとつになる方法』の予告編を見るともっとダイレクトだと思います。

敦海は夕夏に乗り移ってもらわなければ脚本が書けない(自分では何もできない)ですし、すぐ酒に酔ってへべれけになるしで結構ひどい。ただ、夕夏に乗り移ってもらう作業が発生することで彼の夜の睡眠が休息になっていないことを考えると、身体的に心配ではあります。

紫色の男

敦海の元から去って行った後、クマ(みこ)の持つ風船の色は、また全色に戻ります。
その中から、紫色の風船をみこから受け取ったのが、映画監督の妹尾(田中俊介)でした。

敦海つながりでみこと接点を持つやいなや、「幸薄そうな鎖骨」とか言って上から目線でアプローチをかけ、敦海がみこにとって元彼となった途端に「気持ち、わかるよ。俺もそうだから」などと甘い言葉で本格的に近づいてきます。

妹尾は作品内一番の下衆で、彼に裏切られた妹尾の妻からサングリアを頭にぶっかけられるなど、みこにとっては散々でした。

根本的にこいつの場合は立場を利用してみこを、女性をなめ腐ってますよね…。あと「ウダミコ」の響きに自分で酔ってます…

本格的な犯罪に手を染めた妹尾は、別件(不倫バレ)で制裁もくだされます。ざまみろ案件。

妹尾の紫色は、彼の取った風船、彼の服の色味、彼のハメ撮り動画のアップロード進捗状況を表示するステータスバーの色によって説明されています。

下心と橙と回転木馬

風船の画像

standuppaddleによるPixabayからの画像

下心という単語は、「一線を越えたい」と思う男性が持つ性的な意味合いのものとして使われています。

この映画のタイトルは『男の優しさは全部下心なんですって』ということもあって、デカい主語で「男」のクソな下心を描くものなのかなと思っていました。観るまでは。

確かに宇田みこを虐げるクズ男が出てきます。
そして、男の優しさは全部下心なんですって、と言われたら否定できません。映画を見る限りきっとそうでしょう。(吉三さんのケースは特殊ですが…)

一方、みこにとっても男たちの優しさが下心に基づいていることは、わかっていたはずです。にもかかわらず、警戒心が薄いというか、相手を疑わずに受け入れてしまいます。誰にでも優しさを振り撒いてしまいます。

良いことなんですけどね…

黄色のセーター男とのやり取りで煙草が秋仕様のパッケージと言っていたことから、(やむを得ず)色んな男を乗り換えていく彼女の物語はまさにひと秋のものだったはずです。

彼女は同僚の日向(水石亜飛夢)に「おまえ(相手が)誰でもいいじゃん」と指摘されるわけですが、みこの性質についても恋愛(愛したい、愛されたい)という彼女の“下心”がみえます。

また、緑のミュージシャンとホテルに行った際の感じを見るに、“男の下心”に対してその時点ではみこは嫌悪感を覚えていません。というか、そもそも彼女にとって男の下心の有無は大した問題ではないんじゃないかなと思います。

だからこの映画は別に“下心”自体を否定する作品ではないと思うんですよね。問題なのは、みこを“二番手”に置いた状況で下心を発揮する部分。黄色のセーター男と緑のミュージシャン、そして紫の映画監督・妹尾が顕著ですよね。

また、みこを傷つけた色々な男どもが問題ありな一方で、そんな男たちには“一番手”のパートナーがいるわけです。緑男の彼女(安倍乙)が印象的ですが、罵りながらもこの男を愛し、理解し、受け入れていました。

なので、この映画はデカい主語でクズ男たちを糾弾する作品でもないはずです。このへんが否定一辺倒になっていないのも好きです。

オレンジの男

赤がシンボルカラーとなっているみこは、黄色、緑、水色、青、紫の男に翻弄され、彼女自身をすり減らされていきました。

緑のミュージシャンと一緒にいる時は楽しそうな彼女でしたが、次第にその表情からは笑顔が消えていき、紫の妹尾パートではロボットのように無表情で「美味しい」「本当?」と喋っています。

で、虹の七色の中でまだ触れていないのが、赤(みこ)の次の色に当たるオレンジ。該当するのは、みこの同僚・日向(水石亜飛夢)になります。

日向はみこから恋愛遍歴の報告を受けており、彼女の悲運も、男を見る目のなさも把握しながらも、いつもさりげなく寄り添っています。みこが誰彼構わず受け入れてしまうことから、彼女が敦海との関係に悩む段階では「うち来いよ」とサラッと誘っています。

上で触れた通り、虹におけるオレンジは赤の隣の色です。職場の同僚としても非常に近い位置にいます。
妹尾の元を出たみこが、最後に夜をともに過ごしたのは日向でした。最後にして最大の希望、日向亮。

しかし、日向はみこの隣でLINEを開き、別の女と明日の約束をしています。ここでも、みこは一番手になり得ませんでした。

みこの未来

ここまで来たら、観ている私にとって唯一の希望は、宇田みこに幸あれということだけです。どうか笑顔を取り戻してほしい。お願いします。

日向とホテルで10月24日を迎えたみこは、6色の男たちを最後のメリーゴーランドに誘います。みこは銭湯で身体を洗い流した後に現地へ向かい、男たちには日向を除き“1番手”のパートナーが同伴しました。

銭湯のシーン、そして取り壊されるメリーゴーランドへの集合から受ける印象は、みこのこれまでの清算。さらにメリーゴーランド(merry-go-round)を検索すると、このような叙述が出てきます。

merry-go-round
名詞
1. (特にほとんど目的がないように見えるときの)活動や出来事の堂々めぐり
2. 子供が乗って楽しむシートの付いた大きな回転する器具

引用元:英ナビ!辞書

また、楽しげな音楽とともに回転を始め、音楽の停止とともに止まるメリーゴーランドには“束の間の楽しい時間”というイメージが与えられていることも多いはずです。転じて幻想的な(しかし長くは続かなかったり、現実ではなかったりする)象徴ともいえます。

そんな幻想と、木馬に乗る過去たちと、みこはラストシーンで決別します。メリーゴーランドはこの後なくなります。色々な男に翻弄された24歳の宇田みこは25歳になって、人生の新たなページをめくっていきます。ラストシーンは彼女が25歳になったと告げる言葉でした。

日向と何度かやりとりをしていたことからも、みこ自身が25という歳に対して思うところはあったでしょう

止まった回転木馬の上で佇む彼女は、「堂々めぐり」を終えて別の世界で生きていく。そのような未来を期待させてくれる終わり方でした。

 

主語デカめの刺激的なタイトルでしたが、面白い映画でした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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