映画『サヨナラまでの30分』ネタバレ感想〜鉄板の北村匠海。そして葉山奨之〜

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こんにちは。織田です。

突然ですが、皆さんは「カセットテープ」に声や歌を吹き込んで録音したことがあるでしょうか?
好きなアーティストのCDをラジカセに入れてカセットテープに録音したことがあるでしょうか?
ペンを穴に突っ込んで、テープのゆるみを直したことがあるでしょうか?

CDが一般化し、MDが登場し、ストレージサービスが登場し、音楽(音声)の記録媒体が移り変わっていく中でだんだんと過去のものとなっていったカセットテープ。

そのカセットテープが、今回紹介する『サヨナラまでの30分』のメイントピックです。

2020年1月公開の本作品は新田真剣佑北村匠海のダブル主演。監督は萩原健太郎。

「ECHOLL」というバンドをテーマにした完全オリジナル作品の本作で使われる音楽は、文字通り本物のアーティストの曲が使用されています。

andropの内澤崇仁が、安井輝とともに音楽プロデューサーを務め、楽曲は内澤崇仁、odolGhost like girlfriendMichael Kanekomol-74から提供。

DISH//のVo.&Gt.としても活躍する「本職」の北村匠海はもちろん、新田真剣佑や他のキャストの奮闘ぶりも非常に光る青春音楽映画でした。

ECHOLL 「もう二度と」 (MV フル ver.)

劇中で使われる楽曲の数々は、みているこちら側がフェスに参加している錯覚に陥るようなクオリティの高さ。

音楽に全く詳しくない僕でもこう思うくらいです。好きな方がこの映画を見たら、きっともっとたくさんの感動とか、胸を打つポイントとか、「きたこれ!」と反射することができるんじゃないかなと思います。

上で挙げたアーティストが好きな方は是非どうぞ!



『サヨナラまでの30分』のスタッフ、キャスト

監督:萩原健太郎
脚本:大島里美
宮田アキ:新田真剣佑
窪田颯太:北村匠海
村瀬カナ:久保田紗友
山科健太:葉山奨之
重田幸輝:上杉柊平
森涼介:清原翔
村瀬しのぶ:牧瀬里穂
窪田修一:筒井道隆
吉井冨士男:松重豊

新田真剣佑と北村匠海は『十二人の死にたい子どもたち』などで共演経験あり。実際にお二人は仲良しということです。

作内のマドンナとも言えるカナを演じたのは『僕は友達が少ない』などに出演した久保田紗友

アキ、颯太のバンド仲間を『うちの執事が言うことには』清原翔『恋は雨上がりのように』葉山奨之『リバース・エッジ』上杉柊平が演じています。

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映画『うちの執事が言うことには』ネタバレ感想〜「お言葉ですが…」が恋しくて〜

2019年5月25日

 

あらすじ紹介

バンド「ECHOLL」がメジャーデビューを目前に解散してから1年後、メンバーたちの前に突然見知らぬ大学生の颯太が現れた。バンド再結成をメンバーに迫る颯太の中身は、なんと1年前に死んだボーカルのアキだった。颯太が偶然拾ったカセットテープを再生する30分だけ、アキは颯太の体を借りて入れ替わり、1つの体を共有していく。人づきあいが苦手な颯太もアキや仲間たちと音楽を奏でる楽しさを知り、次第に打ち解けていくがアキの恋人カナだけはバンドに戻ってくることはなかった。カナに再び音楽を始めてもらうため、最高の1曲を作り上げようとするが、アキと颯太の入れ替われる時間はだんだん短くなっていく。

出典:映画.com

未見の方は文字情報だけだとわかりづらいと思いますので、予告編を観るのが良いです。
ただ、あらすじを知らない状態で鑑賞しても人物の相関図は比較的簡単につかめるかと思います。

音楽面を先に書きましたが、映画としてもよくまとまっている良作です。

何者にもなれない主人公が自分の居場所を見つけていく青春作品にありがちな、お涙頂戴の展開は皆無。
「入れ替わり」(詳細はネタバレ感想で後述します)に伴う無理矢理感や、ご都合主義もありません。

音楽が好きな人も、出演俳優が好きな人も、よく練られた構成が好きな人も、閉じこもった世界で孤独な日々を過ごした人も。

普遍的にオススメできる映画というのはなかなかありませんが、この『サヨナラまでの30分』は自信を持って人に勧めることができる映画だと思います

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。



映画のネタバレ感想

以下、作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

入れ替わり

公式サイトの謳い文句は「彼が遺したカセットテープを再生する30分間、2人は1つの体を共有するーーアイツが彼女に会うたびに、僕も彼女を好きになる」。

ここで出ている「彼」「アイツ」はアキ(新田真剣佑)で、「僕」は颯太(北村匠海)「彼女」はカナ(久保田紗友)なのですが、このフレーズで想像されるような恋愛要素は実は多くありません。

上で述べた音楽映画としての側面と、内向きだった颯太が新しい世界に出会う側面。
そして(死んだ)アキと颯太の入れ替わり

この3つが、作品を構成している主なところかと思います。

「入れ替わり」というと『転校生』『君の名は。』に代表される1対1の入れ替わりが頭に浮かびますが、『サヨナラまでの30分』は死んだはずの人間の魂が他の人の身体を借りて憑依する形です。

広末涼子主演の『秘密』などに似ているかもしれません。

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映画『秘密』ネタバレ感想〜涙が止まりませんでした〜

2018年7月24日

また、実体としてのアキは颯太にしか見えません。
みんなには見えない幽霊が主人公にだけ見える点では、『若おかみは小学生!』のおっことウリ坊、『ヒカルの碁』のヒカルと佐為の関係にも近い構成です。

A面再生の30分間という時間の制約はつくものの、本作での入れ替わりは颯太がカセットプレイヤーの再生ボタンを押すことによって起こりました。

偶発的な入れ替わりではなく、颯太が自分の意思によって入れ替わりのスタートを操作できる点も面白さの一つです。
アキが「代わって」と颯太に頼むシーンは数知れず。

また、入れ替わりを繰り返していくことで、入れ替わる時間が短くなっていく現象も、「カセットテープ」「上書き」というキーワードを使って描いていました。

未来をこじ開ける強さ

入れ替わる颯太とアキ。
しかし、そのキャラクターは対照的なものでした。

部屋に閉じこもって自分の世界に没頭する颯太に対して、底抜けに明るいアキの口癖は「俺にこじ開けられないものはない」

その言葉通り、彼は(乗り移った)颯太として様々な難関をこじ開けていきます。

コミュニケーション能力。
行動力。
一歩を踏み出す勇気。

これでもかというほどに、颯太にないものをアキは持っていました。
そして(颯太の身体で行動することで)颯太の新しい世界を切り開いていきました。

 
水が抜けたプールで、自宅のベッドの上で。
孤独な場所で自ら打ち込んで作成してきた「自分の世界に閉じ込めておくべき」音楽を、アキに勝手に一般公開されたことでアキは憤ります。

炎上したくない。
笑われたくない。
こんなものを公開したら人生の黒歴史になってしまう。

正直なところ、僕のマインドも颯太と近いものがありました。

自分の好きなものを外に公開するのは怖いから。
自分だけの世界はとっても心地良いから。

けれど、そんな颯太を、僕を、アキは一蹴しました。
何にも怖がることなんかないんだと。

外への一歩を踏み出す勇気がない颯太にとって、そんな颯太の気持ちがとてもわかる僕にとって、凄く凄く響きました。



周りの仲間が最高

ボーカルのアキの死後に「ECHOLL」が解散したことに伴い、バンドのメンバーたちはやさぐれてしまいます。

ギターのヤマケン(葉山奨之)
ベースの森(清原翔)
そしてドラムの重田(上杉柊平)

タバコを吸いながらたむろする彼らはどこからどう見ても怖く、ただの不良にしか見えませんでした。

そんな彼らの止まった時間を、颯太に乗り移ったアキはこじ開けていきます。
やさぐれていたメンバーたちは「アキの香りがする颯太」を認め始め、次第にそこから「アキの香りがする」という形容詞は無くなっていきました。

アキの後釜や代わりとしてではなく、颯太という新しいボーカルを、彼らは信頼して支えようとしていきます。

ヤマケン超いい奴じゃない?

久保田紗友が演じたカナも含めて全般的に演技面も穴はなかった中で、とりわけ印象的だったのがギター担当のヤマケンを演じた葉山奨之です。
ちなみにヤマケンは山科健太の略。自称もヤマケンです。

主人公に猛アタックをする引き立て役(?)の同級生を演じた『恋は雨上がりのように』という映画でもそうだったのですが、彼は困った顔と嬉しそうな笑顔が本当に上手な役者さんです。

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2019年12月24日

アキとカナの去ったバンドで、止むを得ずボーカルを務めることになった時の困った顔。

傷心の静かな世界にズカズカと踏み込んできた颯太(アキ)を一喝した時のキレた顔。

颯太の加入を心から喜ぶ顔。

そして、連絡の取れなくなった颯太の家にやってきて泣きそうになりながらドアを叩く顔。
この場面は本当に胸が熱くなりました。

僕が颯太だったら、ヤマケンのことは決して裏切れないという気持ちになったはずです。困惑と嬉しさが入り混じったはずです。
「いいのか?」と聞いた颯太の父親(筒井道隆)も、自分の息子にこんな友達がいたのかと嬉しい気持ちがあったはずです。

(アキとは少しベクトルの違う)こんな熱い友達がいたら、どんなに幸せなことでしょうか。
颯太がとても羨ましく感じられたシーンでした。

衣装選びも上手い!

加えて、この作品は役者の衣装のチョイスが秀逸です。

いつも同じ服を着ている(死者の)アキは別にして、森はプレーンな開襟シャツ、重田はオーバーサイズのカットソー、ヤマケンは80年代っぽいレトロな柄のシャツにソックス見せのレザーシューズと、近年のトレンドをしっかりと押さえたアイテムを身にまとっています。

重田はディッキーズのカットソーもよく似合っていましたね!

おそらく古着を使いながらだったと思いますが、衣装さんのセンスが非常に光っていました。
三者三様の個性的かつ、手の届きそうなコーデはファッションスナップに載っていても全くおかしくないレベル。

今風のファッションシーンを描写している点では、2019年公開の『ホットギミック』にも通じるところがありました。

「僕」を演じる北村匠海は無敵

最後に主演の北村匠海についてです。

冒頭で少し触れたように、DISH//でも活躍する「本職」として、北村匠海はハマり役でした。
アキが乗り移っていても実体は颯太な訳で、本作品の北村匠海は実質一人二役を演じています。

アキの歌声、颯太の歌声。
二つを使い分ける、演じきった彼は、これだけでも疑いようのない主人公と言えます。

しかし。だがしかし、であります。

『サヨナラまでの30分』で北村匠海が演じる颯太は、閉じこもりがちで他者との関係を拒絶する陰キャくんだったのです。

北村匠海が映画界で一躍脚光を浴びたのは2017年の『君の膵臓をたべたい』と言っても過言ではありません。

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映画『君の膵臓をたべたい』ネタバレ感想〜ボロ泣き必至〜

2017年8月15日

あの映画で北村匠海は内向的で友達のいない「僕」を演じました。ものの見事に。

本作『サヨナラまでの30分』でも、北村匠海はうつむき加減でボソボソと喋り、友達づきあいを拒否します。

颯太の身体で一人称「俺」を名乗ろうとするアキに対しては、「僕!」と変更を強要します。

もうこの時点で、颯太というキャラクターの成功が約束されたようなものです。
「内向的な僕」を演じさせたら北村匠海は鉄板。いや、最強です。

相手の顔を見て話すことすらできなかった颯太が、映画の後半ではしっかりと目を合わせて話せるようになったのも、彼ならではの演技の味と言えるでしょう。

変わる前の「僕」と変わった「僕」、それにアキの乗り移った「俺」。
3つの顔を演じた北村匠海は、名作『キミスイ』を超えたと個人的には感じています。

上でも述べてきたように非常に完成度の高い映画。その中で北村匠海と葉山奨之の魅力を再確認できたのは幸せでした。