11年の映画『ハラがコレなんで』を観ました。石井裕也監督・脚本。主演は仲里依紗。
妊娠9カ月のシングルマザー・原光子(仲里依紗)が、「粋」をテーマに周りの人を巻き込んでいく人情ドラマの作品。
主人公がときに独りごちながら、彼女の一人称的な視点から作品を見せるのが石井監督は上手である。
特に導入部分において、原光子がどういうキャラクターであるのか。基本的には彼女の行動を撮るだけで視聴者に刷り込んでいく。
仲里依紗がマジで粋だねぇ!
キャスティングで言えば石橋凌に近藤芳正、宇野祥平あたりはもはや反則。
映画のタッチとしてもテレ東のドラマ24あたりに似た、緩くて温かいものに仕上がっている。
中村蒼はドギマギ系男子でありながら、時折見せるマジな顔が素敵。仲里依紗ともに安心して見ることのできる俳優が作品を引っ張ってくれた。
物語の設定には光子のシングル妊娠のほか、リストラ、貧乏、経営破産、離婚、捨て子といったネガティブな要素がいくつも出てくる。
主な舞台となる時代遅れの長屋を中心とした一帯は、「東京にもこんなところがあったんだ…」とタクシーの運ちゃんに呟かれるほどのエリアである。
ただし、光子は周りの苦境に対しても「オーケー、わかった。私が何とかする」の一言で超前向きに彼らを光の差す方へいざなっていく。
考えに詰まった時は昼寝をして「風向きが変わったらそのときドーンと行けばいいさ」と泰然自若である。
妊娠しているにもかかわらず、である。
おそらく前述のネガティブな要素は描こうと思えばもっと後ろ向きにも描けたはずと思う。
でも石井監督はそれをせず、彼らなりの前向きさと、現状を受け入れて毎日を大切に生きる姿を見せてくれた。
それはもちろん光子の力が大きいんだけど。
「粋だねぇ」
「そんなの粋じゃない」
光子の行動は大体がこの二つに基づいている。文字通り風まかせの言動も、それが粋だと彼女が思っているが故である。
彼女の「粋」に対する信念が粋か無粋かは場面によって、見る人によって違うと思うが、彼女が貫くある種おせっかいな人情は強烈に心に刺さった。
僕たちは、たとえ友達の間での小さなコミュニティだとしても、誰かのために人情だけで動くことができるだろうかと。
ヒューマンドラマと言うにはファンタジーも残っていて、そんなところも『川の底から…』によく似ている。いやらしさ、がめつさが感じられない上質な笑いの掛け合いもたっぷり。
ラストシーンも僕は好き。
登場人物が抱えるストーリーをしっかり描ききって、作品の温度を上げている作品。
最高でした。