映画『太陽を掴め』ネタバレ感想〜ギラッギラに輝く吉村界人〜

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こんにちは。織田です。

2016年の映画『太陽を掴め』をAmazon Prime Videoで鑑賞しました。
複雑な思いを抱えながら生きる若者たちの苦しさ、切なさ、弱さ、そして強さを中村祐太郎監督が描いた作品です。

主演を務めたのは吉村界人

『百円の恋』(2014)のコンビニ店員役や『ビジランテ』(2017)の自警団員役などを演じた役者さんです。

『太陽を掴め』では、この吉村界人が演じる青年「ヤット」の一匹狼ぶりが半端なく突き刺さりました。

孤独とやるせなさと、他者になびかない頑固さと、それでいて誰かに生かされている現実と行き場のない想いのやり場と。

どうしようもできない運命の恋に諦めたり、誰かのために自分の想いを封印した経験がある人にはとても響く映画だと思います。
ギラッギラにギラついた吉村界人が響かせてくれるはずです。

ちなみに『百円の恋』で「マジすか」を連発する吉村界人はとても可愛いので興味のある方はどうぞ!

『太陽を掴め』のスタッフ、キャスト

監督:中村祐太郎
脚本:中村祐太郎、木村暉
ヤット:吉村界人
タクマ:浅香航大
ユミカ:岸井ゆきの
サラ:三浦萌
プル:森優作
ヤットの兄:松浦祐也
キョウコ:内田淳子
ユウスケ:柳楽優弥
ユミカの父:古舘寛治

中村祐太郎監督は間宮祥太朗の主演映画『全員死刑』にドロちゃんという役で出演。脚本の木村暉さんとは多摩美術大学の頃からタッグを組んでいます。

あらすじ紹介

元子役の人気ミュージシャンのヤットとフォトグラファーのタクマ、タクマの元恋人のユミカは高校時代の同級生。ユミカに想いを寄せるヤットだったが、彼の人気はタクマに撮ってもらうかっこいい写真に負うところが大きかった。そのため、タクマに対して複雑な感情を抱いているヤットだったが…。

出典:allcinema

映画の根っこにあるのはヤット(吉村界人)タクマ(浅香航大)ユミカ(岸井ゆきの)の三角関係でしょう。
ただ、この作品が訴えかけてくるのは恋慕の矢印だけにとどまりません。

吉村界人が演じるヤットのほとばしる熱量、そして孤独に苛まれる若者たちの寂しさをたっぷり感じられる映画になっています。

また、東京都大田区の大森地区や平和島地区でのシーンが多く、そちらに土地勘のある人も楽しめるかと思います。

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。



映画のネタバレ感想

以下、作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

愛されたい。誰に?

ヤット(吉村界人)はかつて子役をしていたミュージシャン。
子役時代に失敗してしまったことで、ヤットの一家はボロボロになってしまいました。

そんな中、高校時代の友人・タクマ(浅香航大)の撮る写真によって、また、タクマの義理の母親であるキョウコ(内田淳子)というパトロンに(愛人関係となって)プロデュースしてもらいながらミュージシャン、モデルとして人気を博していきました。

タクマに対しては友人としての感謝、仕事をもらう立場としての義理がある一方、タクマとダラダラと関係を続ける元恋人・ユミカ(岸井ゆきの)のことが今でも好きで、複雑な感情を抱いています。

誰かのおかげで自分は生かされていて、その誰かから逃れることができない。
ヤットの根底に流れているのはそんな孤独かもしれません。

一方のタクマもまた、義母が自分ではなくヤットのことを可愛がっていることに寂しさを人知れず抱えていました。

人になびかないヤットを見て、どうして義母さんは俺ではなくてヤットなんだと思うこともあったかもしれません。

写真家として確かなキャリアを歩んでいこうとしていながらも、クスリの闇ブローカーに手を染めたタクマ。
彼の部屋には「葉っぱ」を求めてプル(森優作)サラ(三浦萌)という男女がしばしば上がり込み、ドラッグパーティーに興じます。

狂乱する彼らを笑いながら見つめるタクマはその間、孤独や寂しさを忘れることができたのでしょう。

タクマのことを実は本気で想っていたサラ、タクマが愛情を授かりたいと願っていたキョウコを含めると、この作品は単なる三角関係を描いたものではありません。

寂しさを抱える人たちの矢印は、悲しいほどにすれ違っていきました。本当に大切にしてほしい人に、愛されることができない寂しさです。

吉村界人の熱量を感じましょう

冒頭で書いたように、『太陽を掴め』の最大の見所はヤットを演じた吉村界人のほとばしる「熱量」です。

「熱さ」には色々な種類があると思いますが、特に注目したいのは吉村界人の「目」
誰にもなびかないという意志と、孤独の寂しさを合わせ持った鋭い眼光が、こちらの心を容赦無くえぐってきます。

ユミカに対して「ちげーよ!」と言葉を荒げながらも頬を赤らめるヤット。
挑発する兄(松浦祐也)に対して睨みつけるヤット。
想いを伝えることができず荒くれてしまうヤット。
ユミカからメールの返信が来て相好を崩すヤット。

ヤットの様々な喜怒哀楽を表現する中で、最も印象的だったのは「哀」の部分でしょうか。

自分の顔を殴りながらフラフラと平和島の街を歩くヤット。
無力な自分を嘆くセリフや、痛めつける拳以上に、彼の目が雄弁にやるせなさを物語ります。

感情の針が振り切れた状態を、「狂気」という言葉を使って表現することがありますが、本作のヤットは狂気まで至っていません。
(ユミカがタクミにあげた)キーホルダーを譲り受けて大事に持っていたように、彼はあくまで根は優しい男の子なのです。

だからこそ、その純情さゆえに溢れ出す自分の感情。
それらを純粋な言葉とともにギラついた目で表現し続けた吉村界人。

ここまでダイレクトに本能とか感情を表し、観る側にグサグサと突き刺してくる俳優はなかなかいません。

ラストシーンでは「塗り替えるのは僕らの世代」というフレーズがクローズアップされます。

これは吉村界人自身が現在も座右の銘としているもの。
彼自身にとって『太陽を掴め』がどれほど重要だったか、また『太陽を掴め』がどれほど吉村界人に重ねられた映画だったかを考えるには十分なシーンでした。

岸井ゆきのの「…ごめん」

最後に岸井ゆきのが演じたユミカという女性の特異性について少し触れたいと思います。

『愛がなんだ』『前田建設ファンタジー営業部』で岸井ゆきのが演じた恋愛体質の女性とは少し異なるユミカ。

ただ、男が放っておけない女という点では、岸井ゆきのという女優には大きな才能があることを改めて再確認しました。
魔性の女ですね本当に…(褒めてます)。

元彼のタクマとなおも仲良しの関係を続けているユミカ。
薬物使用に巻き込まれたり、タクマのことが好きなサラに敵視されたりしますが、何よりも気になったのはタクマがキスを迫ると「ごめん」と言って断る時が多かった点です

「手相を見てあげましょう♪」とか言ってタクマの手のひらを触ったりイチャイチャする一方で、一線を引こうとするユミカ。

じゃあきっぱり会わなければいいのに、何でタクマのところ行くんだろう?
観ながらそう思った人もいるかもしれません。

僕もユミカにとってのタクマって何?と思っていましたが、実際にタクマが自分で問いただしてくれましたね。

それに対しても「…ごめん」
さすがにこれにはタクマが可哀想になりました。

でも、そんな思わせぶりな彼女になぜタクマがまだ執着し、ヤットが好きになるのか何となくわかる気もするんです。

裏表のないユミカに、屈託無く笑うユミカに、自分の一番そばにいてほしい。自分が守ってあげたい。

追いかけ「られる」岸井ゆきのが観られるのも本作品の面白いところかもしれません。

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最後までお読みいただき、ありがとうございました。