映画『勝手にふるえてろ』ネタバレ感想〜こじらせ女子・松岡茉優を堪能しよう〜

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こんにちは。織田です。

2017年の映画『勝手にふるえてろ』を鑑賞してきました。綿矢りさの同名小説を原作とし、映画初主演の松岡茉優を主演に据えています。
脚本、監督は大九明子。

『勝手にふるえてろ』のスタッフ、キャスト

監督・脚本:大九明子
原作:綿矢りさ
ヨシカ:松岡茉優
ニ:渡辺大知
来留美:石橋杏奈
イチ:北村匠海
金髪店員:趣里
最寄駅の駅員:前野朋哉
コンビニ店員:栁俊太郎
釣りのおじさん:古舘寛治
オカリナ:片桐はいり

恋愛経験のない経理担当の江藤ヨシカ(松岡茉優)が2つの恋に悩み、揺れながら暴走していく様子を描く作品。部類としてはラブコメなんでしょうかね。

本作品は新宿シネマカリテで鑑賞。地下の綺麗なミニシアターは待ち時間が足りなくなるほどに映画への愛に溢れていました。都心に来るとこういう映画館に会えていいですね。

映画のパネルも飾られていました。ヨシカを演じるのは前述の松岡茉優。中学時代からヨシカが想いを寄せるのはイチ(北村匠海)

ヨシカにアタックするのは営業部門の会社同期・キリシマ(渡辺大知)。キリシマは一貫して「ニ」と呼ばれます。

また、石橋杏奈が同期、同部署の親友・来留美を演じています。



こじらせてる?そんなん知ってるよ!

あらすじ紹介

松岡茉優が演じるヨシカについて。こじらせている女という説明だけでは足りないので、公式サイトからあらすじを引用させていただきます。

24歳のOLヨシカは中学の同級生”イチ”へ10年間片思い中!過去のイチとの思い出を召喚したり、趣味である絶滅した動物について夜通し調べたり、博物館からアンモナイトを払い下げてもらったりと、1人忙しい毎日。そんなヨシカの前へ会社の同期で熱烈に愛してくれる”リアル恋愛”の彼氏”ニ”が突如現れた!!「人生初告られた!」とテンションがあがるも、いまいちニとの関係に乗り切れないヨシカ。まったくタイプではないニへの態度は冷たい。ある出来事をきっかけに「一目でいいから、今のイチに会って前のめりに死んでいこうと思ったんです」と思い立ち、同級生の名を騙り同窓会を計画。ついに再会の日が訪れるのだが…。

出典:公式サイト

思い出を召喚、と言っているあたり、賢明な方はお気づきかと思いますがヨシカは結構なレベルの妄想女ですそしてオタクです。

もちろん妄想もオタクも悪いことではないんですが、自分のことを一番わかっているのは自分というスタンスが彼女を少し面倒な思考回路にしています。

要は、妄想する自分がおかしいとわかっていながらも、そうやって思慮する自分が愛しくて、思慮した結果の考察や想いを自分の中に向かって発言していくことで”江藤ヨシカが考える江藤ヨシカ像”を形作っていきます。

ヨシカによる自己分析と自分語りは作中を通じて続きますが、まだ映画をごらんになっていない人は、ぜひ最初のシーンの彼女の独白に注目して聞いてみてください。

▲ちなみに作中で話に出てくる「オオシマセラス」のアンモナイトは昨年岩手で偶然目にしていたのでびっくりしました。帰路でとりあえず「アンモナイト 異常巻き」を検索しました…

ヨシカは作中で自分語りをする際に「こういうのは本来SNSでやるべきなんだろうけど、そんな自分のことを発信するなんて恥ずかしい」と言います。

謙虚に聞こえますが、これは謙虚な自己への陶酔。未熟ながらもそれをわかっていると思っているからこそ自分へのプライドが高く、その発信が内向きなので少々めんどくさいこじらせ方です。ちなみに発信をもしSNSなどでやったのであれば確実に要注意案件なこじらせ女子です。

傍目にはおかしく見えないがゆえに変な奴というよりも、よくわからない人という認識が大きそうです。実際に”ニ”(渡辺大知)はヨシカの魅力についてその点を挙げていました。

この後、本記事はネタバレ部分に入ります。映画をまだご覧になっていない方はご注意ください。



映画のネタバレ感想

以下、作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

ヨシカが生きる3つの世界とは?

この作品においてヨシカの世界は主に3つに分かれています。

一つはヨシカの部屋の中。
二つ目は職場。
三つ目は彼女の通勤ルートです。

この3つの世界で生きるヨシカを見守る。それが『勝手にふるえてろ』の醍醐味かもしれません。僕は感情移入ではなく、見守るという感覚でした。

部屋での私

都内(練馬区)にあるアパートの一階に住むヨシカ。隣には岡里奈というオカリナを吹いている女性(片桐はいり)が住んでいます。

部屋に帰ってきてからのヨシカはスーパーモードに突入。部屋着に着替えて眼鏡を装着し、ヘッドホンで音楽を聴きながらちゃちゃっとご飯を食べ、後片付け。その後にパソコンを開いて趣味タイムと、完全にオタク全開です。

感情を最も表現するのもドアを閉めて自らのテリトリーを確保した後です。

ドアを開けるときは半開きにしたり、一挙手一投足にセリフをつけたりと、環境的な部分でも精神的な部分でも最も素のヨシカが描かれています。

職場での私

職場での経理・ヨシカは強気で毒舌な一面を見せます。同期の来留美(石橋杏奈)の前で他部署や上司をディスり、営業職の”ニ”を冷たくあしらいます。

多分仕事上でのストレスもあるんでしょうが、妄想世界を職場の現実世界に持ち込まないようにという彼女なりの工夫でしょう。

個人的に来留美はとてもいい奴だと思います。
(多少下に見ていた部分はあったにせよ)ヨシカを思い、良かれと思って助太刀する彼女。ヨシカの好きなものとかもきちんと覚えていてえらい。

多分ほかの女性社員は面倒なヨシカとはそこまで深く関わりたくないのでしょう。斜に構えて毒を吐くというキャラクターは、そういう風に見られる側面がある。それをこの作品は描いていると思います。

経理部はみんなで一緒に昼寝を摂ったり、並んで歯を磨いたり、と横並びの意識が高そうな組織ですね…。ヨシカと来留美の奏でる「we will rock you」のドラムには笑い声が館内にこだましていました。

通勤路の私

3つ目のヨシカの世界は通勤路。

人形のような金髪の女性店員がいるおしゃれなバーガーカフェ、川でいつも釣りをしているおじさん、バスで隣になる編み物をしているおばさん、コンビニの三つ編み男性店員、利用する駅の駅員さん。マッサージ店の施術師さんと、アパートの隣人・オカリナさんも含めればヨシカには7人の仲間がいます。

バスで隣になるおばさんは稲川実代子、マッサージ師は池田鉄洋が演じています。

「仲間」と評したのは彼らがヨシカの自分語りを聞いてくれたり、元気付けてくれる存在だったりするから。
脳内彼氏(”イチ”)に恋をする自分に恋をするヨシカを応援してくれる大切な存在ですね。彼女が主役のスポットライトを浴びるべき場所として描かれています。

これは『モテキ』のperfumeが出てくるシーンなんかと似ていますね。

ちなみに本作品は恋愛ものにしては珍しく性的な描写が皆無なのですが、それは恋愛に未熟なヨシカが見ないようにしているから、という側面が大きいと思います。ラブコメディの傑作・『婚前特急』とも似たところがあったかなと。

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映画『婚前特急』ネタバレ感想〜最上級のラブコメだぞ〜

2014年4月5日

また、日常の闖入者・“ニ”と、実体のある今の“イチ”の存在によってこの3つの世界のバランスが崩れていくのも見所です。

結論・松岡茉優すげえ

ここまで長々とヨシカについて述べてきましたが、そんな夢見がちで毒舌で臆病な江藤ヨシカを演じたのは松岡茉優。『勝手にふるえてろ』は松岡茉優の演技にふるえてろと言っても過言ではありません。

自分の専門分野に対して、また自分語りにおいてペラペラとマシンガントークを続けるあたりはさすがオタク。澱みなく言葉を継ぎ、会話の主導権を握っていきます。

時に「f●●●」と毒づく男性経験のないヨシカ。上でも述べましたが”イチ”への想いを拠り所にして自己肯定を繰り返すヨシカ。
パワーストーンに必死で願掛けをするヨシカ。
可愛さを前面に押し出す女にはなれないと知りながら己の脳内恋愛に救いを求め、「見てもらえる」ことに憧れを抱くヨシカ。

危うさと面倒くささと卑屈さと純粋さが合わさった厨二病方程式を松岡が自分であるかのように演じています。

来留美が「私もそうだった」と明かすように、誰だって恋に臆病になり、実体のないものに心の安らぎを求めたり妄想したりすることはあったかと思います。

そんな小さな恋のあるあるを見つけられたからこそ、ヨシカ=松岡茉優になれたのでしょう。

足元の強調や部屋の定点カメラ、海の底に眠るアンモナイトを思わせる睡眠シーンなど示唆に富んだ撮り方も、松岡ヨシカのキャラクターを観る者にわかりやすくしてくれました。

余談ですが、中学時代の眼鏡をかけたヨシカはめちゃくちゃ可愛いです。

キミ呼びの北村匠海

大人になった”イチ”はヨシカのことを「キミ」と呼びます。

演じる北村匠海は『君の膵臓を食べたい』でもヒロインのことをキミと呼んでいました。『キミスイ』ではキミ呼びを「相手を特別な存在にしたくないから」と評しましたが、この作品ではまた意味合いが異なります。そして『キミスイ』以上にキミ呼びに込められるメッセージは直接的なものでした。

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映画『君の膵臓をたべたい』ネタバレ感想〜ボロ泣き必至〜

2017年8月15日

北村匠海のセリフはトーンを抑えた声色ながら聞きやすく、この人の声はやはり好きだなと再確認。

また、人気者に見える”イチ”のセリフの中にも彼なりの葛藤が感じられるものがありました。

松岡茉優の暴走と妄想を見守り、オタクならではの掛け合いにクスッと笑える本作品。疾走シーンや雨など日本映画らしい見せ方もありますが、観る人の予想を裏切らない、楽しめる作品だと思います。
ポスターのフレーズにもなっている「この恋、絶滅すべきでしょうか」を頭の片隅に置きながら観ていただきたい映画です。

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