映画『彼女は夢で踊る』ネタバレ感想|きっとストリップへの見方が変わる

彼女は夢で踊る タイトル画像

こんにちは。織田(@eigakatsudou)です。

今回は広島県の実在のストリップ劇場を題材にした『彼女は夢で踊る』をご紹介します。

広島出身の時川英之監督が手がけ、2019年に製作された作品。同年に広島で先行公開され、今年2020年の秋に全国公開されました。

ストリップと聞くと何やらアダルティな響きに聞こえますが、R指定がきつくない(PG-12)ことからも、そんな心配はありません。
こちらの予告編動画をご覧ください。

「そこには何かいやらしいものがあるのかと思ったが、そうではなかった」

予告編動画で流れるセリフです。本当これです。何回でもアグリーしたい。

スクリーンの向こうにあったのは美しいミューズ(女神)と、不思議な魅力を持ったストリップ劇場の館長。そして彼女たちが織りなすあまりにも切ないラブストーリーでした。

『かしこい狗は、吠えずに笑う』(2012)や、『ジムノペディに乱れる』(2016)で圧倒的な演技力を見せてきた岡村いずみさんの新境地がここにあります。岡村さんのファンの方はもちろん、そうでない方もハマると思える、是非ご覧になってほしい作品です!




あらすじ紹介

閉館間近の広島の歴史あるストリップ劇場の社長・木下(加藤雅也)は、かつての華やかだった時代に思いをはせていた。この舞台で引退する有名なストリッパーをはじめ、ミステリアスな若手の踊り子たちが次々と劇場に到着する。やがて最後の舞台の幕が開き、劇場の終わりを目の当たりにした木下の胸に忘れていた過去の恋の思い出がよみがえる。

出典:シネマトゥデイ

舞台は閉館間近だったストリップ劇場・広島第一劇場です。
本作品のお披露目上映会は、この広島第一劇場で行われました。

歴史に終止符を打つ場所を舞台にした作品は数あれど、その舞台でこけら落としを飾ることができるのは本当に素敵な縁だと思います。
きっと映画のシーンのように、劇場の前に行列ができたんだろうなぁって。

 

映画の作品情報についてはMIHOシネマさんの記事でもネタバレなしで詳しくご紹介されています。映画の成り立ちや、合わせて観たい作品もご紹介されていますのでぜひ見てみてください。

『彼女は夢で踊る』のスタッフ、キャスト

スタッフ、キャスト
監督・脚本・編集 時川英之
木下 加藤雅也
信太郎 犬飼貴丈
サラ 岡村いずみ
ヨウコ 矢沢ようこ
ヒモの金ちゃん 横山雄二
エツコ 國武綾
タカシ 末武太
バーテンダー 足袋井直弘
マミコ 前田多美
信太郎の元カノ 椎名ユキ
スナックのママ 松本裕見子
占い師 ゴトウイズミ
警官 大義サトシ
取材記者 深海哲哉
前社長 高尾六平

主演は加藤雅也さん
本作は加藤さんが本当に凄いです。岡村さんと並び、奇跡と言っていいキャスティングでした。

また『恋の渦』『サッドティー』などに出演した國武綾さんが、ストリッパー役として出演しています。広島県福山市出身の國武さんにとっては凱旋作品ですね!

実はこの作品を初めて知ったのは國武さんの2017年時のTwitterだったんですけど、撮影は同年に行われていたそうです。

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この映画は約1時間半の作品ということもありますが、あっという間にエンディングが来てしまったかのように感じるほど体感速度の早い作品でした。決して駆け足という意味ではありません。

セピア色の少しかかったあの広島の舞台にもっと染まっていたい。そう思える素敵な映画でした。

この後、本記事はネタバレ部分に入ります。映画をまだご覧になっていない方はご注意ください。



映画のネタバレ感想

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

官能からの逸脱

ストリップ劇場を舞台にした作品ということで、正直言って鑑賞前は官能的なシーンを覚悟していました。
ストリップ【strip】とは動詞としては「剥ぐ、脱ぐ」という意味を持つ単語です。

しかし、この作品の女性は確かに衣装を脱いでいくものの、そこにあるのは神々しさです。
「人間の体ってなんて美しいんだろう」という表現がこの映画には出てきます。

岡村いずみは過去に出演した『ジムノペディに乱れる』『ビジランテ』でも脱いでいたわけですけど、その過去二作品と比べてこの『彼女は夢で踊る』は官能性という意味では薄いと思います。
これはどちらが良いとか悪いとかではないです。ただそういうシーンに対して抵抗のある方でも、そんなに気にならずに見ることができるはずです。

ビジランテ タイトル画像

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『彼女は夢で踊る』で、ストリップ劇場の社長・木下(加藤雅也)は“ヌードの伝道師”と呼ばれる一方、「ストリップ劇場の社長だったら、ストリップ嬢とは……でしょ?」という問いにも「踊り子さんは商売道具」と独特の表現で一線を画します。
「ハダカを見せて、お金をもらう。そういう商売」と。
そんなセリフとは裏腹に、木下は、またこの映画はストリップという文化に、踊り子さんたちに圧倒的な敬意を示しています。

ストリップとはショーです。パフォーマーとそれを楽しむ観覧者が同じ世界に介在するショーです。
もちろん助平心で見にくるお客さんもいるでしょう。ただし劇場は前提として欲求を消化する場ではなく、芸術を鑑賞する場所です。
その芸術を発露する手段の一つとして、“衣装を脱ぐ”という行為があるんですね。

予告編動画で青年・信太郎(犬飼貴丈)が言っていたセリフをもう一度引用しましょう。

「そこには何かいやらしいものがあるのかと思ったが、そうではなかった」

僕のようにいくらかの覚悟を持って作品鑑賞に臨んだ人は、信太郎のこの言葉にきっとうなずくのではないでしょうか?

加藤雅也と犬飼貴丈

“ヌードの殿堂”なる劇場の社長(支配人と言ったほうがしっくりきます)である木下(加藤雅也)は最終公演でメロディー(岡村いずみ)という踊り子さんと出会います。

一方、同じ町で恋に破れ、ヤケ酒を煽っていた青年・信太郎(犬飼貴丈)は、そのバーでサラ(岡村いずみ)という踊り子さんと遭遇します。

歳も見た目も違う二人の男が出会った、二人の岡村いずみ。
木下は踊り子・メロディーを発端にある記憶を手繰り寄せていきます。そして観ている僕たちは、木下と信太郎が同一人物であることを理解し、作品に流れる二つの時間軸に没入していきました。

ストリップが隆盛を誇ったノスタルジックな過去と現実を突きつけられている現在が曖昧に交錯していく中で、加藤雅也がまた抜群に上手いんですね。
おでこを出し、いかつい眼鏡をかけ、口ひげをたくわえて。悪そうな、というか恐いオヤジです。
気難しい顔をして歩いてきたら、こちらが自然に道を譲ってしまいそうなタイプの見た目です。

ただし酒を飲む描写が多いわりにはつぶれやすいし、少年っぽさだったり退廃感をこのオヤジは醸し出しています。
勝ち気な広島の方言をにじませ、ひとりごちながら街を歩く姿には哀愁が漂っていました。

正直なところ、加藤雅也が演じた木下信太郎をなんと表現すればいいのかわかりません。
カタギっぽくない風情の一方で、恫喝するわけでも人を傷つけるわけでもなく、時には弱った姿も見せる。このオヤジ前科6犯とか言ってたけど、若い時はどんなだったんだろう?

その答えが犬飼貴丈の演じた青年・木下信太郎でした。
こっちの信太郎も凄かった。

信太郎がたどる夢の糸筋

青年期の信太郎はスーツに身を包んだ真面目な会社員。バーで一目惚れしたサラ(岡村)を追ってストリップ劇場へ入ります。
その後、彼女の一番近くにいることができる方法はと考えてストリップ劇場の従業員となり、(当時の)社長にどやされながらも必死に劇場を回していきました。

掃除の指示
信太郎社長(加藤)は従業員のタカシ(末武太)にしきりに指示を飛ばしていましたが、全く同じことを昔の信太郎(犬飼)は当時の社長(高尾六平)に言われていたんですよね。

信太郎は普通に好青年です。人ともちゃんと敬意を持って話すことができますし、仕事、踊り子への真摯な姿勢も素晴らしいものでした。前科6犯も劇場を守るためにやむを得なく重ねた(摘発を含める)ものであり、そこに暴力性とか事件性はありません。
サラへの愛は紛れもなく純愛です。だからこそ届かない距離と共にある純愛。

数十年後に強面オヤジになった信太郎ですが、その実は優しくてとても思いやりに満ちた人間なのです。歳を重ねるにつれて深まった思いやりは、人間くささと言ってもいいかもしれません。ぶっきらぼうだけど芯はあったかく、それをなかなか見せないようにする恥ずかしがり屋の人情派オヤジ。

劇場閉館に際して、またサラによく似たメロディーと出会ったことで、信太郎の劇場にまつわる記憶は次々と蘇っていき、物語に散りばめられた布石をゆっくりと拾っていきました。
ストリップ劇場で育った自分の人生をたどる作業。そこには確かに大恋愛をしていた信太郎がいたし、売れに売れていた時代がありました。

犬飼版・信太郎が仲間たちと劇場の上階で酒盛りをしているシーンに、現在の加藤版・信太郎が同席しているシーンは泣けました。バーで男たちにストリップはなんたるかをメロディーが懇々と説くシーンの種明かしもそうです。残酷ですらあります。

残酷ですけど、楽しそうなあの時間はもう今の信太郎が味わえない夢の空間。しかしそれでいて、古き良き時代だ云々と懐古主義に走るわけでもないです。この作品は昔の活気を取り戻そう!とか劇場復活に燃える男の挑戦劇ではないんですね。
そんな時代もありましたと、社長のオヤジが半生を振り返る、主観的で切なく、美しくも幻想的でもある夢物語でした。

1代前の社長(高尾六平)は現社長の信太郎に言いました。
劇場を辞めたあと、踊り子の夢を見ると。彼女たちが踊る夢を見ると。

終盤に誰もいない劇場で、自分の恋した女性・岡村いずみの舞いを初めて見つめる信太郎。

今思い出しても切なすぎます。

岡村いずみに女神を見た

最後にヒロインを演じた岡村いずみさんについて書きます。

この作品で彼女は青年時代の信太郎(犬飼)の頃に生きたサラという踊り子と、現在の信太郎(加藤)の前に現れたメロディーという踊り子を演じます。
サラは無邪気で喜怒哀楽の起伏が激しく、一方のメロディーは信太郎の全てを見透かしたような視点から冷静な視線を投げかけるキャラクターでした。メロディーに関してはもはや神の視点といってもいいかもしれません。時を経て劇場に舞い降りた妖艶な天使。

彼女の魅力は、役が憑依したような口ぶりにあると思います。
犬飼信太郎にテキーラを笑顔で勧め、出待ちをしていた彼に「怖っ」と言ったサラも、加藤信太郎に冷たい口ぶりで回想へといざなうメロディーも、確かに同じ岡村いずみさんが演じている中で、全く別人のように見えます。実際別人なわけですけど。

誘惑、快活、惑い、儚さ、憂い、感謝、軽蔑。貴女は誰?夢?現実?
大好きな女優さんであるにも関わらず、次第に岡村いずみというフィルターを外して鑑賞していました。
美しかったとか愛おしかったとか感動したとか、そんなもの全て前提条件で引っくるめて凄かった。凄すぎました。

ストリッパーとしてのサラ、メロディーを完璧に演じた身のこなしも同じです。
この映画は幻想的であり、いやらしさからも逸脱していると書きましたが、それを可能にしているのが二人の役への、またストリップそのものに対する矜持なんじゃないでしょうか。その矜持は神々しさすら漂います。

サラが海辺で体を露わにして舞うシーンもそうです。劇場で艶やかに振る舞うところもそうです。
ステージへ向かう階段の壁に唇を重ねるシーンもそうです。

信太郎が劇場の扉を開け、向こうの世界が「そうではなかった」と表現した神秘的な美しさを完璧に表現し、証明していました。
この映画を観る前に卑猥な先入観を持っていたことを心から恥じます。申し訳ありません。

 

あっという間の1時間半でした。もっとずっと、彼女が踊る夢の中に浸っていたいと心底思える素敵な映画でした。

岡村いずみさんの出演作品で個人的に推したいのは、チワワのような可愛らしさと狂気を両立した『かしこい狗は、吠えずに笑う』
また明るい女子社員・ダーヨシを演じたドラマ『たべるダケ』もおすすめです。興味のある方はどうぞ。

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