映画『見えない目撃者』ネタバレ感想|誰もいない地下鉄の駅を逃げろ

クロックポジションの説明画像
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R15+作品
残虐な殺傷行為、また血の描写が生々しいグロテスクなシーンがあります。苦手な方はご注意ください。

こんにちは。織田です。

今回は2019年に公開された映画『見えない目撃者』を紹介します。

事故で視力を失った元警察官の主人公が、誘拐事件の犯人を「目撃者」として追っていくサスペンス作品。
2011年の韓国映画『ブラインド』の日本リメイク版になります。

この記事では映画の面白かった部分、また、個人的に気になった地下鉄の駅のシーンを中心に取りあげていきます。




あらすじ紹介

浜中なつめ(吉岡里帆)は警察学校の卒業式の夜、過失で弟を事故死させ、自分の視力も失う。警察官になることを諦めたなつめはある日、自動車事故の現場で少女が助けを求める声を聞く。誘拐事件を疑ったなつめは警察に訴えるが十分に捜査してもらえず、自ら動き出す。

出典:シネマトゥデイ

スタッフ、キャスト

監督 森淳一
脚本 森淳一、藤井清美
浜中なつめ 吉岡里帆
国崎春馬 高杉真宙
なつめの母 松田美由紀
なつめの弟 松大航也
刑事・木村 田口トモロヲ
刑事・吉野 大倉孝二
木村たちの上司 酒向芳
刑事・日下部 浅香航大
レイサ 中田青渚
陽奈 坂ノ上茜
京子 大出菜々子
明日香 松川星
彩夏 伊藤歌歩
横山司 渡辺大知

作品の鍵を握る少女・レイサを演じたのは中田青渚さん

自分の身に迫る恐怖におびえる姿と、助けが来た時に泣きじゃくる演技が印象的でしたね。

中田青渚の出演作は、『君が世界のはじまり』や、『写真甲子園 0.5秒の夏』といった映画もおすすめです。
この二つの作品でも、感情を解き放つようにして印象的な役柄を演じています。

注目の俳優さんなので是非チェックしてみてください!

『見えない目撃者』の作品情報についてはMIHOシネマさんの記事でもネタバレなしで詳しくご紹介されています。オリジナルの韓国映画『ブラインド』や合わせて見ておきたい映画もご紹介されていますのでぜひ見てみてください。

この後、本記事はネタバレ部分に入ります。映画をまだご覧になっていない方はご注意ください。



映画のネタバレ感想

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

木村刑事の主人公感

『見えない目撃者』は視力を失った浜中なつめ(吉岡里帆)が主人公の映画ですが、田口トモロヲの演じた木村という中年刑事が非常に印象に残りました。

この木村刑事は定年間近でありながら、恐らく警察内の出世ルートからは外れています。

他の刑事と比べて大した仕事も抱えておらず、署内で靴を呑気に磨いている窓際のおっさん刑事です。

「木村さんもお願いしますね。手が空いてるの木村さんしかいないんで。」
(長者町警察署・高橋係長)

聞き込みに行かされる吉野(大倉孝二)に同伴するように係長から促され、しぶしぶ腰を上げる木村刑事。実に面倒くさそうな雰囲気が漂います。

「木村さんみたいに仕事しかしてこなかった人って、定年後結構大変ですよ。趣味がない。やりたいこともない。友達もいない。」
(長者町警察署・吉野)

後輩の吉野にも、こんな風にからかわれる始末。

そんな木村さんが、明らかにダメ刑事に映っていた木村さんが、次第にやる気を見せていきます。立証の難しそうな事件に対し、「目撃者」のなつめや春馬(高杉真宙)から話を聞いて事件の糸口を探ろうと、孤独な戦いに挑んでいくわけです。

なつめと春馬が事件の手がかりを知るためにいくら動いたとしても、捜査ごっこと思われたら意味がありません。

けれど二人の努力と熱意に動かされた事なかれ主義のおじさん刑事は、なつめと春馬の持って来た手がかりを信じていきました。捜査ごっこは、本物の捜査へと変わっていきます。

個人的に木村さんは、なつめと張る主人公のようにも見えました。

重要人物があっさりと…

いち早く真犯人にたどり着いたのは木村刑事でした。

単独で説得に乗り込んだ木村刑事でしたが、あっさりとサイコキラーの狂刃にやられてしまいます。
そんな木村刑事を助けようとした、No.2の重要刑事・吉野(大倉孝二)も真犯人の前に倒れてしまいます。

重要人物が実にあっさりと死んでいくんです。この映画は。

そもそも応援がもう少しでくる態勢でありながらも、犯人の潜む要塞に単独で突入した吉野の行動もどうなのかなと思いましたし、自分が車を空けたその後に春馬となつめが突入したことで一般市民を巻き込んでしまったわけです。

木村さん死んじゃったよ………許せねぇぇ!!とこちらが悲しみを消化して怒りに変える時間すら与えてくれません。

実は一命を取り留めていたよ、良かったね、なんて救いもありません。殉職者2名。それがこの猟奇的事件に残された結末です。

もはや終盤は犯人・日下部がいかにヤバくて強いやつであるかの話でした。

映画冒頭で主要キャストが羅列されていくので、真犯人が誰かは比較的早めに予想はついてしまうんですけど、この日下部という男はやばかったですね。純粋な悪でした。
そこに彼を狂気に駆り立てる過去とか、情状酌量の余地はありません。一般社会にいたらいけない奴です。間違いなく。

刺す、切るといった残虐な行為と、赤黒く生々しい血も手加減がない。
このへんの振り切れ方に、韓国映画をオリジナルとする強さというか、潔さを感じましたね。容赦が一切ないんですよ。
春馬くんさえも死んじゃうんじゃないかと思ったほど。

逃げるなつめと“時計”の誘導

ドキドキハラハラの展開が続く中で、特に見応えがあったのは、なつめ(吉岡里帆)が犯人の車から脱出し、春馬(高杉真宙)に電話で誘導してもらいながら逃げるシーンです。

「今どこ?どうすればいい?!」
「誘導して。時計の文字盤に位置を見立てて、説明してもらえるとわかりやすい。」
(春馬となつめの会話から)

なつめはビデオ通話にしながら携帯のカメラを行き先を向けて、春馬に誘導してもらいます。

「2時の方向に地下鉄の入り口がある」
「11時に向かって」
「9時に改札がある」

クロックポジションの説明画像

時計の短針の向きで方向を教えるこの方法は、クロックポジションといって視覚障がいを持つ人への有効な指示手段です。
食事をするとき、どの位置に何が配膳されているかを示すときによく使われます。

サイゼでも
2020年にはサイゼリヤでクロックポジションを使って、料理の説明をしてくれたことに感動したお客さんのツイートも話題を呼びました。

以前アイマスクを着用した状態で、クロックポジションを使った指示を受けたことがあるんですけど、確かに「左」と言われてもそれがどのくらいの角度の「左」なのかわからないんですよね。

わかることが重要なので「左斜め上」とかでも良いんですけど、目の見えない方にとってクロックポジションは馴染みのある指示手段です。
それを映画の緊迫する場面で効果的に用いたのは実に見事でした。

盲導犬への指示は英語で行います

盲導犬への指示は英語で行います

もう一つ付け加えると、盲導犬・パルに対して、なつめは「ゴー」「レフト」「カム」と英語で指示を送っています。

これはなぜかと言うと、日本語の指示だと言い回しが人によって違う可能性があるからなんですね。
「ゴー」を例にとると、「進め」と言ったり、あるいは「進む」「進んで」「進みなさい」みたいに表現が変わってしまいがちです。「カム(Come)」だと「来い」「来なさい」「おいで」という感じです。

また、日本語の命令形はとても強い口調になってしまいます。「進め!」「来い!」と口にするのは憚られることがありますよね。

そういうことがないように、盲導犬への指示は共通言語として英語が用いられているんですね。

人がいない地下鉄の駅

春馬の指示を受けながら日下部から逃げるなつめ。
彼女は地下鉄の駅を進み、助けを求めますが、驚くほどにこの駅には人がいません!

映画の舞台となっているのは、桐野(栁俊太郎)との追っかけっこで野毛が用いられていたように横浜です。
木村や吉野が勤める長者町警察署も、野毛の近くにある伊勢佐木長者町を模したものと想像できます。

横浜には市営地下鉄が通っているわけですが、乗降客数から考えても夕方から夜にかけたあの時間帯に人がいないことは考えにくいんですよね。一番少ない舞岡駅でも1日平均5,000人程度が乗り降りしています。(参照:横浜市統計書 第9章 道路、運輸及び通信

ただ、この映画でロケに使われたあの駅が実際どこなのかと考えると、意外とありえない話でもないんですよ。

東成田駅

なつめが日下部から逃げていたあの駅に使われていたのは、千葉の東成田という京成電鉄の駅。

この東成田駅、実はもともと「成田空港駅」として開業した駅なんです。

その後に現在の成田空港駅、空港第2ビル駅ができたため、成田空港へアクセスできるターミナル駅としての機能はそちらに移っていきました。空港第2ビル駅から東成田駅は500メートルの地下通路で繋がっています。

空港第2ビル駅と東成田駅をつなぐ通路

空港第2ビル駅と東成田駅をつなぐ通路

東成田駅の様子
こちらの記事では東成田駅の構内を写真でご紹介されていて雰囲気が伝わります。是非ご覧になってみてください!

知らなかった!成田空港と東成田駅は地下通路でつながっていた!

現在の乗降客数は1日平均2000人弱。先ほど出した横浜市営地下鉄の一番少ない駅の3分の1です。
空港関連で働く方の利用が多いそうで、時間帯によっては「誰もいない駅」と化すようです。駅構内自体は広いだけに孤独っぷりが増します。

この東成田駅の現状を知ると、なつめと日下部のスリリングな逃走劇に説得力が出てくるんですよね。

利用客が大して多くないわりに広いから駅員の目も届かないし、妙に寒々しい構内の照明も合点がいきます。

このだだっ広くて殺風景な駅で、自分が誰かに追われている姿を想像してみてください。なつめの感じた恐怖を、ぞわぞわっと実感しませんか…?

 

映画『見えない目撃者』は、その名の通り「見えない目撃者」だったなつめが春馬という心強いバディを得て、救いを求める被害者たちを助け出す素晴らしい作品でした。

弟を亡くしたなつめだけでなく、春馬や木村もなつめに心を動かされて真実を追求していくまでの過程、バックグラウンドが描かれていましたし、登場人物に感情移入しやすかったと思います。
ストーリーに恋愛感情が介在しなかったのもすっきりしていて好き。

犯人探しを楽しむというよりは、危険に足を踏み入れる捜査をドキドキ息を呑みながら見守るスリリングな映画でした。

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2020年に横浜流星と吉高由里子のダブル主演で公開。こちらも不慮の事故で視力を失った女性が登場し、韓国映画『ただ君だけ』をリメイクした作品です。目が見えない主人公を演じた吉高由里子の演技は必見。「赦す(許す)」というテーマへの妥協ない展開にも注目です。

ミュージアム

同名の漫画が原作で2016年公開。猟奇的殺人犯「カエル男」を追う刑事役を小栗旬が演じています。狂気のサイコキラーという点では『見えない目撃者』の真犯人と通じるところも。